宿敵を下した自信を手に準々決勝に進んだアメリカ。しかしこの大舞台で目にしたのは、ワールドカップ史上最も物議を醸した瞬間だった。
オリバー・カーンやミヒャエル・バラックといった世界的スーパースターを擁するドイツと対戦したアメリカは、前半のうちにバラックのゴールで失点。夢をつなぐためにもゴールが必要は状況でハーフタイムを迎えていた。しかし、ドノバンがカーンに2度のセーブを強いるなど、後半に向けて流れを掴みかけていた。逆転の予感すらあったのだった。
そして、その決定的な瞬間が訪れる。クラウディオ・レイナのクロスをグレッグ・バーハルターがボレーで合わせるが、再びカーンに阻まれる。しかし跳ね返ったボールは、ゴールライン上のトルステン・フリングスの腕に当たっていた。彼の腕に当たったことは、映像を見れば誰も否定できないはずだ。これでレッドカードとPKが与えられれば、試合の流れは大きく変わったはずである。だが、審判が笛を吹くことはなかった。そのままプレーを続行している。
アリーナ監督は試合後、「100%PKだった。不正に奪われたと言いたくはないが……我々は試合の流れを握っていた。試合を支配していた。ドイツに勝利し、準決勝に進んでいたはずだ。この試合から得た結論の一つは、我々アメリカはまだ世界の尊敬を勝ち取っていなかったということだ」とコメント。判定に怒りを爆発させている。
結局0-1で敗れたアメリカは、準々決勝で姿を消した。あのハンドは未だに語り継がれる重要な場面である。しかし、アリーナ監督が話した「世界の尊敬」は、この大会で確実に勝ち取っている。ドイツのレジェンドであるフランツ・ベッケンバウアーは、「アメリカが勝ち進むに値したよ」と明言もしているのだ。
2002年のあの日、アメリカは世界のどのチームとも互角に戦えると示した。結果こそあれ、この試合は今なおアメリカサッカー史上における最大の出来事の一つとして語り継がれている。