AFCアジアカップ カタール2023ラウンド8(決勝トーナメント準々決勝)でイラン代表と対戦し、1-2の逆転負けを喫した日本代表。3大会ぶりアジア制覇の夢は、ついえることとなった。【取材・文=林遼平】
(C)Taisei Iwamoto「負けるに値するゲーム」8強終戦の日本代表…足りなかった”勝利への執着心”。森保Jの課題点は?/アジア杯 レビュー
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(C)Taisei Iwamoto変化もなく、淡々と進んだ時間
試合終了のホイッスルが鳴る。ガックリと肩を落とす日本選手の横には、優勝したかのように歓喜するイランの選手たち。そこには勝者と敗者のコントラストが鮮明に映し出されていた。
1年と3カ月前、似た光景をカタールの地で目にしていた。ドイツやスペインという強豪国を相手にさまざまな手を駆使し、戦術面の足りなさはメンタル面で補うなど、チャレンジャー精神でぶつかっていくことで奇跡を起こすに至ったチームがいた。そう、あの時、優勝したかのように喜んでいたのは日本だった。
あれから月日が経ち、日本は全く逆の立場となってスタジアムのピッチに立ち尽くしていた。あの時から”強く”なったのは間違いない。だが、ドイツやスペインと同じように隙を見せてしまっては勝てるものも勝てない。そう教えられるような試合になった。
「今日の相手、特に(ラウンド16で)120分間とPKを戦った相手に対して勝てないとなると、自分たちの実力は下であるというのを認めないといけない」(三笘薫)
イランは強かった。ポジションごとにタレントもおり、フィジカルやパワーのところでも日本を凌駕。ロングボールを中心とした攻撃で日本に嫌がらせを続け、最終的には2つのゴールを奪って逆転勝利を収めた。日本も前半の戦いこそ悪くなかったが、相手の攻撃により守備のバランスが崩され、再び後ろに重くなる現象が生まれてからは、もはや打開策が見当たらない状況だった。
そこでどうにかできたかと言えば、例えば、試合後に選手や監督が振り返るようにシステムを3バックに変更したり、前線にフレッシュな選手を入れてプレッシングをかけるといったやり方ができただろう。
ただ、最終的には何の変化もないまま、ひたすら淡々と時間が進むだけ。そこでどうにかしてやろうといった気概を持った選手も見られなければ、身振り手振りでチームを鼓舞する選手もいなかった。
(C)Taisei Iwamoto「負けるに値するゲーム」
この状況に警鐘を鳴らしたのは冨安健洋だ。
「悪い時の日本が出て、それを変えようとする選手が何人いるかっていうところで、正直、熱量を感じられなかったというか、ピッチ上で物足りなさを感じました」
この問題は今大会を通して言われてきたことだ。自分たちのステージが上がったと勘違いしたのか、対戦相手を上回る、もしくは同じ程度のメンタリティで対峙することがなかなかできなかった。それはベトナム戦然り、イラク戦然り。数人からイラク戦が終わった時点でその点を指摘されていたが、結局、イラン戦でも同様に、内容だけでなく精神面でも上回ることができず、再び「負けるに値するゲーム」(堂安律)をしてしまった。
これまでアジアカップやW杯、オリンピックを経験してきた冨安は、今回のチームに明らかに足りていないところをさらに指摘している。
「本当に勝ちへの執着心が足りなかった。良くないときに声を出したり、ディフェンスだったらガッツリボールを奪って雰囲気を変える、攻撃陣だったら球際で勝つ、一個ドリブルで仕掛けて雰囲気を変える。そういうところが本当にこのチームにはない。良くない日本のまま変わることができずに終わってしまった。僕自身も含めてもっともっとやらないといけないなと思います」
この”勝利への執着心”を常に出せるようにしていくことが今後の課題となるだろう。「良いときは誰でも勝手に乗っていけるけど、良くない時にどれだけのことができるかというところはもっとやらないといけない」とは冨安の言葉。”W杯だけできます”では、やはり世界の強豪国を追い越していくことはできない。相手がどこであろうが、どんな厳しい状況であろうが、常にその姿勢を打ち出すことができなければ勝利を積み重ねていくことはできない。
選手個々のクオリティが上がり、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグなど世界トップの舞台でプレーする選手も増えてきた。そうして世界に近づいたことで、トップの選手が感じている代表戦でのモチベーションの難しさや移動の辛さなどを理解するところまできている。
ただ、同じように苦しんでいては上に登っていくことはできない。自分たちに何ができて、何ができないのか。足りないものは何なのかを突き詰めていく必要がある。今回のアジアカップは明らかに失敗に終わった。これをいい教訓とできるかはチーム次第である。さらに強いチームを築き上げていくためにも、できなかったことに真摯に向き合うことが求められている。
