Ian Subiabre NXGN GFXGetty/GOAL

イアン・スビアブレ:リヴァプールやアーセナルなどによる争奪戦に?世界屈指の“タレント工場”リーベルの新星18歳【NXGN】

これまで故アルフレッド・ディ・ステファノ氏など、歴史に名を残す数々の名選手を輩出してきたリーベル・プレート。しかし、1990年代後半の判断は未だに悔やんでいるだろう。トレーニングセッションで12ゴールを決めた若き日のリオネル・メッシを、「同じような才能を持つ選手はたくさんいる」とし、彼の成長ホルモン治療を負担することを拒否。するとメッシはバルセロナへと渡り、名実ともに史上最高の選手となっている。

リーベルはその失敗を埋め合わせるかのように、さらに育成へと力を入れることに。2022年にアルゼンチン代表が世界の頂点に立ったが、エンソ・フェルナンデスやフリアン・アルバレスなど、6選手がリーベルの出身だ。今年はじめには、クラウディオ・エチェベリがマンチェスター・シティへ移籍。さらに先日、レアル・マドリーがフランコ・マスタントゥオーノをおよそ3400万ポンドで獲得している。

そんな世界屈指の“タレント工場”から、次のスター候補と期待されるのがイアン・スビアブレだ。U-17ワールドカップやU-20南米選手権で絶大な輝きを放った18歳には、すでにチェルシーやリヴァプール、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッドが強い関心を示していることが伝えられる。今回は、アルゼンチン次世代のスーパースターを紹介する。

  • Ian Subiabre (C)Getty Images

    すべての始まり

    父方の祖父は19試合18勝のアマチュアボクサーで、父はアルゼンチン下位リーグのサッカー選手、母方の祖父と叔父はローカルリーグプレーするなど、アスリート家系に生まれたスビアブレ。5歳で地元チームにて頭角を現すと、8歳でリーベルのユースチームにスカウトされた。しかし当時はブエノスアイレスへの引越し費用を支払う余裕がなく、故郷コモドロに残ってCAIに加入。リーベルの練習には3カ月毎に参加、毎回バスで24時間かけて向かっていたという。

    その後、スビアブレはビジャレアルやレバンテのトライアルにも参加したが、移籍は実現せず。しかしCAIの親善試合にて、当時U-15アルゼンチン代表チームを率いていたリーベルの伝説的なOB、パブロ・アイマールの目に留まると、その後まもなく正式にリーベルのユースチームへと加入した。育成の名門で順調に成長すると、2023年に初めてのプロ契約を締結。契約解除金は2500万ユーロに設定された。

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  • Ian SubiabreGetty

    ブレイクのきっかけ

    そんなスビアブレはU-17ワールドカップにもアルゼンチン代表として参加したが、この大会ではエチェベリやマスタントゥオーノといった才能の影に隠れることに。それでも2025年のU-20南米選手権では8試合で3ゴール、ブラジル戦、チリ戦、コロンビア戦と重要な試合でネットを揺らし、U-20ワールドカップ出場権獲得の立役者となっている。

  • 高まる評価

    リーベル指揮官マルセロ・ガジャルドは才能ある若手よりも経験豊富な選手を好む傾向にあったが、南米選手権の活躍により、スビアブレは徐々にトップチームでも出場機会を獲得。リーグ戦8試合とコパ・リベルタドーレス3試合、いずれも途中出場だったが、3月には初ゴールもマークするなど、少ない時間でインパクトを残すことに成功。クラブワールドカップ参加メンバーにも選ばれた。

    そしてその才能はアルゼンチン国内でも高く評価され、6月初旬にはA代表のトレーニングも招待され、憧れのメッシの横でプレーするチャンスも得ている。

  • Ian SubiabreGetty

    最大の強み

    左利きで右ウイングを主戦場とするスビアブレ。最大の強みは、やはり爆発的なスピードと加速力だ。さらにドリブルの緩急やボールコントロール技術も非常に高く、狭いスペースでも果敢に仕掛けて突破が可能。また、左足のシュートテクニックも印象的だ。

    幼少期には“バリリテ(風船)”の愛称で親しまれたスビアブレは、リーベル公式HPで「一対一での局面に自信があるし、深い位置まで降りてアシストするもの好きだよ」と自身のプレーについて語っている。

  • Ian SubiabreGetty

    改善の余地

    一方で、一般的な10代の選手と同じくフィットネスレベルはまだまだ物足りない。ガジャルド監督が45分以上起用した試合は1度だけであり、未だ先発がないことも、まだトップレベルで長い時間戦えるほどのフィジカルが備わっていないことを示している。元ボクサーである彼の祖父は、「技術的には素晴らしい能力を持っているし、今後は身体づくりを大切にしないとね。これまで通りの自己管理を続けていけば、間違いなく成功するよ」と『ラ・ナシオナル』で語っている。

    また、プレーの多くを左足に依存していることもあり、右足の精度は改善の余地がある。さらにロングレンジからのシュートも身につければ、相手DFはより対応が難しくなるだろう。

  •  Julian Alvarez of Atletico de Madrid celebrates scoring Getty Images

    フリアン・アルバレスのように

    スビアブレは2022年のリーベル公式HPのインタビューで、「最大のロールモデル」としてフリアン・アルバレスの名前を挙げている。当時リーベルのトップチームで活躍していた現アトレティコ・マドリーFWについて、「特別な選手だし、模範となる存在だよ。練習も全力で取り組むし、試合では圧倒的なクオリティを見せる。技術力もあってゴールを決めるし、それでいて常にプレスをかけ続けるんだ。ゲームを読む力も完璧だね」と絶賛していた。

    その後2度のプレミアリーグ制覇やチャンピオンズリーグ優勝を達成し、アルゼンチン代表としてもワールドカップを制したフリアン・アルバレスは、リーベルの子どもたちにとって憧れの存在である。そしてスビアブレは、彼から大きな影響を受けていることがそのプレーに表れている。アタッカーの選手ながらかなり深い位置まで降りてチームメイトのスペースを作る動きや、ゴールだけでなく、周りの状況を確認しながら決定的なパスを狙うプレー、驚異的なワークレートは彼を参考にしているのだろう。

    U-17ワールドカップ前にフリアン・アルバレスと再開した時、スビアブレは「フリアンは今でも僕の目標だし、彼のように成功したいね」と語っている。

  • Ian SubiabreGetty

    欧州挑戦の可能性は…

    最近の南米出身の若手プレイヤーは、トップチームデビュー直後に欧州のビッグクラブへとステップアップする傾向にある。しかしフリアン・アルバレスは、コパ・リベルタドーレスで1試合6ゴールを奪った他、マンチェスター・シティへの移籍はワールドカップ優勝後など、リーベルで十分な経験を積んでからヨーロッパ挑戦を選択した。スビアブレも同じ道をたどるべきだろう。

    すでにチェルシーが接触し、リヴァプールやアーセナル、マンチェスター・ユナイテッドのスカウトも熱心に動向を注視していることが伝えられている。このクラブワールドカップは欧州列強にとっての“見本市”であり、この大会で活躍すればオファーはさらに増える可能性は高い。セバスティアン・ドリウッシの負傷も、彼にとってはプラスに働くかもしれない。

    それでも、まずはリーベルのトップチームで先発の座を掴み取ること、トップレベルでも90分戦えるフィットネスレベルに到達すること、プレー選択を増やして予測不可能な選手になることが重要だ。彼の才能を見れば、欧州挑戦は「もし」ではなく「いつ」である。焦らずに世界屈指の“タレント工場”で力をつけ、今後の飛躍に期待したい。

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