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【現地発】なでしこジャパン“ニューヒロイン”谷川萌々子の現在地:強豪バイエルンでの戦い「本当にこれからだなと」

取材・文=林遼平

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    強豪バイエルンでの戦い

    なでしこジャパンの若き新星が、ドイツの地で新たなスタートを切っている。

    谷川萌々子のバイエルン移籍が決まったのは2024年1月のことだ。当時、JFAアカデミー福島に在籍していた谷川は、ドイツの名門とサインし、2024年シーズンは期限付き移籍によりスウェーデンのFCローゼンゴードでプレーすることになった。そこで20試合16得点を記録し、ボランチながら得点王に輝いた谷川は、高い評価を得て今年の1月からバイエルンに復帰。新天地で新たな戦いに身を置くことになった。

    ただ、チームに加入して以降、最初はなかなか出番を得ることができなかった。“連覇中の王者”という事実からもわかるようにレギュラー争いは熾烈。加えて、シーズン途中からの合流になったことで、チームの戦術にフィットするまでに時間を要した。

    実際に試合を見ればわかるが、バイエルンは後方からボールを組み立てていく中でもかなり流動的な動きが多く、ビルドアップ一つをとってもいくつもの戦術パターンがあることが読み取れる。そういったところにすぐにアジャストしていくことは簡単ではない。

    また、リーグのレベルが上がったことによる改善も求められた。「一つひとつのプレー強度が一段と上がっていますし、プレースピードをもう一つ上げる必要がある」とは谷川の言葉だが、新たなリーグのレベルに自身をフィットさせることにも多少の時間も必要だった。

    そうして少しずつチームのトレーニングで改善を続けた結果、2月9日のホッフェンハイム戦で途中出場ながらドイツデビュー。その3日後に行われた女子DFBポカール準々決勝のフランクフルト戦では、後半40分からの交代出場となった中、加入後初得点となる豪快なミドルシュートや3人を抜く圧巻のアシストと1ゴール1アシストの活躍を見せ、チームの勝利に大きく貢献するパフォーマンスを披露している。

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    冷静に振り返る課題

    そして先月参加したシービリーブスカップで大会歴代最速となる試合開始18秒でのスーパーゴールを記録するなど、なでしこジャパンの大会初優勝に貢献した谷川。代表での戦いを終えて再びドイツの地に戻り、9日の女子ブンデスリーガ第16節・ケルン戦で2試合連続となる先発出場を飾る。

    ケルン男子チームのホームスタジアムであるラインエネルギーシュタディオンに35000人を超える観客を集めた一戦は、連覇中の王者が試合を通して力を示すことになる。攻撃面では左サイドのドイツ代表FWクララ・ビュールが躍動感ある仕掛けからチャンスメイクすれば、前線ではデンマーク代表FWペルニレ・ハルダーが力強いプレーからシュートを狙うなど、バイエルンが分厚い攻撃で敵陣を打開。何度もチャンスを作っていき、結果的に3-0で勝利を手にした。

    しかしこの試合、右サイドハーフで出場した谷川にとっては悔しさの残るゲームとなった。というのも、前半と後半を合わせて3度シュートチャンスを手にしたが、どれもフリーで打てる状況にあったにもかかわらず、ゴールネットを揺らすことができなかった。ポジショニングを含め、課題の多い試合だったと谷川は振り返っている。

    「個人としては決めるチャンスが多くあった中で、しっかり決め切れなかったのは次に向けて改善していかないといけない。オフェンスの部分でももっとボールを受けて、攻撃の起点になるようなプレーをしないといけないと思います。改善すべきところがたくさんあるなと感じました」

    ボールを受けるという点では、本職であるボランチと異なるポジションでプレーしている難しさもあるだろう。周りの立ち位置を見ながらうまく間に顔を出そうとしていたが、スムーズに前へと運べる機会は少なかった。それは「相手の2列目と3列目の間で受けて、ターンしてスルーパスというシーンをもっと増やしていきたい」と谷川も感じており、「まずはピッチに立つことが一番だと考えている。どのポジションであったとしても、そこで必要なことをやる、ベストを尽くすというのは個人的に考えているところ」とするならば改善が必要になることは間違いない。

    シュートシーンにしても、「少し力が入りすぎていたかなと。しっかりコースを見れていなかった。来たボールに対して抑えようという意識しかなかったので、コースを狙うことが必要だった」と自身のプレーを分析。こういったプレーを繰り返しながら課題を解決していくことが求められる。

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    「本当にこれから」

    もちろん、まだ加入して約2カ月が経った程度。戦術的にもやりがいのあるチームでさらにフィットしていけば、より多くの結果を生み出すことができるかもしれない。ドイツでの生活にも慣れ、心身ともに環境に適応し始めた谷川は、さらなる向上を見据えている。

    「本当にこれからだなと思っています。一喜一憂せず、またすぐに試合があるので、そこで勝負を決められるようなプレーをしたい。今日の試合を振り返って、次に繋げていきたいと思います

    残りのシーズンに向け、「まだ3つの大会に残っているので、その大会で優勝することがチームとしても個人としても目標です。そこにどれくらい絡めるのか(今後の)自分にも期待しています」と笑顔を見せた谷川。ドイツで一つひとつステップを踏む“ニューヒロイン”が、シーズンが終わった時にどんな結果を残しているのか今から楽しみだ。

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