Manchester-City(C)Getty Images

3冠達成マンチェスター・シティの魅力とは?実況者・下田恒幸氏が印象に残る試合も明かす/インタビュー

今夏、日本には多くのビッグクラブがやってくる。

パリ・サンジェルマンやインテル、セルティックなど欧州でタイトルを勝ち取ったクラブが日本でプレシーズンを送っている。中でも、注目を集めているのがマンチェスター・シティとバイエルン・ミュンヘン。前者は2022-23シーズンの3冠達成チームで、後者はブンデスリーガ11連覇中の「ドイツの盟主」だ。

そんな欧州でも指折りのビッグクラブが7月26日に激突する。チャンピオンズリーグでも火花を散らした両チームの一戦はどのようなものになるだろうか。プレミアリーグ、ブンデスリーガともに造詣の深い下田恒幸氏に話を聞いた。

  • Bernardo-Silva(C)GettyImages

    3冠達成チームの魅力とは?

    ――マンチェスター・シティは2022-23シーズン、ジョゼップ・グアルディオラ監督の下でついに3冠を達成しました。振り返ってみてください。

    まさに「蓄積」と呼ぶべき7年間を経て、今季はその集大成だったと思います。ペップが就任した最初から今のようなサッカーができていたわけではありません。例えば、最初にペップがシティで優勝した2017-18シーズン。替えが利かなかったケヴィン・デ・ブライネを使い続けました。そのため彼は翌シーズン、ケガに苦しむことになる。つまり初期段階はこのパーツ(デ・ブライネ)は外せないというのがありました。ところが、ペップが指導していくうちに(イルカイ)ギュンドアン、ベルナルド・シウヴァ、(リヤド)マフレズ、(フィル)フォーデンらが進化し、5年前まではデ・ブライネに頼らざるを得なかった要素を、彼でない選手たちが遂行できるようになりました。

    また、(2021年に)セルヒオ・アグエロがいなくなった時は、センターフォワードいないなりに全員で点が取れるチームを作りました。でも、やはり(CFは)いたほうが…というところに(アーリング)ハーランドを連れてきた。なんでもできる選手が6~7人いる中で点取り屋がいれば、それは強い。本当に隙がないなと思います。

    ――そのシティの魅力はどこにあるでしょうか?

    止めると蹴るのレベルが今の欧州で最も高いところで揃っていることじゃないですか。基本技術のブレのない選手が揃っていて、センターバックも含めてレベルが高い。ボールスピードやボールを蹴る音、軌道など、普段我々がJリーグで見ているものとは全く異なるものが見られるんじゃないかなと思います。彼らはトリッキーなプレーするわけではありません。ただ止めてから次を選択するのが早いですし、選択するものの質も高いです。そこに通すの?というパスが平然と出てくる。それがマンチェスター・シティなんじゃないですかね。

    ――その中でも、下田さんが注目してほしいシティの選手を教えてください。

    一番はベルナルド・シウヴァ。彼の凄さは凄く説明しづらいですが、うまいという大前提があった上でチームのために身を粉にして働ける選手です。例えば(ルカ)モドリッチみたいに分かりやすいスルーパスを出すわけではありませんが、どんなに敵が近くにいてもボールを受けて起点を作りますし、ほとんどボールを失わない。

    加えて守備への切り替えが高いレベルで堅実。現代サッカーではその仕事がちゃんとできないと生きていけませんが、彼が守備に切り替わった時は凄みさえ感じることが多々あります。多くの人がハーランド、デ・ブライネ、ルベン・ディアスに注目すると思いますが、ベルナルド・シウヴァの職人ぶりは必見です。彼を見ているといつも何らかの「発見」があります。

  • 広告
  • Ilkay Gundogan Man City title winner 2022 HIC 16:9Getty

    実況者として印象に残っている試合

    ――これまで実況してきて、印象に残っているマンチェスター・シティの試合はありますか?

    自分が中継を担当した試合で特に印象に残っている試合は2つ。

    1つ目は2021-22シーズンの最終節、アストン・ヴィラ戦ですね。マンチェスター・シティは優勝のために勝つ必要があったのですが、0-2とされてしまうんです。でも、途中出場のギュンドアンが2得点を挙げ、ひっくり返して勝ちました。大一番で弱いと言われていたペップがああいう勝ち方をしたことがすごく印象に残っています。ペップのチームが勝つときは最初に先制して押し切っちゃうことがほとんどですから。

    2つ目は、2017-18シーズンの最終節。すでに優勝は決まっていた中でのサウサンプトンとのアウェー戦です。勝てばプレミア史上初の勝ち点100という試合でしたが、シティにとっては消化試合。ただペップは消化試合ではない空気感を作っていました。一方のサウサンプトンの残留はほぼ確実、ホーム最終戦なので王者に一泡吹かせてやろうという気概が出た戦いをしたため、シティにとってはタフな試合になりました。0-0で終盤を迎え、「やっぱり勝ち点100は難しいんですね」という話を放送でして迎えた94分にデ・ブライネのロビングのパスから、ガブリエウ・ジェズスがループシュートを決めてそれが決勝点になったんです。まさに“サヨナラゲーム”みたいな感じでしたので凄く印象に残っています。

    ――では、バイエルンの試合で印象に残っているものはありますか?

    2019-20シーズンのチャンピオンズリーグ決勝ですね。バイエルンとパリ・サンジェルマンの試合で、レベルが非常に高かった。バイエルンは黄金期で、パリにはネイマールや(キリアン)エンバペがいました。コロナ禍で観客も歓声もなく、練習試合みたいになってもおかしくない環境でしたが、CL決勝という舞台で強豪同士が対戦すると、無観客でもこれだけの試合になるのかと驚きました。

  • John Stones Manchester City Bayern Munich 2022-23Getty Images

    シティvsバイエルンの見どころは?

    ――マンチェスター・シティとバイエルンが7月26日に対戦します。2022-23シーズンのチャンピオンズリーグでは、合計スコア4-1でシティが勝利しましたが、日本での一戦はどのようなものになるでしょうか?

    両者の調整の状況にもよりますよね。特にマンチェスター・シティはCLも獲ったので、主力選手はかなりしっかり休ませるのではないかと思います。カタール・ワールドカップもあり、疲労が溜まっているでしょうから。

    そうなると、バイエルンよりもマンチェスター・シティの方が調整の色合いが強くなる可能性があるかもしれません。とは言え、シティはアカデミーも優秀なので若手がチャンスを得る可能性があります。フォーデンや(コール)パーマー、シティではプレーしなかったけど(ジェイドン)サンチョなど近年の人材輩出レベルは高いですから、マンチェスター・シティの次代を担っていく可能性のある若い選手が生で見られる可能性があるかもしれません。

    ――一方でシティは、8月6日にはアーセナルとのコミュニティ・シールドも控えており、8月19日にはプレミアリーグ開幕を迎えます。

    そう考えると公式戦初戦までそれほど時間がないんですよね。同時にCLで当たる可能性がある強豪クラブ(バイエルン)に対して、プレシーズンだけど勝負にもこだわって戦う可能性は十分ありますよね。マンチェスター・シティがどういう調整プランで来日するかにもよりますが。

    期待として、前半だけでも両チームフルメンバーで、バチバチに戦ってほしいですよね。そうなると欧州の本当のトップレベルの試合が見られるわけですからチケットを買って見に行った方はかなり得した気分になれるんじゃないかなと思います(笑)。