Mauricio Pochettino N'Golo Kante Mason Mount ChelseaGetty Images

【チェルシーの厳しい移籍市場】「放出候補」は売れる気配なく、ハヴァーツら主力ばかりが退団に迫る理由

「今夏の移籍市場でチェルシーを退団する可能性がある」。そんな報道が相次いでいるが、夏の移籍市場が開幕した中で、未だ「放出候補」とされてきた選手の去就は動きそうにない。そしてクラブの意思に反し、マウリシオ・ポチェッティーノ新監督がクラブの長期プランの一部と考えていた重要な選手ばかりが、突然移籍へと進み始めている。

ここ数週間で、エンゴロ・カンテ、メイソン・マウント、マテオ・コヴァチッチは移籍に向けて具体的な交渉内容まで伝えられている。そうして14日には、カイ・ハヴァーツにアーセナル移籍の可能性が浮上。彼らはピッチ上で重要で、チームの中心的存在で、ファンに愛され、ポチェッティーノのプランの一部だった。チェルシーは当初予定していた選手ではなく、中核を手放す危険にさらされている。

なぜこのような状況に陥ってしまったのだろうか? 『GOAL』のクリシャン・デイヴィス氏が分析する。

  • Kai-Havertz(C)GettyImages

    退団に向かう主力選手たち

    チェルシーのスカッド整理は、予想よりも徹底的になるかもしれない。新体制の下で完全にリセットする可能性すら感じられる。それがポチェッティーノの判断なのか、クラブ上層部の決断かは定かではない。1つ言えるのは、あまりに冷酷な判断だということだ。

    現在退団に向かっているのは、カンテ、マウント、コヴァチッチ、ハヴァーツ。いずれも中心選手だ。カンテはサウジアラビア、マウントはマンチェスター・ユナイテッド、コヴァチッチはマンチェスター・シティ、ハヴァーツはアーセナル……。カンテ以外、すべてプレミアリーグのライバルクラブへ向かうかもしれない。

  • 広告
  • N'Golo Kante Chelsea 2022-23Getty Images

    コヴァチッチとカンテとの別れ

    上記の選手の中で、コヴァチッチとカンテの場合は仕方がないかもしれない。

    コヴァチッチとの契約は残り12カ月となっており、契約延長が見込めないことから現金化するしかない。ピッチ上では変わらず重要な存在だが、移籍金の獲得できるうちに放出するのが正しいと言える。

    そしてカンテの場合、確かに退団は痛手だし驚きではある。だが32歳という年齢と近年の負傷による稼働率の低下、さらに6月末で契約が満了することから、今夏のお別れがベストだろう。週給30万ポンド近い給与が削減できることはプラスにはなる。

    一方で、マウントとハヴァーツの放出は不可解だ。とはいえ、前者とは早い段階で契約更新することに失敗。チェルシーは交渉で非常に弱い立場に追い込まれた。マウントは高額な賃金要求が満たされないのであれば、喜んでクラブを後にするだろう。ハヴァーツは重要な場面で輝くこともあったが、不慣れな役割で満足な結果は残せていない。そしてクリストファー・エンクンクの加入が間近に迫っていることは、彼の退団を示唆するものかもしれない。

  • Aubameyang Chelsea 2022-23Getty Images

    「放出候補」たちの状況

    チェルシーはUEFAのファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)規則に従うため、今夏に退団する選手は二桁に到達する可能性も伝えられている。しかし、未だ彼らが「放出候補」とした選手たちに関する憶測はほとんど聞こえてこない。

    ロメル・ルカク、ハキム・シイエシュ、ピエール=エメリク・オーバメヤンは、ほぼすべてのビッグネームと同じくサウジアラビア勢から騒がれているだけ。クリスチャン・プリシッチとルヴェン・ロフタス=チークはミランとの関係が薄れ、プレシーズンが近づく中で何も進展していない。さらにレンタルが予想される選手、レンタル復帰も明らかに戦力として数えられていない選手についても、ほぼニュースはない状況だ。

    もちろん、まだ移籍市場は始まったばかりだ。だがこのままでは、前任者グレアム・ポッターやフランク・ランパードにとって最も重荷となった、31人の肥大化したスカッドをポチェッティーノがそのまま引き継ぐことになる。強化部門責任者のポール・ウィンスタンレー、ローレンス・スチュワート両名は迅速に仕事に取り掛かかなければならない。舞台裏での動きによっては一気に決まるのかもしれないが。

  • Todd BoehlyGetty

    タイムリミット

    『The Athletic』によると、チェルシーはこれ以上の選手売却を2022-23シーズンの売上に含めたい場合、6月30日までに放出か契約を解除してもらわなけれないけないという。もう期限はすぐそこまで迫っているため、時間は無い。

    昨夏~1月までの2回の移籍市場で、チェルシーが選手獲得に費やしたのは6億ポンド以上。一方で放出は、ティモ・ヴェルナー、エメルソン・パルミエリ、ジョルジーニョ、ビリー・ギルモアらで、売却額は合わせて6000万ポンド未満だ。6月末までに他の選手を放出できなければ、FFPやプレミアリーグ規定によって大きな代償を支払うことになるだろう。

    他の欧州リーグの移籍市場は、ほとんどが7月初めに開幕する。そのため、2022-23シーズンの巨額支出をイングランド内での選手売却で埋める場合には、もう2週間程度しか残されていない。

  • Alexis Mac Allister Liverpool 2023-24Getty Images

    ライバルの動き

    今シーズンの結果を考えると、チェルシーは移籍市場でライバルに後れをとる訳にはいかない。だがしかし、7月1日から仕事をスタートさせるポチェッティーノにとって、真っ先にやるべきはスカッド整理。少なくとも序盤は、補強は後回しになるはずだ。

    このため、チェルシーは出遅れることが予想される。そして、すでに2人のターゲットを逃した。アレクシス・マクアリスターはリヴァプールへ、マヌエル・ウガルテはパリ・サンジェルマンを選ぶ見通しだ。

    トッド・ベーリー会長らは過去2回の場当たり的なアプローチを改め、支出を絞ったより慎重なターゲット選定を行うことが予想される。それがモイセス・カイセド、アンドレ・オナナ、ヴィクター・オシムヘンら現在聞こえている名前なのだろう。だが、競合は多い。このまま出遅れれば、ダメージはさらに広がるかもしれない。

  • Thiago Silva Chelsea 2022-23Getty

    不振の代償

    1つ明らかなのは、悪夢のような2022-23シーズンの影響は、選手獲得にも放出にも色濃く出てしまっているということ。莫大な給与を受け取る選手たちを多数抱えており、彼らのほとんどはキャリア最悪のシーズンを過ごしたばかり。移籍を望むか否かにかかわらず、他クラブの関心を惹くことがほぼできなかった。

    新戦力を見てみると、欧州大会への出場権を獲得できなかったことから、マクアリスターやウガルテとの交渉も失敗。キャリアの飛躍を目指す選手にとって、魅力的なクラブとは言えないだろう。

    ポチェッティーノは到着前から課題が山積みだ。ウィンスタンレーやスチュワートもそうだろう。彼らは一歩でも間違えてしまえば、スタンフォード・ブリッジでの在任期間が早々に決まってしまうかもしれない。もう時間はほとんどないが、出だしから失敗ができない難しいミッションが待っている。

0