Mykhailo Mudryk Chelsea 2022-23 HIC 16:9Getty

"ウクライナのネイマール"チェルシーの新WGムドリクに140億の価値がある理由

シャフタール・ドネツクのリナト・アフメトフ会長は、ミハイロ・ムドリクを売却することについて「複雑な気持ち」だったようだ。「ヨーロッパのトロフィーを獲得するために」このような才能ある若手選手を押さえておきたいという思いがあったからだ。しかし、まだ65試合しか出場していない、実績の少ない22歳の選手を8900万ポンド(約142億円)で売却することを断ることができるだろうか?

確かに、移籍市場においての金銭感覚が狂い始めているこの世界でも、この契約には誰もが目を見張った。

チェルシーの最初のオファーはム6200万ポンド(100億円)。しかし、当初はアーセナルがシャフタールと同額で合意していたことを忘れてはならない。プレミアの2つのビッグクラブ獲得に動いていたほどだ。

しかし、この選手は識者やサポーターがプレーを見たことがほとんどない選手。では、ミハイロ・ムドリクとは何者なのか、そして彼は本当にこのような高額な移籍金を支払う価値があるのだろうか?

『GOAL』が、このウクライナ人と彼の驚くべき急成長の秘密を紹介する。

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    始まりの場所

    ムドリクはウクライナのクラスノフラドで生まれ、近くのハリコフでサッカー選手としてのキャリアをスタートさせ、2010年にメタリストに入団した。

    当時はまだ9歳で、不眠症に悩まされていた。しかし、祖母から大天使ミカエルの祈りのカードを渡されると、すべてが変わった。それ以来、ムドリクは敬虔なクリスチャンとなり、いくつかの宗教的なタトゥーに象徴されるように、首には「Only Jesus」と書かれたタトゥーが施されている。

    神への信仰と自らの能力への信頼が、彼のサッカー人生を支えてきた。

    メタリストで4年間を過ごした後、ドニプロ・ドニプロペトロフスクに入団し、ウクライナのサッカー界で最もエキサイティングなアンダーエイジのスター選手として地位を確立し始めた。実際、彼が2016年にシャフタールに引き抜かれたのは驚きではなかった。

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    大ブレイク

    シャフタールに移籍して2年後、ムドリクはウクライナカップのオリンピク・ドネツク戦でシニアチーム初出場を果たし、当時の指揮官パウロ・フォンセカから17歳でのプロデビューを言い渡された。

    しかし、トップチームにはまだ早い未熟な才能であることは明らかで、ムドリクは2018-19シーズンの後半にアーセナル・キエフにレンタルされている。

    翌シーズンはシャフタールでウクライナリーグ初出場を果たしたが、2020年に再びレンタル移籍し、今度はデスナ・チェルニヒフに移籍。ムドリクが本当にインパクトを与え始めたのは、2度目の復帰を果たした後だった。

    昨年3月のロシアのウクライナ侵攻により2021-22年シーズンが短縮されるまで、彼は19試合に出場し、2ゴールを記録。チャンピオンズリーグ(CL)のグループステージでシャフタールがレアル・マドリーに2-1で敗れたとき、彼は特に活躍した。その速さとトリッキーさでダニ・カルバハルを苦しめ、欧州中に自分を名前をアピール。その活躍ぶりはサンティアゴ・ベルナベウの観客から喝采を浴びるほどだった。

    この夏には、エヴァートンやブレントフォードが関心を示し、プレミアリーグへの移籍が取り沙汰されたこともあった。しかし、ムドリクはすでにトップチームへの移籍を目標にしていた。

    「失礼になってしまうけど、ブレントフォードには絶対に移籍しない」と彼は『スポルタレナ』の取材に答えている。

    「彼らはプレミアリーグの中位に位置し、ヨーロッパのカップ戦にも出場しないチームだ。僕にとって一番大事なのはチャンピオンズリーグなんだ」

    欧州のエリートたちが突然、ムドリクに興味を示したのは、今シーズンの前半戦におけるムドリクの成長、とりわけフィニッシュの向上が理由だった。ムドリクの技術は常に高く評価されてきたが、完成度には開幕前から疑問符がつけられていた。

    しかし、ワールドカップの中断期間までに10ゴール、CLではグループステージで3ゴールを決め、9アシストも記録した。

    チェルシーとアーセナルの両チームは、ムドリクの価値が今から2022-23シーズンの終わりまでに上昇し続けることを考えると、これ以上待つわけにはいかないと考えたのだろう。

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    最大のストロングポイント

    まず目を引くのは、ムドリクの驚異的な速さだ。今季のCLグループステージで、これほどまでに速い選手はいなかった。最高速度は時速36.6キロで、これはバルセロナFWウスマン・デンベレに匹敵する数字だ。文字通りである。しかも、ムドリクはもっと速く走れると信じている。時速40キロを出す自信があるという。

    また、ムドリクはキレのある機敏な動きが出来る。これは幼い頃、母親がダンスのレッスンを受けることを条件にサッカーを始めさせることが起因している。そして、左足でも右足と同じようにボールを扱うことが出来るのも強みだ。

    このスピードと軽快さ、そして両足のコンビネーションが、1対1の場面でディフェンスにとって悪夢となる。

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    改善点

    前出のフォンセカ監督は、ムドリクの才能に疑いを持つことはなかった。しかし、彼の気質には疑問を抱いていた。

    「彼はまだ学ぶべきことがたくさんある」と、2019年に行われたカラバフとの親善試合後に語っている。「彼はもっと多くのゴールを決めることができたはずだし、どうすれば改善できるかを理解しなければならない」

    「偉大な選手になりたいのであれば、彼はまだ全てを知っているわけではないので、ピッチ上での態度を少し変えなければならない」

    今シーズン序盤のレッドカードは、確かにポルトガル人監督の指摘を裏付けるように見えるが、ムドリクは少なくとも、その仕事熱心さには定評がある。

    そのテクニックと体格が示すように、彼はトレーニング場でもジムでも、常に時間を惜しまず働いている。

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    次のネイマールに?

    ムドリクは長い間、「ウクライナのネイマール」として知られてきたが、本人はその呼び名をそれほど気に入っているわけではないようだ。彼は「ウクライナのモドリッチ」の方が好きで、その理由は「響きが良いから」だという。

    しかし、彼は右サイドからのカットインが好きで、バレエのようにしなやかな左ウイング。ムドリクは明らかにパリ・サンジェルマンのスーパースターと比較にならないほど似ているのだ。

    もちろん、ネイマールのレベルに達するにはまだ長い道のりがあるが、彼と密接に仕事をしてきた者たちは、彼のワールドクラスのポテンシャルを疑うことはないだろう

    シャフタールのスポーツディレクターであるダリヨ・スルナは、ムドリクはキリアン・エンバペとヴィニシウス・ジュニオールに次ぐ世界最高のウインガーだと言い、元監督で現在はブライトンのボスであるロベルト・デ・ゼルビは「ミカエルはバロンドールを獲得する可能性を秘めている」と述べている。

    それは彼の夢でもあり、ムドリクの信念と野心の大きさを際立たせている。

    「2021年に僕がシャフタールの年間最優秀選手賞を受賞するとは誰も思っていなかった」と話し、今月初め、2度目の受賞。すると彼は「僕がバロンドールも受賞するとは誰も思っていない。でも、いつかそれが実現するかもしれない」と強気な発言をしている。

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    次に待つのは?

    バロンドールは、当分の間後回しにすることができる。ムドリクにとって重要なのは、土曜のリヴァプール戦だろう。チェルシーでのデビュー戦は、大きな意味を持つ。

    ただ、移籍金がネックになるかもしれない。このような未熟な選手にとって、巨額の金額はプレッシャーとなるのは必須だ。しかし、ムドリクに信頼が欠けていたことはない。

    彼は自分の能力を最大限に信じており、アンフィールドでプレーすることをとても楽しみにしていることだろう。

    「ウクライナのネイマール」にとって、忘れられない試合になるかもしれない。そして、トレント・アレクサンダー=アーノルドにとっても、忘れられない試合になるかもしれない...

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