Japan WSL takeover GFXGetty/GOAL

なでしこジャパン選手が次々とイングランドへ渡る理由。なぜ日本人選手が世界に求められるようになったのか?

2023-24シーズンの女子スーパーリーグのシーズンが始まる前、同リーグの12年の歴史の中で日本人選手はわずか8人しかいなかった。 現在までを振り返ると、その数は2年足らずで2倍以上に増え、現在WSLに最も多くの選手を擁するアジア諸国となっている。

これらの選手たちは、毎週のように主役の座を射止めている。先週の金曜日には、長野風花がゴールとアシストを決め、リヴァプールがアンフィールドでマンチェスター・ユナイテッドを破るという衝撃的な試合を演じた。その翌日には、藤野あおばがチェルシーとのリーグカップ決勝でスーパーゴールを記録。そして水曜日には、イングランド勢同士のチャンピオンズリーグ準々決勝で、長谷川唯の驚くべき落ち着きが、マンチェスター・シティを勝利へ導いた。

当初、日本の選手たちは、イングランドやアメリカなど、ほんのわずかな試合をプレーするために海外へ渡り、ほとんどの場合、キャリアを終える前に帰国していた。しかし、ここ数年で状況は大きく変化した。これはWSLだけでなく、世界中の他のリーグ、そして何よりも日本代表チームにとって有益なことである。

  • Japan Women's World Cup 2011Getty Images

    地位を確立しているなでしこジャパン

    イングランド、そして海外全般で日本人選手が急増しているのは、女子サッカー界で日本が急浮上しているからではない。特に2008年から2015年にかけて、なでしこジャパンは世界屈指のナショナルチームであった。佐々木則夫監督の指揮の下、日本は2008年のオリンピックで4位、2011年の女子ワールドカップで優勝、2012年のオリンピックで銀メダル、2014年のアジアカップで初優勝、そして2015年のワールドカップで決勝進出を果たした。アメリカからドイツまで、世界の強豪チームと互角に渡り合い、打ち負かしてきた。

    日本代表の下には、常に強力なシステムがあり、素晴らしい選手たちも育成されてきた。実際、過去3回のU-20女子ワールドカップで決勝に進出し、2018年には優勝。また、2014年のU-17大会でも優勝し、2年後の決勝でも再び優勝を果たしている。

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  • Saki Kumagai Lyon Women 2020Getty

    さらなる海外での冒険

    しかし、佐々木監督の時代には、選手のほとんどは依然として日本でプレーしていた。2008年のオリンピックでは、彼の選手リストに海外在住の選手は1人もいなかった。2015年には、少し状況は変わったが、それでも海外選手の数は6人に過ぎなかった。2023年の女子ワールドカップではなでしこジャパンが注目のチームに。準々決勝進出と、グループステージでの優勝国スペインに4-0という衝撃的な大差で勝利したからだ。そのメンバーのうち8人の選手が、その後欧米のクラブに移籍した。

    日本代表のキャプテンであり、リヨンで5度の欧州制覇を経験した熊谷紗希にとっては、喜ばしい状況だ。「やっと」と彼女は笑いながらGOALに語った「ヨーロッパでは、ここでしかできない経験ができます。日本でも、もちろん良いことも悪いことも含めて、さまざまな経験ができます。でも、日本にいれば、ここでしかできない経験はできないですから」。

  • Yuka Momiki Leicester City Women 2023-24Getty

    改善を迫られる

    熊谷は、2012年のオリンピック代表選手3名のうちの1人で、当時フランクフルトでプレーしていた。20歳で、言葉も文化も全く異なる国へ単身で移り住むのは大変だったと彼女は認める。しかし、彼女はヨーロッパこそが、自身の成長にふさわしい場所であることを知っていた。

    彼女が直面した最大の障害の多くは、今日、日本を離れることを選んだ人々にとっても残されたまま。では、なぜ彼女は選手たちが急に海外移籍するケースが増えていると考えているのか?「私たちは代表チームのユニフォームを着ると、もちろん、日本人選手と対戦するわけではありません。私たちは毎回外国人選手と対戦するんです。ですから、彼らは成長したいと思っているのだと思います。また、外国人選手と毎日、高いレベルで、良い選手たちと対戦することが重要であると気づいているのです。それが理由だと思います」。

    昨年1月にレスター・シティと契約し、アメリカやスウェーデンでもプレーした経験を持つ籾木結花も同じ意見だ。「ワールドカップやオリンピックで優勝したいという気持ちがあるからだと思います」と彼女は言う。「日本でプレーするのはエキサイティングですが、イングランドと比べるとフィジカル面で劣ります。たぶん私たちはテクニックはあってもフィジカルはないのでしょう。ですから、私たちが向上したいのであれば、もっとフィジカルになる必要があります。それが、私たちがここに来て自分自身に挑戦し、それらすべてを代表チームにもたらそうとしている理由です」。

  • aoba fujinoGetty Images

    次代のスターが台頭

    日本人選手の間で、こうした挑戦に挑みたいという思いが高まっている。そして、彼らを獲得したいと考えているのは、イングランド、ヨーロッパ、米国のトップクラブだ。当然のことながら、2023年のワールドカップをきっかけに大きな動きを見せた選手もいた。ゴールデンブーツを獲得した宮澤ひなたはマンチェスター・ユナイテッドへ、スペイン戦で2点目を決めた植木理子はウェストハムへ移籍した。しかし、各クラブはそれ以来、その市場を忘れていたわけではない。

    昨夏には、マンチェスター・シティが日本代表の山下杏也加と、2024年のオリンピックでスペイン相手にセンセーショナルなゴールを決めて注目を集めた快足ウインガーの藤野あおばを獲得した。さらに、すでにウェストハムでイングランドに滞在していた右サイドバックの清水梨沙と、1月にはユース代表チームのスター選手である大山愛笑とも契約した。すでに長谷川が中盤の要となっていたシティのチームは、現在、WSLでプレーしたことのある日本人選手の30%を占めている。

    「私たちは主に、必要な選手像を検討し、これらの選手たちがまさに私たちの求めるモデルにぴったり当てはまることが分かった」と、この移籍が発表された直後に当時のシティのヘッドコーチ、ガレス・テイラー氏は説明した。「彼女たちはチームに本当に歓迎され、私たちのシステムや仕事のやり方にすぐに溶け込みんだ」。

    違いもたくさんあるが、シティの非常にテクニックに優れ、ポゼッションを重視するスタイルは、なでしこジャパンのプレースタイルと多くの共通点がある。このプレースタイルは、ヨーロッパの他のクラブでも同様であり、ほぼ普遍的になりつつある。

    「彼女たちは、私たちが目指すサッカーに完璧にフィットする」と、エヴァートンのブライアン・ソーレンセン監督は、林穂之香と契約した直後に語った。

  • Maika Hamano Chelsea Women 2024-25Getty Images

    「プラスアルファ」の何かをもたらす

    熊谷は、日本出身の選手たちにも独自のスタイルで真の変化をもたらす能力があると信じている。「日本の選手たちは少し...」と彼女は言い、ヨーロッパに移住して以来習得した4つの言語の中から適切な言葉を探して、しばらく黙考した。「どう言えばいいのかわからないけど、少し『特別』」と彼女は続けた。

    「私たちのプレースタイルは、ヨーロッパやアメリカの選手とは大きく異なります。ですから、チームに溶け込むことができれば、チームにも多くの貢献ができると思います。それが、多くのチームが日本人選手を欲しがる理由だと思います」

  • japan(C)Getty Images

    なでしこにぴったり

    最近、日本で初めての完全プロの女子サッカーリーグとして生まれ変わったWEリーグにとって、移籍のたびに打撃を受けているようだ。多くの国内で活躍する有望な選手たちが、海外のクラブに引き抜かれる前に国内リーグでブレイクしているからだ。

    しかし、成長を続ける必要があるとはいえ、WEリーグはユースチームのスター選手たちがシニアの試合で出場時間を確保する上で重要な環境であることに変わりはない。そして、ビッグな移籍を実現できれば、さまざまなスタイルを持つ各国の選手としてさらに成長できる。それは、ワールドカップで優勝した14年後に復活した日本代表チームにとって非常に重要なことである。

    なでしこジャパン選手たちは、合宿で集まった際に、こうした変化を実感しているのだろうか?「はい、そう思います」と、籾木は答えた。確かに、先月、シービリーブス・カップでアメリカに勝利したことは、チームの継続的な成長にとって良い兆しであるに違いない。

  • Aoba Fujino Yui Hasegawa Man City Women 2024-25Getty Images

    世界トップクラス

    20歳の有望な選手として初めてドイツに渡ったとき、熊谷選手には安藤梢と永里優季の道があった。そして、2人は熊谷が海外でプレーしたいという希望を模索する中で、ドイツでの経験について多くのことを語ってくれた。日本代表のキャプテンは、それ以来、年下の選手たちにその経験を伝えてきた。「その選手が海外に行きたいと思っているなら、私は彼女たちに多くのことを話しました」と彼女は説明した。「でも、もし行きたくないのであれば、それは無理だと思いますし、もっと難しいでしょうね」と続ける。

    幸いにも、そうする選手は増えている。2月にニールセン新監督が発表した「シービリーブス・カップ」の日本代表メンバーには、WEリーグに所属する選手はわずか3人だった。 登録選手20人のうち、11人はイングランドを含む海外でプレーしていた。 熊谷選手は、その人数の増加を振り返り、「今はとても嬉しい」と語った。

    今後、選手たちが日本を離れることを考えた場合、相談できるのは熊谷選手や他の1人か2人の選手だけではない。海外で活躍するなでしこスター選手の何十人もの例が、アドバイスを提供してくれるだろう。そして、おそらくは加入するチームに同じ国の同胞選手もいるだろう。

    そして、これらの選手たちは、単に新しい環境に慣れ、新しい言語を学び、新しい文化を受け入れているだけではない。長谷川が世界トップクラスのミッドフィルダーへと成長したこと、浜野がイングランドのチャンピオンチーム、チェルシーで試合を決める活躍をしていること、そして清家がブライトンで素晴らしいデビューシーズンを送っていることを見ても分かるように、彼女たちは成功を収めている。

    もちろん、これはイングランドに限ったことではないが、WSLが才能ある選手たちにとって最高の活躍の場として選ばれていることは、このリーグが世界で最も優れたリーグへと成長していることの証でもある。結局のところ、最高の選手たちは最高のリーグでプレーしたいと考える。そして、日本には間違いなく、そうした選手が数多くいる。