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冨安健洋、サウールら…プレミアリーグ最終日移籍の選手は何をもたらすか?

プレミアリーグでは、8月の最後の試合から火曜日の締め切りまでの間に合計14人の選手が移籍を決めた。

その中でも、クリスタル・パレスはオドソンヌ・エドゥアールという素晴らしいストライカーを獲得し、パトリック・ヴィエラ監督が望んでいた援護射撃を得ることに成功した。ウォルヴァーハンプトンはRBライプツィヒからファン・ヒチャンを期限付きで賢く獲得。ウェスト・ハムはチェルシーからクルト・ズマを獲得し、ディフェンス陣の補強に成功している。

8月最後の試合が行われてから移籍を決めた選手の中で、特に4人の選手には大きな注目が集まっている。彼らはそれぞれどのようにチームを成長させていくのだろうか。

  • Emerson Royal Barcelona 2021-22Getty

    エメルソンがスパーズにもたらすのは縦の動き

    トッテナムはここまで首位を走るが、攻撃陣に手を加えない限りこの好調は続かないだろう。

    これまでは、ヌーノ監督はボールを奪って狭く配置した前線3人でカウンターを展開してきたが、スパーズが自陣深くに構えたい(平均ポゼッション44.8%)ということに相手が気づけば、同じ戦術を実行し続けることは難しくなるだろう。

    スパーズはプレミアリーグにおいて、プログレッシブ・パス(『WyScout』が定義する、「敵のゴールにチームを著しく近づけることを狙った前方へのパス」)で19位となっており、スマート・パス(「敵のディフェンスラインを破り攻撃を著しく有利にすることを狙った、クリエイティブかつ敵陣に侵入するパス」)では13位と低迷している。

    言い換えれば、トッテナムは縦方向のパスをしていないか、上手くないということになる。この課題は、部分的にはウイングを効果的に使えば解決できる。勝利を収めたワトフォード戦では、スパーズは初めてポゼッションで上回った。この時見たように、サイドバックには敵陣侵入を試みてアグレッシブにオーバーラップしていくことが求められる。

    ジャフェット・タンガンガはこのタスクに関してはあまり得意としていない。だからこそ、スピードと集中力に富むエメルソン・ロイヤルが加わったことは非常にタイムリーなものに。エメルソンはレアル・ベティスに在籍した2年間のリーグ戦で計10アシストを挙げており、そのほとんどはピンポイントクロスによるものだ。

    ハリー・ケインはこうしたボールの供給をありがたく思うはずだ。サイドの攻撃が厚みを増せばチームは中盤で賢く振る舞えるだろう。

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  • Takehiro Tomiyasu Arsenal GFXGoal/Getty

    冨安はどの布陣にもマッチ

    アーセナルは今シーズン、どのポジションを見ても望みが薄い状態に見える。そんな状態の中、ミケル・アルテタの幅広い戦術が見定めにくくなっている。

    大まかに言えば、アルテタは恩師であるペップ・グアルディオラの、ポジションを変えながら複雑なパスでプレスをかいくぐる戦術を模倣したいのだ。これが実現できればアーセナルはファイナルサードに素早く切り込むことができると目論んでいるのだ。問題は、この戦術を行うにはエリートクラスの選手が必要であるということ。マシンの一部が詰まってしまうと、システム全体が崩壊してしまうのだ。

    アルテタには冨安健洋のような選手がもっと必要だ。ポリバレントな選手で、右サイドバックとセンターバックをこなす冨安は、ボローニャから1600万ポンド(約24億3000万円)で加入。身長が高く、パワフルで、両足が使えるディフェンダーであり、アーセナルを攻撃と守備の両面から立て直せる存在だ。

    冨安を右サイドバックに据えると、不均衡だったアルテタのフォーメーションはよりスムーズに動くだろう。4-2-3-1と3-4-3を組み合わせようというアルテタの望みを変えずにゆくには、ボール保持時にはこの22歳をスリーバックの一角に下げることで、災いの起こるバックラインを底上げする。そうすればキーラン・ティアニーも逆サイドから攻撃に参加させることができ、フォワードにボールを供給できそうだ。

    だが、冨安はポゼッション能力も高く、必要があれば中盤のギャップを埋めることもできる。また、右ウイングバックで先発すれば賢いオーバーラップも期待できるだろう。

    実際はかなり異なるタイプのプレーヤーだが、ちょうどカイル・ウォーカーとグアルディオラの関係のように、冨安はアルテタに戦術的な拡張性をもたらしそうだ。

  • Daniel James - Manchester United 2021/22Getty Images

    ジェームスがビエルサ・リーズに最適な理由

    マルセロ・ビエルサがダニエル・ジェームスに興味を持ったのは、3年前に遡る。この右ウインガーの運動量やプレス強度、そしてスピードがリーズのシステムにフィットする理由は簡単に理解できる。

    昨シーズン450分以上プレーした選手の中でジェームスは、『FBref』による「90分あたりのプレッシャー」(ボールを受けたり、運んだり、手放したりする相手選手に対して与えたプレッシャー)で26位に位置している。

    あまり高い順位でないように感じるかもしれないが、マンチェスター・ユナイテッドがクラブとして同スコアで最下位から5番目に位置していることを考えれば、ジェームスの運動量は特別だということがわかる。クラブ内ではフレッジに次いで2位だ。

    一方のリーズは、プレッシャーの観点では抜きん出ている。ビエルサにとっては、ジェームスがオールド・トラッフォードで頻繁に行っていたスプリントは大歓迎だろう。

    さらに、プレッシングのスタイルもリーズにぴったり合致している。ジェームスはスペースを埋めるようにするのではなく、直接選手にプレッシャーをかけにいく。少々変わったスタイルで、ほとんどの状況で非効率に見えるのだが、逆にマンツーマンでプレスをかけるビエルサのスタイルにはよく合っているのだ。

    ボールを持てば、ジェームスはリーズにスピードをもたらし、リーズがワイドなエリアで欠いていたダイレクトな攻撃を増やすことができる。ビエルサはポゼッション中に中盤を空けがちである。サイドから大きく前に出たり、オーバーラップや3人目のランを使いながらサイドに負荷をかけていくからだ。だが、現在のリーズにはジェームスのような驚異的な加速力やトップスピードを持つ選手はいない。

  • Saul Niguez, Atletico Madrid, Chelsea badgeGetty

    サウールは中盤の競争を激化させる

    サウールはフットボール界で最も万能なMFだ。だが、このオールラウンドなプレースタイルは最近の彼にとっては足かせになっていた。この26歳は昨シーズン、ディエゴ・シメオネの下で特に左ウイングバックで起用されていた一方、中盤でのパフォーマンスは落ちてきていた。

    だが、サウールはトーマス・トゥヘルのスタイルにより合っている。リアクション戦術を得意とする監督の下でこれまでのキャリアを過ごしてきたが、サウールはより野心的なシステムで花開くかもしれない。

    トゥヘルの3-4-3では、2人のセントラルMFがボックス・トゥ・ボックスで働かなければならない。前方へのランでボールをつなぐことや、前方に切り込むパス、プレッシングに加えて、守備面での貢献も求められるのだ。

    その点、サウールのずば抜けた万能性は彼の強みとなるだろう。ジョルジーニョのようなパスレンジと技術力、エンゴロ・カンテのようなタックル(サウールの90分平均タックル数3.19を唯一上回ったチェルシーの選手だ)、マテオ・コヴァチッチのような縦方向への動きを持ち合わせているのだ。

    アトレティコ・マドリーのサッカーのテンポはサウールに合っているわけではなかったが、トゥヘル率いるチェルシーのスピードとダイナミズムでは、このスペイン人のよりエレガントな一面を見せてくれるはずだ。