J1第5節、京都サンガとの一戦に先発した東京ヴェルディFW染野唯月は、2点ビハインドの状況から2得点。80分にPKから1点を沈めると、後半アディショナルタイムにもクロスボールへ鋭く飛び込んで同点ゴールを奪い取り、敗北間際だったチームを救い出してみせた。【取材・文=川端暁彦】
パリ五輪の”エース候補”…染野唯月は『一皮むけた』のか?京都戦の2ゴールだけじゃない「当たり前」の変化
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(C)Getty Images最前線で試合を決める2ゴール
後半アディショナルタイムも3分を過ぎようというタイミングで、そのゴールは生まれた。
1-2のスコアで猛追を仕掛けていた東京Vは、パワープレー気味の攻勢を継続。ロングボールをMF綱島悠斗が頭で競り勝つと、右サイドのスペースで受けたMF齋藤功佑は中の状況をイメージして即座にクロスを選択する。
「点と点で合わせた。ソメ(染野)が相手の背後にポジションを取っていたので、あのスピードであのコースに蹴れば、あとはソメが合わせてくれる」(齋藤)
スピードのある鋭いボールに対し、DFの背後に入ってマークを外していた染野が足を伸ばして合わせると、ボールはゴールネットを揺らす。待望の同点ゴールだった。
よく「ストライカーらしい」と形容されるような、クロスを点で合わせる形は染野がFWとして追求してきたゴールの一つである。染野はそのシーンをこう語る。
「あそこは常に狙っているところ。いいボールが来て、自分がうまく相手の裏を取って決めることができた。CBとの駆け引きは負けたくない。あの駆け引きで勝たないとゴールは奪えない」(染野)
勝負どころの時間帯で相手DFを出し抜いて最も“美味しい”ポジションを取り、ここしかないという位置にクロスを呼び込んでゴールを決める。まさにエースの仕事だった。
そのさらに前の80分には、PKキッカーを自ら志願して蹴り込み、追撃の1ゴールも決めている。緊張もなかったという一発から、染野ショーは始まっていたのかもしれない。
ただ、個人的に印象的だったのは、単にゴールを決めたというところにとどまらない。この試合に限らず、先日のU-23日本代表の試合でも際立っていた部分がある。
それが守備だ。
(C)Getty Images「当たり前」の守備
センターFWの仕事は点を取ること。その考えは間違いではない……というか、それこそが正解ではある。得点を求められるポジションなのは間違いない。そして染野がその点を追求してきた選手であり、ゴールにこだわるプレーヤーなのも確かだ。
ただ、自分が“おいしい”仕事をこなすことだけを意識しているような選手に、現代サッカーでの居場所はない。鹿島アントラーズでなかなか出場機会を得られず、東京Vへ期限付き移籍してきた城福浩監督が口酸っぱく説いてきたのも、まさにそうした部分だった。試合後、指揮官はこう語っている。
「ストライカーというのはゴール前で自分のエネルギーで使いたい、守備で使いたくないものなんですよね。でも、われわれがボールを奪わないことには攻撃もできない。今日、(染野は)奪いに行くスイッチの先頭を担ってくれた。だからこそ最後、彼の所へボールが行った」(城福監督)
先日行われたU-23日本代表の試合でもそうだった。特にセンターFWとして先発した25日のU-23ウクライナ代表戦では、最前線で守備のスイッチを入れ、猛然とプレスをかけ、また外されてもプレスバックし、球際でもハードに競り合う姿を見せ続けた。
試合後、ゴールがなかったことで本人は不満げな表情だったのだが、守備について問われると「ヴェルディでもやっていることなので」と事もなげに話した。「それは当たり前でしょ」と言いたげにも見えたが、そうした姿勢が「当たり前」になっていることこそ明確な変化だろう。
京都戦の72分、自身のミスパスでボールを失うと素早く守備に切り替えて自ら猛追、そのままボールを奪い返して再度攻撃に出るようなシーンがあった。いまの染野にとっては「当たり前」のプレーなのだが、3年前の染野なら違ったかもしれない。その点を本人に問うと、こんな答えが返ってきた。
「監督含めてヴェルディで言われていることなので、意識してやっていること」(染野)
城福監督以下スタッフから言われ続けた守備、攻守の切り替えスピードといった強度の部分は、間違いなく東京Vに来て染野が一段のスケールアップを遂げた部分だ。
「自分の得意なものだけのためにエネルギーを溜めておくという思考から、彼は一皮むけつつある」(城福監督)
(C)Getty Images万能MFから異能のFWへ
染野は割りと何でもできる選手である。
ボールも持てるし、運べるし、遊べる。周りも見えて味方も使え、中距離のパスを通す力だってある。中学時代はボランチだったのも、そうした器用さを思えば、妥当な起用法だったのかもしれない。
ただ、鹿島アントラーズつくばジュニアユースからユースへの昇格を逃し、福島県の尚志高校へと進路を定めた染野を待っていたのはFWへのコンバートだった。その決断を下した仲村浩二監督は、その理由として当時こう語っていた。
「ゴール前に行けば崩しのアイディアも出せるし、シュートもある。ヘディングも強いんですよ。点を取る感覚も持っていると思います」
ついつい中盤に下がって受けたがる染野に対し、尚志の指導陣は「ゴール前で受けろ。DFを出し抜け」と言い続け、点取り屋としての才能を開花させることに成功。器用なボランチは、全国高校サッカー選手権大会を大いに沸かせるストライカーとなった。
(C)Getty Images現代型FWへ脱皮の過程
プロ入り後は器用さゆえにいわゆる“9番”の位置ではなく、中盤での役割を与えられることも多かった。U-23代表の大岩剛監督も、先日のウクライナ戦を除くと染野に与えてきたポジションはインサイドハーフである。
ただ、城福監督にFWとしての火を再び入れられた染野は、「現代型FW」へと脱皮しつつある。
前線で体を張ってタフに戦い、チームのための戦術的な役割をこなし、その上でストライカーとしてゴールを奪って輝く。
「今日はゴールを決められて、まずは良かった。このチームで誰よりも点を決めたい」
そう語った染野は、「ゴールで自分の価値を示さなきゃいけない」とも言う。目指す理想像は、シンプルに定まっているようだ。