Messi Guardiola NO TITLEGetty Images

「現代サッカーはあまりにも“平均的”で退屈で、もうハイライトで十分かもしれない」【特別寄稿】

「(現代サッカーは)科学、数字、フィジカルがベースとなった。足の速い選手と少し遅くて才能のある選手なら、前者が起用される。試合で起こることが見え透いてる。ほとんどのチームが単調だ」

かつてスペイン代表で活躍し、ワールドカップ制覇も成し遂げたセスク・ファブレガス(現コモ指揮官)がスペイン大手メディア『マルカ』のインタビューで語った言葉だ。そして彼だけでなく、ロナウド、グティ、ダビド・シルバ、さらにミシェル・プラティニなど、往年の名選手たちが口々に「サッカーの魅力がなくなっていく」現状を嘆いていた。

では、本当に「現代サッカーは魅力がなくなっている」のだろうか? そうであれば、その原因はどこにあり、そしてサッカー界の未来はどこに向かっていくのだろうか? スペインで唯一無二の存在感を放つフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』のルジェー・シュリアク氏が切り込んでいく。

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎

  • Tottenham Hotspur FC v Chelsea FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    メタファー

    チェルシーの指揮官エンツォ・マレスカは、34選手を抱えながら2024-25シーズンをスタートさせた。

    ……トップチームだけで34選手! それはフットボール界において前例のない人数であり、だからこそ数え切れないほどのミームで揶揄されてきた。

    もちろん、彼らには彼らの戦略があるのだ。今夏、選手の代理人業を営む私の友人が教えてくれた。

    チェルシーは夏の間、選手たちを全員混ぜ合わせることなく、それぞれのクラスに応じたグループに分けて練習させて、各大会のために複数の“イレブン”を用意した。

    今夏クラブに加わった若手選手であれば、綿密な育成プランが組まれている。今季は10試合、来季は15試合と徐々に出場機会を与えられる彼らの最終目標は、プレミアリーグでプレーする“Aチーム”に到達することであり、その前にはカンファレンスリーグなどでプレーする“Bチーム”で結果を残す必要がある。もし期待通りに成長していかなければ……レンタル移籍となるか、もしくは売却だ。

    以上に記した選手たちの取り扱い方は、一般的な工場の生産フローに近い。厳格なプロセスのもとで、個々がしっかりと管理され、すべきプレーを叩き込まれ、創造性が生み出す近道など存在しない。

    数vs質、ビッグデータ、投機買い、聖杯のように崇められるメソッド……。チェルシーは、未来のフットボールの完璧なメタファーである。

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  • Lionel Messi Neymar BarcelonaGetty Images

    問答無用のスーパースター

    何度問いかけたって、足りない。観客を条件反射的に席から立ち上がらせた、あのアナーキズムな天才たちはどこへ行ったのだろうか? 自分を主人公とする戦いとチームの戦いと、“二つの試合”に同時に臨んでいたあの選手たちはどこへ行ったのだろうか? 監督に食ってかかる選手を最後に見たのは、いつだったのだろうか? すべての問いかけは、この現代フットボールの虚無の穴に吸い込まれていく。

    アルフレド・ディ・ステファノ、ペレ、ヨハン・クライフ、ディエゴ・マラドーナ、ジーコ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウジーニョ、リオネル・メッシ……彼らは問答無用のスーパースターだった。フットボールという楽譜を自分なりのやり方で解釈し、即興もふんだんに盛り込み、自分の内にある本能や衝動を大切にしてボールを蹴った。ベンチから彼らに“フットボール”を教えるのは、無粋でしかなかった。

    もちろん、現代フットボールだって偉大な才能を生んでいないわけではない。ヴィニシウス・ジュニオール、キリアン・エンバペ、アーリング・ハーランドは現在、世界で最も決定的な存在と称せる3人であり、凄まじいスペシャリストである……。が、結局はトータルフットボーラーではない。

    彼らはピッチ上の限定されたエリアで爪を尖らせて、そのプレーでチームに勝利やタイトルをもたらす。しかし過去の偉大な選手たちと比べれば、その支配力はピッチ全体に及んでいるわけではなく、限定されている。片や、かつての“決定的な存在”は、その足元にボールが届けばピッチのすべてを支配した。観客も同じく芝生に立つ残りの21人も、その選手がどんなことをしでかして、試合にどれほどの影響を与えるのかを、固唾を飲んで見守った。「メッシこそが試合なのだ」。そんなことを語る人だっていたほどだ。

  • GFX VAR Offside Premier LeagueGetty/GOAL

    現代サッカーが“殺した”もの

    世界最高クラスの選手から感じ取れる違いにも表れる通り、“過去と現在のフットボールの関係性”は、かつてないほどに薄れている。今日の学術的かつフィジカル的なフットボールはどうやら、私たちが知るフットボールを殺めてしまったようだ。本能やストリートに由来する、閃きに重きを置いた私たちの愛するスポーツは、もう戻ってくることはないのだろうか? ……未来は、決して明るくないように思える。

    現代フットボールは行き過ぎた分析の中で行われている。チームパフォーマンスのディテールをミリメートル単位で管理し、リスクを極力排除して、つくられた均衡の中、スペシャリストに数少ない適切なタイミングで効果を発揮させる。かつてのフットボールが演劇性&創造性あふれる舞台だとしたら、今は世界征服戦略のボードゲーム“リスク”を見ているかのようだ。……無論、誰かがプレーするボードゲームを横から見ているよりも、演劇の舞台を見ている方が、ずっと楽しいと思うのだが。

    現代フットボールはまた、以前のような純粋なフットボール的な能力の高さよりも、知識と道具で優位に立つスポーツだ。勇敢かつアグレシッブなプレーを見せるハンジ・フリックのバルセロナにしても、新たな道具なしには成り立ない。あのハイライン&オフサイドトラップは、半自動オフサイドテクノロジーなしでは無謀な挑戦だったろう。運を人(副審)に任せるのは、あまりにもリスクがあり過ぎる。

  • substitution football(C)Getty Images

    5人交代制の功罪

    もう一つ忘れてはいけないのが、新型コロナウイルスのパンデミックから選手の交代枠が3つから5つに増えたことである。新型コロナの感染者に苦しみつつ、過密日程をこなしていくチームの救済策として導入された5人交代制は、じつはフットボールを根本から変えるものだった。

    フィールドプレーヤーの半分を交代できれば、チームの総力戦(陣容の厚さ勝負)となることは不可避である。加えて、90分を通して全力でプレスを仕掛けられるようになったことで、スタミナ配分の駆け引きや、攻撃の選手が個人技を見せるスペースと余裕も失われた。私たちは前線からプレスをかけ続ける、まるで手錠をかけられているような息苦しい試合ばかりを目にしている。……5人交代制がなければ、今ある過密日程を乗り越えるのは難しい? むしろ金のことしか考えていない組織の連中は、5人交代制でできた余裕の分だけ試合を詰め込もうとしているように思えるのだが。

    5人交代制は試合の見どころを増やすと思われたが、蓋を開けてみればフィジカル的なフットボールを増長させ(あれだけのスピードで、時間とスペースがない中でプレーすればテクニックはどうしても犠牲になる)、堅守速攻やポゼッションといった各クラブのプレースタイルをなくし、監督の影響力をさらに増大させた。私たちは監督が介入し続け、2チーム合計で32選手がプレーする試合を目にしている。ピッチ上はもはや何かが自然発生する場ではなく、監督の頭の中そのものなのかもしれない(ラ・リーガでは2強+アトレティコ・デ・マドリーとその他のクラブの戦力格差も進んでおり、入れ替わり立ち替わりプレーする中小チームの選手たちのことまではもう覚えられない……そんな意見もよく聞くようになった)。

  • referee(C)Getty Images

    “未来のフットボール”

    どこかのチームの名前を言われれば、そのプレースタイルとスタメンの11人の名前と顔と特徴が即座に浮かび上がる……。別に、そんなノスタルジーに浸りたいわけではないのだが、しかし現代フットボールは均質化があまりに進み、ハイライトだけを見れば済むような退屈なものに変貌を遂げてしまったような印象がある。

    パリ・サンジェルマン指揮官のルイス・エンリケは、『モビスタール・プルス』が放送した彼のドキュメンタリーで、こんなことを語っていた。

    「“未来のフットボール”では、監督が上(スタンド)にいて、ヘッドセットですべてをコントロールするんだ。試合をモニターを通して見ながら、選手に直接『ルーカス、中に絞れ。このフェーズでは絞るんだ』と指示をしながらね。私にとっては素晴らしいことだ。たとえ選手たちのことを殺すとしてもね」

    「ヘッドセットで通信するほか、電気で痛みを与えられるなら完璧だ。プレッシングに行かないで楽していれば、スイッチを入れて電気を流し、前に走らせるんだよ」

    彼の描く“未来のフットボール”では、選手たちはロボットのように生産されているのだろう。いや、チェルシーの様子を見ていると、その未来はもう訪れているのかもしれない。

    たとえ私たちが目にしたいのが、ヘッドセットで指示する監督の声が聞こえてくるイヤホンを外し、地面に叩きつける選手であるとしても。

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