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【記者のJ1展望答え合わせ】開幕前予想との違いは? 2023シーズンJリーグ制覇をけん引した神戸の“コア5”

2023シーズン開幕前の展望記事はコチラ!対抗、有力、サプライズに予想していたのは…。

  • 20231206_Kobe(C)Getty images

    神戸がもたらした驚き

    ■シーズンを通して“戦う集団”に成長

     クラブ史上初となる見事なリーグ優勝だったが、メインテーマにあげたいのが“高強度”。昨シーズンは監督交代もあった中で、終盤まで残留争いを強いられての13位。そこから見事なジャンプアップを果たしたが、もともと失点数は上位とも遜色なかったところに、得点力を大きく上乗せした。そのキーになったのが、ボールを保持しながら位置的な優位を取るトレンドを逆手に取るたような、継続的なハイプレスと鋭いカウンターを中心とした前選択の攻撃だ。

     得点王とJリーグMVPを獲得した大迫勇也が前線から攻守を牽引する形で、前に強い矢印を向け続けた。特にマンツーマンの守備をしてくる相手に対し、後ろで手数をかけずに大迫や武藤嘉紀に早めに当てて、全体を押し上げていくスタイルは非常に効果的だった。浦和レッズのようにコンパクトなミドルゾーンで構えて、センターバックが中央で強さを発揮するチームには苦しんだが、夏場の一時期を除き、神戸の強度を受け止めて跳ね返せるチームはほぼいなかった。

     ただ、そういうサッカーをやり続けるにはメンタル的な統率性とチーム体力が必要になる。筆者は大迫と武藤、山口蛍、齊藤未月、酒井高徳を“コア5”と呼んでいた。前半戦は海外や代表での経験がある彼らのスーパープレーとリーダーシップに引っ張られる形だったが、途中で齊藤がケガによる長期離脱、夏場には大迫と武藤も疲労が目に見えて出てくる中で、周りの選手たちが奮起して、チーム力を大きく下げなかったことは特筆に値する。

     吉田孝行監督も“コア5”を中心としたスタメン選手をなかなか代えにくい状況があり、メンバーを大幅に替えた時にパフォーマンスが落ちるのはJリーグYBCルヴァンカップなどでも明らかだった。しかし、終盤戦になって改めて酒井に聞くと、最初は大迫をはじめ中心メンバーが周りに強く要求していたのが、徐々にGKの前川黛也や佐々木大樹など、やや大人しかった選手も要求し合う関係が築かれたという。

     その酒井をして「体力を消耗するサッカー」というスタイルをやり切るには能力が高くても、うまく当てはまらない戦力を削ぎ落としていく苦しい作業も伴った。その点で、夏の補強に関しては疑問符が付くところもあるが、ケガで前半戦をほぼ棒に振った飯野七聖の復帰、齊藤に加えて終盤戦には山口も離脱した状況での、扇原貴宏の活躍など、シーズンをかけて“コア5”だけでない戦う集団に成長したことが、良い意味での驚きだった。

    ■今後の神戸に待ち受ける試練

     ただ、永井秀樹SDも認めるように、試合数が大幅に増えることが見込まれる来シーズンに向けて、このスタイルをカップ戦含めてハイレベルにやり通すには選手層が圧倒的に足りていない。大迫の完全な代わりはいなくても、準じるFWの補強は必須になるし、各ポジションに現在のスタメンとほぼ同等のタレントが必要になる。それと同時にプランB、あるいはシームレスな遅攻と速攻の使い分けなど、引き出しを増やしていかなければ、AFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE/来季新方式のACL)を含めた過密日程をこのスタンダードで乗り切って行くことは難しい。

     ACL初参戦だった2020年はセントラル開催でベスト4に輝いたが、リーグ戦は14位、二度目の出場となった昨シーズンはベスト8まで勝ち上がったが、残留争いを強いられていたため、吉田監督も泣く泣くターンオーバーで乗り切らざるを得なかった。アジア制覇は悲願となるが、まずはFUJIFILM SUPER CUPから始まる新シーズンの挑戦に注目したい。

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  • 優勝を争ったライバルや期待を抱かせたクラブは?

     神戸の素晴らしい躍進が見られた一方で、例えば2020年の川崎フロンターレのようなスーパーチームは存在せず、前回王者の横浜F・マリノスをはじめ、より多くのチームにチャンスがあるシーズンだった。終盤戦は神戸と横浜FMのほぼマッチレース、そこに三度目のアジア王者となった浦和レッズがギリギリで食らいつく構図だったが、ポテンシャルという意味では最終的に3位フィニッシュしたサンフレッチェ広島、後半戦に失速した名古屋グランパスなどにもチャンスはあったはず。ただ、チームによって戦術的なカラーがある中で、“高強度”という観点では、どのライバルも神戸を上回れなかった。

    ※開幕前は「本命、対抗、有力、サプライズ、大穴、期待のクラブ」の順でタイトル争いを展望。

  • 20231206_Marinos(C)Getty images

    横浜F・マリノス[開幕前展望:有力]

     2位の横浜FMは最終的に神戸から勝ち点を「7」離されたが、第33節のホーム新潟戦でスコアレスドローとなり、神戸にプレッシャーを与えることができなかったが、シーズンの戦い方としては相手の対策を上回るために、攻撃ではマンツーマンではめる相手を外すビルドアップを意識したが、アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウスの3人にフィニッシュを依存する傾向が、良くも悪くも強くなってしまった。

  • 20231206_Hiroshima(C)Getty images

    サンフレッチェ広島[開幕前展望:本命]

     3位の広島は夏場に大きく成績を落とし、終盤戦に浮上したがタイトル争いの領域には届かなかった。もちろん、攻撃の中心を担うMF満田誠の離脱期間と勝てなかった時期がほぼ合致することは無視できないが、それを言ってしまうと優勝した神戸も齊藤未月が相手選手との接触により、シーズン絶望となるケガで離脱しており、チーム力の部分で神戸や横浜FMを上回るところまで行けなかったと言わざるを得ない。

     全体的にチームが若く、限られた予算で効果的な戦力強化をできるチームでもあるが、2002年から広島を陰で支えてきた足立修強化部長が退任することもあり、新スタジアムを拠点として、タイトルを目指す新たなサイクルに入る。

  • 20231206_Urawa(C)Getty images

    浦和レッズ[開幕前展望:大穴]

     4位の浦和は優勝した神戸より十数試合多く、5月にACLファイナルを戦う特殊なレギュレーションが、リーグ優勝から逆算したチーム作りとピーキングを難しくしたことは間違いない。ただし、最小失点の守備に比べて、攻撃面で得点数を伸ばせなかったという課題は揺るぎないものだ。ホセ・カンテも現役引退を表明、監督交代も確定している浦和が守備の強さを崩すことなく攻撃に上乗せてしていけるかは二度目のリーグ制覇の鍵になる。

  • 20231206_Kashima(C)Getty images

    鹿島アントラーズ[開幕前展望:期待のクラブ]

     鹿島アントラーズに関しては8位前後という予想も多く見られたので、5位フィニッシュというのは結果だけ見ると予想以上ということになる。しかし、岩政大樹監督が初めてフルシーズン指揮を取った中で、トライ&エラーを続けながら結果も問われるという難しいミッションをこなすにはバックアップが脆弱すぎたように思う。

     結果にフォーカスするなら、レネ・ヴァイラー前監督が押し出していたハイプレスとショートカウンターをベースに、リスクを負い過ぎた部分をマネージメントしていくなど、違ったプランもできたはず。逆に岩政監督が取り組んでいた、特定の型にハマらないスタイルを構築するなら、2年間は任せる覚悟はフロントにも必要だったのではないか。補強面も含めて苦しいチーム事情で、逆に言えばよく5位でフィニッシュしたが、タイトルが目標というよりノルマになるクラブの伝統が、良くも悪くもプレッシャーになるのが鹿島というクラブ。せめてカップ戦1つでもファイナルまで進めていたら、状況は変わっていたかもしれない。

  • 20231206_Kawasaki(C)Getty images

    川崎フロンターレ[開幕前展望:対抗]

     川崎Fの8位というのは筆者だけでなく、多くのメディアや解説者にとっても予想外だったはずだが、後半戦から立て直してリーグ戦はもちろん、鬼門とされるACLでも順調に勝利を重ねて、 Jリーグ勢で最初にノックアウトステージ進出を決めており、来シーズンに期待できる。12月9日に行われる天皇杯の決勝でタイトルを勝ち取り、良い締めくくりができるか。

  • 20231206_tosu(C)Getty images

    サガン鳥栖[開幕前展望:サプライズ]

     筆者が上位躍進を期待していた1つがサガン鳥栖だった。毎年大きく選手が入れ替わるクラブの事情はあるが、岩崎悠人や長沼洋一など多くの主力が残り、そこにロアッソ熊本からMF河原創が加入。沖縄キャンプを見てもワクワクする陣容だったが、期待の選手にケガが相次ぎ、チームとしても強度を引き上げきれなかった。

     フィジカル面でも終盤に失速する傾向はあまり改善されておらず、あえて可変を抑えたビルドアップもチームの躍動感を奪ってしまった感は否めない。それでも14位という数字は他の有識者などの予想を見れば妥当なところもあるが、枠内シュート0で敗れた最終節の川崎F戦などを見ても、川井健太監督3年目の来シーズンは開幕前の構築からテコ入れが必要だろう。

  • 20231206_Fukuoka(C)Getty images

    アビスパ福岡[開幕前展望:優勝予想外]

     クラブにとって初となるルヴァン杯の優勝、そしてリーグ戦で7位フィニッシュと躍進したアビスパ福岡も高く評価したい。2022シーズンの展望時点から筆者も上位に定着できるかどうかが注視されるクラブとして挙げたが、その点で大きな可能性を見せている。今シーズンは堅守だけでなく戦略的に攻勢をかけるなど、長谷部茂利監督下でチームの組織力が発揮された。ただ、中規模のクラブがこうした躍進を見せると、主力を引き抜かれる傾向というのは避けられないもの。それでも背骨の部分はしっかりと残しながら、フレッシュな戦力を取り込んで、持続的にタイトルを狙えるチームを構築していくことを期待する。