取材・文=田嶋コウスケ
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(C)Getty Images「激動の1年」
三笘薫の2024年は、まさに「激動の1年」だった。
2023年12月に痛めた足首のケガを抱えたまま年を越すと、ブライトンで復帰できないまま1月のアジアカップを戦う日本代表メンバーに選出。ようやくピッチに立てたのは決勝トーナメント1回戦のバーレーン戦(1月31日)となったが、チームは準々決勝でイランを前に敗退。三笘は2回の途中出場だけで大会を後にすることになった。本人としても不完全燃焼の思いは強く、「少ない出場時間の中でもやれることはあったが、出しきれなかった」と唇を噛んだ。
予想外の事態はさらに続いた。アジアカップ後、ブライトンに復帰してから2試合目となったシェフィールド・ユナイテッド戦(2月18日)で、腰を痛めるアクシデント。試合中に右腰付近を抑える仕草を頻繁に見せると、後半途中に交代となった。当初はシーズン中の復帰を目指していたが、後の検査で長期休養を要するケガであることが判明。シーズン残りの全試合を欠場することになった。早期復帰が叶わないことが分かると、三笘は気持ちを切り替え、また新たに体を作り直すことに励んだという。
こうしてケガを乗り越えて迎えた夏のプレシーズンツアー。三笘は日本で行われたトレーニグマッチで実戦に復帰し、約5カ月ぶりにピッチに立った。折しも、ブライトンではシーズンオフにロベルト・デ・ゼルビ前監督が退団。プレミアリーグ史上最年少指揮官となる31歳のファビアン・ヒュルツェラー監督が就任し、新しいサイクルをスタートしたタイミングでもあった。今季開幕にあたり、三笘は次のように語っていた。
「全ての試合に出ることを重要視したい。チームとしては上位進出。上位を狙わないといけないですし、個人としては数字のところも残さなければいけない」
「(ヒュルツェラー監督は)デ・ゼルビ監督とは全然違います。戦術的に似ているところはありますけど、より守備的なアプローチが強いです。まず守備に重き置き、そこからカウンターを仕掛ける。チームにコンパクトさを求める監督です。守備ができた上での攻撃、そう考えていると思います」
シーズン前半戦が終わった今、改めて振り返ると、三笘はデ・ゼルビ監督時代よりも守備に走る場面が多かった。「守備からやらないといけない」と常々語っていたように、前半戦は「守備」がひとつのテーマだった。
(C)Getty Imagesブライトンでの新たな役割
攻撃と守備。アタッカーとしては可能なかぎり攻撃に比重を置いてプレーしたいのは当然だ。しかし、新監督からは守備のハードワークも求められている。
だが、こうした相反する2つの要素を三笘は決してネガティブには捉えていない。新監督の要求を前向きに考え、むしろ新しい戦術や知識を身につけることで自身の成長につながっていると力を込める。
「練習でもそうですし、試合の中でも色々な戦術的な知識や経験を身につけてきています。動き方やポジショニングで成長しているところはある。自分の中でもそれに気づいているので、良いことだと考えてます。もちろん守備をして失点しなければ、ブライトンは崩れないチームだと思ってます。そこをまず第一にやることが必要かなと思いますね。その上で(自分が)得点を決めれば問題ないと思いますけど、まだそこまでできてないと感じています」
そんな三笘がシーズン前半戦を通して課題として挙げていたのが「決定力」だった。惜しいシュートは何本もあったが、わずかに枠を外れたり、GKの好セーブに阻まれたりする場面は少なくなかった。シーズン前半戦は19試合に出場して(先発17試合)3ゴール。世界トップレベルのプレミアリーグでもドリブルは十分に通用し、鋭い飛び出しはブライトンの大きな武器になっているが、三笘本人は反省を口にする。
「シュートが『惜しい』だけでは全く意味ない。決め切ることが大事。コンディションは上がってきていると思うので、これから結果に結びつけるプレーをしないといけないですね」
(C)Getty Images日本代表のウイングバック
ブライトンでは新監督の下で様々な学びを得つつ、結果の部分で課題を感じていた三笘。それでは、日本代表での1年間はどのように考えていたのだろうか。
森保一監督は、6月のワールドカップ・アジア最終予選のミャンマー戦(5-0)から本格的に攻撃的な3バックシステムを採用。9月からの6試合全てに出場した三笘は、3-4-2-1の左ウイングバックでプレーする機会が多かった。代表チームは最終予選で5勝1分け、22得点2失点と圧倒的な強さを見せているが、三笘も新システムに手応えを感じている。
「後ろ(DF)に高さがあるので、その分、距離感もいいですし、空中戦に対する自信も増えていると思う。(自分を含めた)ウイングバックがいかに攻撃参加するかで(攻守の比重が)変わってきます。中盤も“うまい”選手ばかりです。ハマっているフォーメーションだとは思いますけど、(その布陣にこだわることなく)色々な形でやっていかないといけないと思います」
三笘個人の役割を見ると、やはりブライトンとは大きく違う。クラブでは4-2-3-1の左ウイングであり、ヒュルツェラー監督に要求される守備のタスクに応えているとは言え、日本代表でプレーするウイングバックほど最終ラインまで下がって守備をする機会は多くない。代表チームでは必然的に上下動する機会が増加することによって、総合的な走力や守備時のデュエルの部分はより必要になってくる。
それでも、三笘にとってこうした役割は初めてのことではない。レンタルで在籍したベルギーのユニオン・サンジロワーズや、ブライトン在籍1年目のグレアム・ポッター監督時代にも同じポジションでプレーしていた。本人も「WBの経験は感覚として残っているので、日本代表でもやるべきプレーは整理されてきています」と語り、完璧とは言わないまでも、キャリアを通じて積み重ねてきた経験が日本代表でも活かせているようだった。
(C)Getty Images激動の1年で学んだこと
アジアカップ敗退、ケガによる長期離脱、ブライトンの指揮官交代・戦術変更、日本代表での役割の変化……三笘にとって2024年はキャリアの中でも“濃い1年”の1つになったはずだ。そんな1年間を、三笘はどう振り返るのだろうか?
年内最終戦となったアストン・ヴィラ戦(12月30日)後、世界でも注目を集める27歳がまず語ったのは、キャリアで初めてと言える長期離脱についてだった。
「自分の中では、腰のケガはすごくポジティブなところがありました。ネガティブなことではありません。今、試合に出場できていることを含めて、色々と見つめ直す時期でした。(あのケガがあったから)今の自分があると思う。それは間違いなくポジティブなことだと思います」
「ここから、あの経験を結果として出さないといけないと思ってます。(後半戦の残り)19試合で、前半戦でできなかったところを、よりできるようにしたい。ブライトンはもっと上に行けるチームだと思います。個人としても、もっとやらないといけないことは分かっています。(多くの人から)期待してもらっているので、もうちょっと頑張っていきたい」
「(2025年は)まずケガをしないこと。毎試合出られるように準備するのは今シーズンも心がけてきましたし、それを継続しないといけない。ブライトンでは自分の出来や結果に左右されるところがあるので、責任感を持ってしっかりやっていきたい。日本代表では、次勝てば(ワールドカップ出場が)決まるところがあるので、そこで試合に出れるよう良い準備をしたいです」
1年間の日程をすべて終え、いつもと同じように、向上心を胸にしっかり前を見据えた三笘。「激動の1年」を経て迎える2025年、世界屈指のウインガーは我々にどのような輝きを見せてくれるのだろうか。

