Andoni Iraola Pep Guardiola Man City GFX 16:9GOAL

グアルディオラの理想的な後継者に?イラオラがボーンマスで見せる「プレミアリーグ最新トレンド」

3月のインターナショナルウィークは伝統的に、各クラブが来季に向けたプランへと焦点を当てる時期だ。チェルシーはジオバニー・クエンダ、ダリオ・エスーゴとの契約を結び、レアル・マドリーはトレント・アレクサンダー=アーノルドと事前契約で合意したと伝えられている。

そしてビッグクラブの次期指揮官として注目を集めているのが、ボーンマスを躍進に導くアンドニ・イラオラだ。

これまで「アウトサイダー」だったボーンマスをプレミアリーグで最もエキサイティングなチームの1つに育て上げ、チャンピオンズリーグを狙える位置まで導く手腕は本物だ。さらにノッティンガム・フォレストを5-0、ニューカッスルを4-1と敵地で撃破するなど、ビッグゲームでの勝負強さも光っている。今季は“ビッグ6”のうち4チームを破ってみせた。

すでにアンジェ・ポステコグルーの進退が騒がれるトッテナム、そしてカルロ・アンチェロッティの将来が不透明なレアル・マドリーが狙っているとも噂されているが、マンチェスター・シティこそこのバスク人監督をターゲットにすべきだろう。なぜなら、ジョゼップ・グアルディオラの後継者として理想的な指揮官であるからだ。

  • Man City BournemouthGetty

    今季最高の一戦

    今季ボーンマスが挙げた最も印象的な勝利はプレミアリーグ第10節、シティをホームで破った一戦だ。2-1とスコアは僅差だったが、グアルディオラは「ハイテンポでスピーディーなプレーについていけなかった」と認めている。そしてイラオラ自身も、「シティを破ることはできても、より良いプレーをすることはまた別。我々は恐れずにプレーできたね」と手応えを口にしている。

    そして30日、ボーンマスはFAカップ準々決勝で再びシティをホームに迎える。クラブ史上初の準決勝進出を懸け、あの衝撃的な一戦の再現を狙っていることだろう。

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  • Manchester City v Plymouth Argyle - Emirates FA Cup Fifth RoundGetty Images Sport

    ポゼッション率=支配率ではない

    11月のあの一戦まで、シティは開幕9試合で7勝を挙げて首位を走っていた。しかしバイタリティ・スタジアムでの敗戦から、9試合で6敗(1勝2分け)と誰も予想し得なかった不振に苦しむことになった。ペップは1月、『TNT』で「現代フットボールは、ボーンマスやニューカッスル、ブライトン、リヴァプールのようなプレー方法だろう。ポゼッションではないんだ」と語っている。

    ペップとバルセロナは、現代フットボールではもはや「当たり前」となった“ポジショナルプレー革命”を主導した。だが今シーズン、プレミアリーグで「成功している」チームの多数がボール保持を前提としていない。例えば、最も平均ポゼッション率が低い(39.5%)ノッティンガム・フォレストはここまで3位、シティに6ポイント差をつけている。

    そう、必ずしもポゼッション率が高ければ試合を支配できるわけではないのだ。シティは今季「60.8%」でこのスタッツでは首位だが、順位表では5位だ。トッテナムはスタッツ上4位だが、順位表が示すのは14位。マンチェスター・ユナイテッドもポゼッション率では7位につけているものの13位と、1990年以来の最悪のシーズンを過ごす可能性がある。

  • Brighton & Hove Albion FC v AFC Bournemouth - Premier LeagueGetty Images Sport

    プレミアリーグの最新トレンド

    ボーンマスもポゼッション率はリーグ15位と下から数えたほうが早い。しかし、速攻に関する指標はリーグ最高ベレルだ。カウンタープレスは最多、ターンオーバー(相手ゴールラインから40m以内のボール奪取)からのシュート数、トランジションからのシュート数もトップの成績を残している。

    あのシティ戦でも、第28節のトッテナム戦(2-2)でも、彼らは高速攻撃で相手を圧倒していた。ボール奪取後、シティやアーセナルはポジションバランスを整えることを優先しているが、ボーンマスはできるだけ早く相手ゴールを目指すことを最優先事項としている。イラオラは『スカイスポーツ』でこう語っている。

    「ボールを奪い返したときにまず試みるのは、No.9にボールを渡すことだ。その瞬間は、ほとんどの場合相手がうまくポジショニングできていない。だからこそよりスペースを見つけられるんだ」

    これは現代フットボールのトレンドと言えるだろう。『Opta』によると、今季のプレミアリーグはトランジションからのシュート数が全体シュート数を占める割合が過去最高(10.2%)となっており、またゴールを占める割合も最高(7.1%)となっている。

  • Tottenham Hotspur FC v AFC Bournemouth - Premier LeagueGetty Images Sport

    ファンが望むスタイル

    2020年にラージョ・バジェカーノの指揮官に就任したイラオラだが、ラ・リーガ1部へと昇格を果たした最初のシーズン、バルセロナを相手にシーズンダブルを達成した。結局リーグ戦の4試合は3勝1分け、一度も敗れていない。その強烈なインテンシティとゴールへと直結するプレーは、ボーンマスでさらに洗練された。

    2023年、指揮官として初めての対戦を控えたペップは、イラオラについて「彼はスペインで最も将来有望な若手監督の1人。素晴らしい成功だよ」と称えている。そしてペップの言う通り、彼はイングランド最高レベルのリーグで成功し、最新トレンドを築き上げた1人となった。それこそ、シティの現在のスタイルに不満を溜め込むファンが最も「観たい」プレーを実現しながら、である。

  • Kevin De Bruyne Manchester City 2024-25Getty Images

    1月の補強が示す意味

    これまでペップが最も評価されてきた1つが、最新トレンドを見極める力だ。シティは時代に合わせて少しずつ変化し、よりフィジカルでパワフルなチームへと変貌した。サイドバックにヨシュコ・グヴァルディオルを起用すること、ジェレミー・ドクの台頭などもその一例である。

    一方で最大のミスは、同じ選手たちで勝ち続けられると信じていたこと。ペップは昨夏、クラブが申し出た追加の補強を拒み、サヴィーニョとイルカイ・ギュンドアンのみを獲得した。だが結局、その試みは失敗している。本人も「私は彼らを頼り、また同じことができると考えていた。だが負傷者が出てからは『補強すべきだった』と思ったよ」と振り返っている。

    今季のシティの問題は負傷者だけではない。チームの高齢化は進んでおり、プレミアリーグのテンポに対応できなくなっている。ベルナルド・シウバとギュンドアンは顕著であり、ケヴィン・デ・ブライネもこの10年で蓄積された疲労とケガの影響で肉体は消耗しきってしまった。

    1月には4人を補強してチームの若返りを図ったが、これは現代フットボールへ適応するためには「これまで通りの方法では不可能」という認識の表れだった。こうした変化に合わせ、新たなスタイルを持ち込むことを真剣に検討しなければいけない時期が来ているということだろう。

  • IraolaGetty

    ペップの理想的な後継者

    今季のリヴァプールが首位を独走しているのは、ポゼッションだけでなくトランジションでも圧倒しているからこそ。トランジションからのシュート数はボーンマスに次ぐ2位で、ゴール数(31)は他チームを10得点以上離している。速攻からのシュート率(11%)でもトップだ。これもトレンドが移り変わっていることを示す指標の1つである。

    ペップのこれまでの経歴やシティがアカデミーから取り組んでいるスタイルを考慮すると、ポジショナルプレーを放棄することはありえない。それは当然だ。ポジショナルプレー自体が悪いわけではない。だが、シティやアーセナルがブロック守備を組む相手に苦戦し続けていることを考えると、リヴァプールのように「ポジショナルな攻撃」と「トランジションからの攻撃」をうまく組み合わせる必要が、これまで以上に明らかとなっている。

    おそらくこの世界で最も「負けず嫌い」なペップは、すでに来季に向けてプランを練り始めており、このかつてないほど厳しいシーズンから逆襲する可能性は十分にあるだろう。しかし、現行契約は残り1年。昨年の契約延長まで様々なことがあったことを考えると、来季終了後にシティに別れを告げる可能性は高い。そうなれば、シティはもちろん後継者を探さなければならない。

    プレミアリーグ史上で最も成功したチームを引き継ぐことになる後継者として、様々な候補が挙がることは間違いない。ビッグクラブの指揮を歴任してきた名将と呼ばれる名前も聞こえるだろう。だが、イラオラこそが完璧な後継者となるかもしれない。そうなるだけの実績は、今季十分に示してきた。