Liam Delap City gfxGetty/GOAL

イプスウィッチのスター選手リアム・デラップ:イングランド代表入りが期待される選手をマンチェスター・シティが手放した理由

イプスウィッチ・タウンはプレミアリーグで最も低い給料しか支払っていないかもしれないが、ひとたび選手たちを説得して加入させると、自分たちしか利用できない財産に変え、プレミアをつけて売ることのできる人気選手に育てることができる。イプスウィッチ出身で最も有名なのはエド・シーランで、過密なツアーのスケジュールにもかかわらず、試合を観戦する時間を確保していることはよく知られるところだ。昨年、このクラブの最も有名なファンであり、少数株主でもある彼は、クラブ最大の契約を締結した。

「地元出身の世界的スーパースターであり、サッカークラブのスポンサーであり、今では株主である人物が、正式に採用チームの一員となった」と、Soccerexの会議でCEOのマーク・アシュトンは言った。「夏、私たちはある選手にクラブへの入団を説得しようとして、すぐに彼がエド・シーランのファンであることに気づいた。エドは、選手獲得の決め手となることを願って、練習場でその選手とZoomで話をした」。

アシュトンは当初、その選手が誰かを明かさなかったが、クラブでの調子を尋ねられた際に、「もちろん、いくつも得点を決めているよ!」と、答えた。彼が言っていたのは、今シーズンのイプスウィッチの得点の半分を決め、22年ぶりのトップリーグ復帰を果たしたトラクターボーイズの生き残りをかけた戦いに本物の希望をもたらした、リアム・デラップだったのだ。21歳のストライカーは、プレミアリーグで素晴らしいデビューを果たし、強豪クラブの注目を集め、イングランド代表のハリー・ケインの後継者として期待されるようになった。

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    ロジャースやパーマーと同じ出身

    アストン・ヴィラ戦での鮮やかな同点ゴールや、トッテナム戦、チェルシー戦で試合を決める活躍をする前、プレミアリーグがバークレイズ・プレミアリーグと呼ばれていた時代にも、デラップはその名を聞くだけでファンたちが感情をかき立てられる存在だった。というのも、リアムは、長距離かつ高速のスローインを投げる驚異的な能力で知られたストーク・シティの秘密兵器、ロリー・デラップの息子なのである。

    引退後、ロリーはダービー・カウンティのユースチームのコーチとなり、リアムも父のもとでサッカーを始めた。そして2019年、16歳でマンチェスター・Cに移籍した。マンチェスター・Cのアカデミー採用責任者であるジョー・シールズにスカウトされたのだ。シールズは、ジェイドン・サンチョやジェイミー・ギッテンスなど、多くの若き才能をアカデミーに引き入れ、卒業させた人物である。

    デラップがチーム唯一の得点を決めたバーンリーとのFAユースカップの試合のメンバー表を見ると、コール・パーマー、モーガン・ロジャース、テイラー・ハーウッド=ベリス、ジェームズ・マカティーなど、当時マンチェスター・Cに在籍していた、信じられないほど才能に恵まれた若い選手たちが並んでいる。デラップは17歳だったにもかかわらず、後に23歳以下のチームに昇格し、ロメオ・ラヴィアらとチームメイトとなった。

    そして、マンチェスター・Cが残念ながらプレミアリーグのタイトル防衛に苦労し、チャンピオンズリーグを恥ずかしながら敗退する可能性のある悪夢のようなシーズンを過ごしている今、多くの人々が、才能ある若手をトップチームに昇格させるのではなく現金化してしまったのは大きな間違いだったのではないかと疑問を抱いている。

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    ペップの高い評価

    ラヴィアやロジャースがマンチェスター・Cでトップチームの試合に出場することはなかったのに対し、デラップはペップ・グアルディオラ監督のチームで、短い期間ではあったが、少なくともその一端を経験していた。 デラップはマンチェスター・Cのトップチームで合計180分間プレーし、プレミアリーグではレスター・シティ戦とノリッジ・シティ戦の2試合に途中出場したのだ。

    新型コロナウイルス感染症対策のため無観客試合となったカラバオ・カップのボーンマス戦が先発出場した唯一の試合だが、そこで得点を決めている。 その1年後、ノリッジ・シティに4-0で大勝した試合では、デラップが獲得したPKをラヒーム・スターリングがリバウンドを押し込んで決めた。 同じシーズン、デラップはFAカップのフラム戦で得点を決めたが、これはオフサイドの判定で取り消された。

    フラム戦後のグアルディオラ監督の発言は、クラブでのさらなる活躍のチャンスを期待させるものだった。監督は「我々にはいないタイプのストライカーだ」と、言ったのだ。さらに同監督は「彼はキラーだ。典型的な英国人ストライカーで、信じられないほどの決定力がある。彼は特別な資質を持っている。他のストライカーとはタイプが違う」とも言った。

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    ケガとハーランドのせいで試合出場を阻まれる

    そのシーズン、マンチェスター・Cはセンターフォワードを欠く試合が多かったため、足首の負傷で5か月間プレーできなくなることさえなければ、デラップは、もっと多くの出場機会を得ていたかもしれない。ところが、その夏、マンチェスター・Cはアーリング・ハーランドと契約し、デラップは、より多くのシニアレベルの経験を積むためにレンタル移籍に出されることとなり、クラブで成功を収めるチャンスは残酷にも打ち砕かれた。

    彼はまず、父親がアシスタントコーチを務めていたストーク・シティに移籍した。ただし、父と一緒だったのはシーズンの半分だけだった。その後、プレストン・ノースエンドでシーズン後半を過ごしたが、昨シーズン、ハル・シティに移籍して初めて自分の居場所を見つけた。攻撃の右ウイングとして、移籍後5カ月で7得点を挙げたのだ。

    しかし、1月に膝を負傷し、3カ月プレーできなかった。その後、1得点を追加して8得点でシーズンを終えた。その後加入したイプスウィッチではキーラン・マッケナ監督のもとでセンターフォワードとしてプレーし、すでに昨シーズンを上回る得点を挙げている。

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    イプスウィッチで名を馳せる

    デラップは新しい役割にスムーズに適応し、今シーズン最初の10試合で勝利を挙げることができなかったイプスウィッチの中心人物となった。その後、デラップの活躍により、チームは次の9試合で3勝を挙げることとなる。イプスウィッチの監督は次のように説明した。

    「彼はこの18カ月でプレーのレベルを向上させた。プレシーズンに加入した当初から、彼のゴールに向かうプレーの質の良さは我々を驚かせた。この12カ月で彼は体格も良くなり、身体能力も大幅に向上した。彼は情報をよく吸収し、それをうまく応用できるので、彼の学習能力の高さ、物事の実行力、そして自分のプレーについて話し合い、向上しようとする姿勢には、嬉しい驚きを感じている。これらは若い選手にとって大事な要素だ」

    プレミアリーグの歴代最多得点記録保持者であるアラン・シアラーも、今シーズンのデラップの活躍に感銘を受けている。「彼は今シーズンすでに、名のある選手たちと互角に渡り合っている。彼は戦い、ファイト、バトルを好むが、私はそれを悪いとは思わない」と、『Amazon Prime』で語っている。「彼はあらゆる要素を兼ね備えている。チャンネル(タッチラインとハーフウェイ・ラインの間にある縦の帯)でボールを受けることができるし、ショートもできる。センターバックと真っ向から対決することも厭わない。何よりも、彼に得点を決める能力がある。それに、彼はレンタル移籍中であり、すべてが思い通りというわけではないのだ」。

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    「世界トップクラスの選手」

    デラップの得点力はプレミアリーグの得点ランキングでトップ14に入り、コール・パーマー、オリー・ワトキンス、ジェームズ・マディソンに次いでイングランド出身選手の中ではトップ4である。 当然のことながら、トーマス・トゥヘルが3月のワールドカップ予選で初めてスリー・ライオンズの監督として選手団を発表する2カ月前、デラップはイングランド代表チームの候補選手のひとりとなった。

    「彼はイングランドにとって重要な選手になれると思う」と、チェルシーのマレスカ監督は語った。「1年間一緒に過ごしたが、彼は22~24得点を決めた。彼は非常に優れたストライカーだ。イングランドには多くの優れた選手、多くの優れたストライカーがいるが、彼はボールがあるなしに関わらずハードワークを怠らず、試合の流れを理解し、ゴールを決めることができる」。

    ダニー・マーフィーは、イングランド代表のキャプテンである31歳のケインが代表引退を決意した際には、彼がバトンを受け継ぐべきだと主張している。「今シーズン、私は彼をかなり多く見てきたが、私としては、彼こそケインの長期的な後継者であると明らかに断言できる。イングランドの若手ストライカーの中で最高だと思う。彼にはまだ学ぶべきことがあり、経験とリーグでの出場時間が間違いなく彼に知恵をもたらすだろう。彼は国際的なトッププレーヤーとなるためのあらゆる素質を備えている」。

    デラップは2023年のU20ワールドカップでイングランド代表として活躍し、リー・カーズリー監督率いるU21代表チームのレギュラー選手でもある。欧州選手権予選では7試合に出場して2得点を挙げており、すでにフル代表の選手として活躍していなければ、今夏のスロバキアでの大会にも出場するだろう。

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    マンチェスター・Cではよくある話

    また、デラップは今シーズン、マンチェスター・Cの選手の中でハーランドを除くすべての選手を上回る得点を挙げている。事実、クラブの2番目の得点者であるヨシュコ・グヴァルディオールの得点数を2倍も上回っている。グアルディオラ監督は、エティハドを去ってからの彼の成長ぶりに感銘を受けているが、彼を手放したことへの後悔の念は一切ない。「彼がここにいたとき、我々は常に彼をプレミアリーグの典型的なストライカーだと思っていた。そして、彼は本当にうまくやっている」と、マンチェスター・Cの監督は金曜に語った。「我々は彼のために喜んでいる! マンチェスター・Cのアカデミー出身の選手は大勢いる。彼らはプレミアリーグで完璧に活躍できる才能がある」。

    マンチェスター・Cのファンには、デラップがなぜグアルディオラ監督のトップチームに食い込めなかったのかと問う権利があるだろう。そして、その答えは、マンチェスター・Cのレベルは他と比べて高いということだ。アカデミーからエティハド・スタジアムのトップチームのレギュラーにまで上り詰めた攻撃的選手はフィル・フォーデンただひとりであり、リコ・ルイスも飛躍的な進歩を遂げたが、3年目の今でも不動のスタメンというわけではない。成功するには、早熟の才能と少しの幸運の両方が必要だ。 デラップは、マンチェスター・Cにストライカーがほとんどいないシーズンに負傷するという不運に見舞われたが、トップチームで定着はできなかったものの、その後は他で素晴らしいキャリアを築いている。

    そして、フォーデン、ルイス、パーマー、ロジャース、ハーウッド=ベリスらとともにイングランド代表の一員となるのも、時間の問題である。2024年のEURO期間中にスリー・ライオンズのキャンプを訪れたエド・シーランが、彼に初めての招集を伝えることになるかもしれない。