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伝説の「マラドーナ・ゴール」からメッシを呆然とさせた衝撃の瞬間まで:サウジアラビアが紡ぐ不屈の物語【LEGACY】

ロッカールームの扉が閉まる。荒い息遣い、張り詰めた表情。そして全ての視線が中央に立つ男に注がれる――エルヴェ・ルナールだ。象徴的な(そして彼自身が幸運を信じている)白いシャツを着たフランス人監督は、カタールワールドカップ開幕戦のハーフタイム、サウジアラビア代表選手たちの前に立ち、その声は壁を震わせた。

「俺たちはここで何をしているんだ?これがプレッシャーなのか?プレッシャーとは、恐れないことだ……前回(リオネル)メッシが中央でボールを持った時、お前たちはアリ・アル・ブライヒが飛び出してプレスするのを待っていたのか?そうしたいなら、スマホで彼と記念撮影でもしていろ!彼がボールを持ったなら、お前たちはプレスをかけて死ぬ気で追いかけなくちゃいけないんだ!」

「ボールを持った時の俺たちは強い。お前たちの行動を見たか?さあみんな、これはワールドカップだ!持てる力を全て出し切れ!」

前半はメッシの先制点で幕を閉じたが、その後が“グリーンファルコンズ”の物語だ。サレフ・アル=シェフリが美しい同点弾で物語を紡ぎ始め、サーレム・アッ=ドーサリーが雷鳴のような決勝点で歴史に名を刻んだ。

スタジアムは揺れ、世界は唖然とした。メッシは凍りつき、今まさに起きた狂乱を理解できなかった。サウジアラビアが、アルゼンチンを2-1で破ったのだ。これは夢ではない――開催国カタールと全世界を震撼させた現実だった。

だが、サウジアラビアの勝利は単なるサプライズではない。それは巨人をも恐れぬ新世代の誕生宣言であり、自らと祖国と国旗を信じる世代の登場を告げるものだった。

  • FBL-WC-2022-MATCH08-ARG-KSAAFP

    「メッシはどこだ?」

    「メッシはどこだ?」

    アルゼンチンの象徴的存在がサウジアラビアのファンに力強く応えたのは、決勝進出を果たしただけでなく、これまで逃し続けてきたトロフィーを掲げた瞬間だった。それでもなお、このチャントはサウジのワールドカップの歴史における忘れがたい勝利を永遠に刻み、国家の誇りの象徴として、大会史上最も輝かしい瞬間の一つとなった。

    だが、全ての始まりが相応しい結末を迎えるわけではない。初戦の衝撃的勝利で期待が高まったものの、サウジアラビア代表はその勢いを継続できず、続くポーランド戦に0-2、メキシコ戦に1-2で敗れ、グループステージ敗退となっている。

    ここで振り返る価値があるのは、サウジアラビア代表がどのようにして世界最高の選手を驚かせ得る境地に到達したか、である。

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  • Saeed Al-Oraiwan Saudi Arabia 1994Getty Images

    「マラドーナ・ゴール」

    アラビア半島の中心、砂と星の間に、ひとつの夢が生まれた。世代全体がひとつの目標、ワールドカップ出場を追い求めた。そして1994年、その夢は実現した。モハメド・アル・カラシ監督のもと、サウジアラビア代表チームはこれまで足を踏み入れたことのない土地、アメリカへと飛び立った。

    イランに4-3と劇的な勝利を収めて本大会出場権を獲得したが、中東のチームがこれほど大会を盛り上げるとは誰も予想していなかった。オランダ、ベルギー、モロッコと同じグループに入ったサウジアラビア代表だが、初戦のオランダ船でフアド・アンワルが先制点を決めるという完璧なスタートを切った。結局は1-2で敗れたものの、チームには世界レベルで戦えるという自信が生まれている。続くアラブダービーとなったモロッコ戦では、サミ・アル・ジャベルが先制点を奪い、一度は追いつかれたものの、フアド・アンワルが再び歴史を刻み、ワールドカップ初勝利を掴み取った。

    そして、忘れられない瞬間が訪れる。第3戦の相手ベルギーは楽勝を予想していたようだが、サイード・アル=オワイランは違っていた。

    開始わずか5分、中盤からボールを奪うと矢のように前線へ駆け上がり、3人のディフェンダーをドリブルでかわし、ネットを揺らしてみせた。リヤドからジェッダ、ダンマームまで、サウジアラビアは熱狂に包まれた――これは単なるゴールではなく、夢が現実となった瞬間だ。「マラドーナ・ゴール」と称されたこの一撃は、サウジの魂、アラブの精神、アジアの誇りを体現したものだったのだ。

    アル=オワイランの至高の一撃が決勝点となり、サウジアラビア代表はノックアウトステージ進出。“グリーンファルコンズ”はアラブの旗を高く掲げ、世界中の尊敬を勝ち取った。

    結局スウェーデンに1-3と敗れて快進撃は止まったが、その別れは誇り高きものだった。彼らは栄光の第一章を刻んだのだ。そしてこれは終わりではなく、伝説の始まりだった。小さなボールに大きな夢を見出し、それが現実となるまで追い続けた国家の物語である。

    アラブの砂漠からアメリカのスタンドへ。一つのレガシーが生まれたのだ。

  • Youssef Al Tunian Saudi Arabia 1998Getty Images

    次の世代へ

    あのアメリカ大会から4年後、1994年の英雄たちの数人は引退を決断し、そのバトンは次の世代へ受け継がれる。彼らもまた、同じ夢を胸に抱いていたが、追い風は吹かなかった。初戦のデンマーク戦では数多くのチャンスを逃し、0-1で敗戦。続く開催国であり優勝国となるフランス戦は0-4の完敗だ。1試合を残してサウジアラビア代表の大会は幕を閉じた。

    それでも、選手たちは諦めなかった。南アフリカとの最終戦で、サーミー・アル=ジャービルが大会初得点を挙げると、主将ユスフ・アルトゥナヤンが追加点を奪う。女神が再び微笑んだかと思われたが、運命は残酷だ。終了間際のPKで勝利をのがしている。

    だが、こうした傷には必ず教訓が宿っている。“グリーンファルコンズ”は学んだのだ――ワールドカップは過ちを容赦せず、栄光と崩壊は表裏一体だと。敗北を重ねるごとに、サウジアラビア代表は経験と成熟と決意の種を蒔いた。世代はフランスで変わったが、希望は決して消えなかった。

  • (From L-R, background) Saudi Arabia's midfielder MAFP

    教訓

    2002年、アジア史上初のワールドカップ、日韓大会が開催された。サウジアラビア代表が自大陸で行われる最高の祭典で、4年間の思いをぶつけるのは、詩的な巡り合わせに思えた。しかし日本と韓国で起きたことは、これ以上ないほど最悪の結果となった。

    2002年6月1日、サウジアラビア代表はドイツと対戦。歴史的な夜となったが、サウジアラビアに関わる者なら誰もが忘れたい一夜となった。クロスとシュートの嵐が降り注ぎ、選手とサポーターは目の前の光景に呆然と立ち尽くした。結果は0-8の惨敗。屈辱的な試合だ。

    この惨敗は深い傷痕を残したが、「どんな苦い夜も必ず明ける」ように、傷ついたファルコンズは戦い続けた。しかし、そう簡単にうまくいくことはない。カメルーン戦はサミュエル・エトーのソロゴールで敗れ、アイルランド戦は0-3で敗戦。3試合全敗、無得点という結果でワールドカップを去ることとなった。喜びはなく、沈黙と涙だけが残った。

    この苦い経験から、サウジアラビアは再び厳しい教訓を得る。フットボールは準備不足を許さず、名声だけでは何も勝ち取れないと。しかし、彼らは消えなかった。むしろ敗北の味を知る者こそが、復活の甘美さを真に味わうのだ。

  • Spanish midfielder Joaquin (behind) viesAFP

    消滅

    続く2006年ドイツ大会で、サウジアラビア代表はブラジル人指揮官マルコス・パケタの下、若さと知恵を融合させて大舞台に帰ってきた。新星ヤセル・アル=カフタニを中心とするチームには1994年の再現が期待されていた。

    初戦の相手はチュニジア。サーミー・アル=ジャービルが12年前の記憶を呼び覚ますようなゴールを決めて均衡を破る。しかし、フットボールは常に歓喜の瞬間を一瞬で裏切るものだ。チュニジアに後半アディショナルタイムに同点弾を奪われ、1-1で試合を終えた。

    その後はウクライナに0-4と敗れたが、強豪スペイン相手には見事な善戦を見せている(0-1)。グループステージ敗退となったが、次の大会こそは……そう期待を抱かせるような終わりであった。だがしかし、ドイツ大会は過去の3大会とは異なる結末を迎える。この大会から12年間、“グリーンファルコンズ”はフットボールの祭典から姿を消してしまうのだ。

  • Dejected Saudi player Nasser al-ShamraniAFP

    屈辱

    サウジアラビアに関わる全員が、2010年南アフリカ大会への道は順風満帆だと信じていた。実際チームは好調なスタートを切り、5大会連続のワールドカップ出場へ自信を持って突き進んでいた。しかし北朝鮮戦で失速し、バーレーンとのプレーオフに回ることになる。

    アウェーで0-0で引き分けた両チームは、全てを懸けてリヤドで再戦することになった。セカンドレグも死闘の末に1-1で後半アディショナルタイムに突入、するとハマド・アル=モンタシャリがホームの意地を見せる勝ち越し弾を奪った。スタンドは熱狂し、胸は高鳴った。サウジアラビア代表5度目のワールドカップ出場という夢は生き続けていた。そう思われた。

    しかし、一瞬で世界はひっくり返る。バーレーンはサウジアラビアの勝ち越し点からわずか2分後、再びネットを揺らした。試合はそのまま終了。アウェーゴールルールにより、勝ち上がったのはバーレーンだった。スタジアムは重いカーテンのように静寂に包まれた。歓喜は衝撃に、衝撃は涙へと変わっていく。何千もの顔が呆然と緑の芝生を見つめ、選手たちは現実を信じられないように地面に倒れ込んだ。あの最後のゴールは夢を貫く短剣であり、目覚めることのない悪夢だった。

    この敗退は単なる引き分けの喪失ではなく、国民的歓喜の瞬間の喪失だった。4大会連続出場はその夜に途絶え、栄光を味わった者たちにとってこの屈辱を受け入れるのは容易ではなかった。

    だが今にして思えば、この敗退は必然だったのかもしれない。あらゆる苦痛から新たな始まりが生まれるように。あの夜以来、“グリーンファルコンズ”はセルフ・リフレクションの段階に入り、ユニフォームの意味、決して屈しない精神を探し求めていく。

  • FBL-WC-2018-MATCH34-KSA-EGYAFP

    新たな始まり

    2014年ワールドカップ予選開幕時、サウジアラビア代表は瓦礫の中から希望を探し続けていたが、運命は再び背を向ける。監督が変わり戦術が変更されると、一貫性は失われ、予選最終ステージにすら到達できずに敗退した。

    2大会連続の予選敗退はより重くのしかかった。サポーターは20年前に逆戻りしたかのように感じている。ワールドカップ出場が遠い夢で、大会で国歌が流れることさえも勝利同然だった時代に。この敗退は、サウジアラビアのフットボールに暗い影を落とす結果となった。

    それでも舞台裏では、新たな世代に向けた動きが形作られつつあった。サーレム・アル=ドサリ、ヤセル・アル・シャハラニ、アブドゥラー・アル=マイウフらを筆頭とする若い世代が台頭し始め、王国の伝統にふさわしい新たな夜明けを告げようとしていた。

    そして2018年、彼らは帰ってくる。12年の空白が野心を燃え上がらせ、サウジアラビアは再び世界の舞台に立った。今回は、ロシアの地だ。

    大会開幕戦で開催国に0-5と敗れ、続くウルグアイ戦も敗戦。連敗したが、“グリーンファルコンズ”の精神には確実に変化が起きていた。もはや恥じてうつむくことはなかったのだ。

    グループステージ最終戦のエジプト戦、伝説的GKエサム・エル=ハダリが立ちはだかり、ワールドカップ史上最年長のPKストップを許してしまう。しかし後半アディショナルタイム、アル=ドサリのシュートがネットを揺らし、再びサポーターに歓喜をもたらした。

    結果は2-1。この勝利は、単なる勝ち点3ではなかった――サウジの精神が甦った瞬間だ。世界に発信されたメッセージは明白だった。サウジアラビアは単なる「参加国」ではなく、戦うために帰ってきた。バーレーンでの苦しみからロシアでの歓喜へ。“グリーンファルコンズ”は学んだ――転落は終わりではなく、新たな始まりだと。

  • Argentina v Saudi Arabia: Group C - FIFA World Cup Qatar 2022Getty Images Sport

    レガシー

    世界を魅了したアル=オワイランの「マラドーナ・ゴール」から、メッシとアルゼンチンを沈黙させたアル=ドサリの一撃まで、“グリーンファルコンズ”の物語は色褪せることがない。これは不可能を知らない国家の物語だ。倒れるたびに立ち上がり、消えかかればより強くなって戻ってくる。

    サウジアラビアのワールドカップへの旅は、単なる得点や結果ではなく、1994年から息づき続ける夢そのものだった。今、すべての視線は2026年へと向けられる。彼らはその永遠の物語に、新たな章を刻む準備を進めている。

    新たな世代が同じ夢を背負い、ルナール監督は栄光が偶然ではなく、決意と意志によって築かれると信じる。世界王者を倒したフランス人指揮官は、北米ワールドカップでカタール大会の快挙を再現すべく、今も虎視眈々と準備を進めている。

    だが今回は、これまでの大会のサウジアラビアとは一味違うだろう。国内リーグには、クリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマ、リヤド・マフレズ、ジョアン・フェリックス、シモーネ・インザーギ、ジョルジェ・ジェズス、セルジオ・コンセイソンといったスーパースターや監督が名を連ねる。彼らの存在が世界的な注目を呼び、野心を高め、スタジアムを未来の栄光を紡ぐ場所に変貌させたのだ。

    世界は多くのゴールを忘れていく。だが、マラドーナのように疾走したアル=オワイランの姿を、メッシを下したアル=ドサリのシュートを、そして王国旗が高く翻る中、ファンが流した涙を決して忘れることはない。

    サウジアラビアにおけるフットボールは、単なる競技ではない。それは国家の鏡であり、世界の眼前で緑のピッチに刻まれる現代史の一章である。かくしてサウジアラビアは、輝かしい過去と有望な現在、そしてスター選手たちが集うリーグの勢いを携え、最高の未来はまだこれからだと揺るぎない信念を持ち、2026年大会へと歩みを進めていく。

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