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リヴァプールと日本人選手の親和性は高い?遠藤航が愛される理由「労働者階級のファンが多いからこそ…」/イアン・ラッシュ独占インタビュー第2回

世界屈指の強豪リヴァプール。イングランド北西部マージーサイドを本拠とし、トップリーグ優勝20回、欧州制覇6回を誇り、世界中の至る所に巨大なファンコミュニティを持つメガクラブである。

そんなリヴァプールの歴史上、最もゴールを奪ったのがイアン・ラッシュ氏だ。通算15年の在籍で積み重ねたゴール数は「346」。2度の欧州制覇や5度のリーグ優勝に導いた正真正銘のレジェンドである。そんなイアン・ラッシュ氏が、『GOAL』独占インタビューに登場。愛するクラブの他、遠藤航や日本代表チーム、そして現代サッカーや「ゴールを奪う」ことなど、様々なテーマに言及していく。

独占インタビュー第2回は、リヴァプールで活躍する遠藤航、さらには日本人選手のイングランド挑戦が増えている理由や重宝される理由を語る。

インタビュアー=河又シュート(『GOAL』編集部)

※2025年7月30日実施

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    監督にとって「夢のような選手」

    2023年夏の移籍市場最終盤にリヴァプールの一員となった遠藤航。同年末からチームでの立ち位置を確立すると、最終的に公式戦43試合(2848分)に出場。リーグカップ優勝にも大きく貢献した。そしてアルネ・スロット監督が就任した昨季、出場機会は大幅に減少した(計32試合:865分)ものの、リードした試合終盤にチームを引き締める役割として登場し、現地でも“クローザー”として高い評価を獲得している。そんな日本代表キャプテンについて、イアン・ラッシュ氏はこう語る。

    「本当に重要な“チームプレイヤー”、最高のプロフェッショナルです。常に自分がどうプレーすべきかをわかっているし、たとえ望んだような出場機会を得られなくてもナーバスになることはなく、文句も言わずに淡々と仕事をこなしてくれる。さらに色々なポジションもこなします。毎週プレータイムを得られなかったとしても、チームのために貢献する・自己犠牲する貴重なプレイヤーですね。監督としては『夢のような選手』です」

    「よく言われることですが、監督として最も難しいのは『ピッチにいる11人ではなく、他の選手をどうマネジメントするか』です。そういう意味では、遠藤選手はまったく心配がいらない。監督にとっては『夢のような選手』ですよ」

    そんな遠藤のプロフェッショナルな姿勢は、スロット監督やチームメイトからも度々絶賛されているが、「特に若手選手に対して模範になってくれることは、非常に大きな意味を持ちます。毎日の練習にコミットしてやるべきことをやり続ける、これまでの経験を若い選手に見せ続ける……これらはベテラン選手に求められることです。遠藤はそれを完ぺきにこなしてくれています。監督もそれは非常に高く評価しているんだと思いますよ」と、チーム全体にとって大きな影響をもたらしていることを称えている。

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    なぜ遠藤は愛されるのか?

    本拠地アンフィールドでも遠藤が交代準備を始めると大歓声が上がり、気持ちよく「ワータル~(エンドー!)、彼は日本人(エンドー!)、3番を背負い(エンドー!)、リーグタイトルを勝ち取る(エンドー!)」とのチャントを大合唱することが恒例に。ある種“カルトヒーロー”として愛されている。

    では、なぜ遠藤はここまでリヴァプールの人々に愛されるのだろうか? イアン・ラッシュ氏は、リヴァプールという街の文化的背景が大きいと指摘する。

    「リヴァプールは主に、労働者階級のファン・サポーターが多いんです。だからこそ、選手に対しては100%を求めています。それができない選手はあまり応援されないクラブです。遠藤選手は何事にも100%コミットしていて、それはピッチ上でもわかりますよね。そういったこともあって、ファンに心から愛されているんだと思います。たとえ才能があっても、100%やっていない、全部出しきっていない選手はあまり応援できないですよね? 遠藤選手はそうした心配がまったく必要ないんです」

    そうした遠藤の姿勢を高く評価するレジェンドは、新シーズンも変わらぬ献身に加えて、スロット監督に「嬉しい悲鳴」を上げさせることを期待しているようだ。

    「彼にはしっかりとアピールしてもらって、自分の立ち位置を強固なものにして欲しいと思っています。彼は複数のポジションをこなすことができる柔軟性の高い選手です。先発するしないにかかわらず、監督にとっては『夢のような選手』。そこは変わらないでほしいですし、変わらないと思います」

    「そしてサポーターの視点から言えば、長いシーズンの中で色々と状況は変わっていくかもしれませんが、多くの人が残留してほしいと思っているはずです。常に100%を出し切ってくれること、そしてどういう結果をもたらしてくれるかをわかっているからですね。(チームに)残ってほしいですよ」

    「(先発を勝ち取るために)基本となるのは、練習やプレシーズンで良い結果を残して監督にアピールすることです。こういった機会はあまり多くないですからね。良いプレーを見せて監督に『圧をかける』というか、悩むような状況を作り出してほしい。彼に限らず、監督は良いプレーを残した選手に対して、絶対に使わなければいけないと考えるはずです。メディアもプレッシャーをかけますしね(笑)。問題を監督に押し付けるようにアピールしてもらいたいです」

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    日本人選手のイングランド挑戦が増える理由

    そんな遠藤をはじめ、新シーズンのプレミアリーグでは5人の日本代表選手がプレー予定。さらにチャンピオンシップ(イングランド2部相当)でも9名の日本人選手が所属するなど、イングランドにも続々と活躍の場を広げている。

    イアン・ラッシュ氏は、ブライトンで活躍する三笘薫を「素晴らしい選手」と称賛しつつ、日本人選手のイングランド挑戦が増えている理由や、ヨーロッパや南米の選手と比べての特徴を分析している。

    「代表チームが強いこと、そこで結果を残すことがプレミアリーグに移籍する一番の近道だと考えています。私の考えでは、プレミアリーグは世界最高だし、一番難しいリーグです。ここに来るためには代表チームでトップの成績を残さなければいけない。今は代表チームで結果を残せば世界中のリーグが注目します。海外移籍するためには、自国の代表チームで活躍するのが一番ですね」

    「日本の選手、アジアの選手は本当に『プロフェッショナル』という印象です。期待を裏切らないハードワークをしてくれますよね。例えば、南米の選手たちは傑出した技術を持っている選手が多い一方で、不安定というか、ある試合ではすごくても次の試合ではダメ、ということも多い。やはり大事なのは、常に100%を出し切ること。それからテクニック面を上げてくれればいいと考えます。そして他の国の選手にも言えることですが、メンタルとテクニックの両方がないと世界トップレベルでは活躍できないと思っています」

    前回ワールドカップではドイツ、スペインと優勝経験を持つ世界的な強豪を撃破し、来年のワールドカップでは予選突破一番乗りを決めるなど、世界の舞台でも着実に結果を残す日本代表。現チームは「史上最強レベル」とも評価されることが多い。しかしイアン・ラッシュ氏は、世界の強豪国に仲間入りするために必要なのは「継続性」だと断言する。

    「先程(※第1回:リヴァプール編)も触れましたが、1度勝つのは簡単なんです。勝ち続けること、結果を残し続けるのが本当に難しい。日本代表もそれは同じで、前回のワールドカップでドイツやスペインを破ったのは素晴らしいですが、1回勝つのはまだ簡単で、それを『次の世代が再現できるか』ということが非常に難しいんです。今のチームが持っている知識や経験を次の世代にどう繋げていくか。それは日本サッカー協会が担う役割が大きいですし、そうした仕組みづくりこそが重要です」

    ※第3回へ続く