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エンベウモに唯一足りない「ゴール」という結果:過去の“失敗”を繰り返さないよう…マンチェスター・ユナイテッドに求められること

今夏のマンチェスター・ユナイテッドの移籍市場における“目玉補強”の1つが、ブライアン・エンベウモだ。加入後すぐに精彩を欠いていた攻撃陣に活気をもたらし、スピードとパワー、そして巧みなファーストタッチですぐさま中心に。マテウス・クーニャとのコンビは最大の脅威となり、8月のクラブ月間最優秀選手に選出されたのも当然の結果だった。直近でもマンチェスター・シティとのダービーマッチでは1人気を吐き、そして劇的勝利を掴んだチェルシー戦は彼なしではあり得なかった。

だがしかし、ユナイテッドが獲得に踏み切った最大の理由である「ゴール」という面では、正直に言って物足りない。今季も苦戦が続くチームを救う結果が、何よりも求められている。

  • Manchester United v Burnley - Premier LeagueGetty Images Sport

    すでに欠かせぬ存在

    プレミアリーグ開幕5試合で1ゴール。スタッツ面だけで見れば、正直に言って物足りない。

    しかし、それは彼のハードワークが足りないということではない。試合中常に攻撃のチャンスを狙っており、1試合平均シュート数は「3」。彼が1人でカウンターを成立させるシーンは何度も見ているはずだ。また守備面での貢献も大きく、ボールひとつひとつに執着するメンタリティは誰しもが見習うべきである。ブレントフォード時代に長年彼を指導したトーマス・フランクは、2023年にこう語った。

    「チームへの貢献度は驚異的だよ。これほど懸命に働き、これほど重要な役割を担うウインガーは稀だ。『ボールをくれ、俺が仕切る』と宣言するキーマンになってくれたね」

    またルベン・アモリムも、8月30日のバーンリー戦勝利後に「ファーストタッチの質の高さは圧巻だよ。彼の存在によって、我々が別チームになったと実感できる。ボールを奪った時、相手チームを広げる選手が一人いるからだ。昨季はそこが少し課題だった」と語っている。

    さらにエンベウモがピッチ上で見せる姿勢は伝染し、ボールを執拗に追いかける姿はチームメイトとサポーターを鼓舞している。アモリムも「試合開始数分間を見ればわかる。良いプレーかどうかではなく、我々がプレスをかけ、ボールを奪い、コーナーを獲得し、コーナーキックへ全力で走る時のファンの声の響きが全てだ」と付け加えた。

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  • Manchester United v Chelsea - Premier LeagueGetty Images Sport

    プレーの効果性

    エンベウモの効果性は、チェルシー戦でも明らかとなった。ベンヤミン・シェシュコのフリックに反応して相手DFライン裏に走り込んだことで、GKロベルト・サンチェスの一発退場を引き起こしている。彼の強烈なランニングはチームを支え、今や重要な武器になった。交代時にスタンディングオベーションを受けるのは当然だろう。主将ブルーノ・フェルナンデスも、惜しみない賛辞を送っている。

    「僕らが数的優位を得たのは、試合開始から強いメンタリティで挑んだから。ベンがボールを追う時は、選手全員が背後をカバーしなければならない。ブライアンはそれを実行してくれたね」

    そしてエンベウモの存在は、加入以降なかなかチームに馴染めていないシェシュコにとって大きな助けになる。ゴールは彼自身の問題だが、フリーランでチャンスを作れるエンベウモは非常に相性が良いはずだ。

  • Leicester City FC v Brentford FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    ゴールを量産できた理由

    しかし、ゴールだけが足りない。ブレントフォードに所属していた昨季は、この段階ですでに4ゴールを記録していた。それと比べると、やはり物足りない。

    ブレントフォード時代の彼は、優秀な選手たちに囲まれていた。加入した最初のシーズンは、オリー・ワトキンスとサイード・ベンラーマと一緒にプレー。その後はイヴァン・トニーとのコンビで数々のビッグクラブを震え上がらせた。さらに、過去2シーズンはヨアネ・ウィサとの2トップを形成。2シーズンで合計80ゴールを奪い、昨季はエンベウモが20ゴール7アシスト、ウィサが19ゴール4アシストを記録している。

    昨年、公私ともに仲が良いウィサとの共同インタビューでエンベウモはこう語っている。

    「最高のパフォーマンスを発揮するには、サポートと愛情が必要だよ。ウィサのような、常に僕のためにベストを尽くそうとしてくれるチームメイトがいるのは本当に幸運だよ。いつでも100%の力を発揮したいけど、落ち込んでしまうときもある。そんな時に正しい方向に導き、支えてくれる彼のような存在がいるのは最高だね」

  • Manchester United v Burnley - Premier LeagueGetty Images Sport

    足りないサポート

    だが、ユナイテッドではそうしたパートナーがまだ見つかっていないのだろう。チームメイトはエンベウモについて「謙虚」や「静か」と表現するが(ちなみに趣味はチェスとピアノ演奏だ)、彼がピッチ上で発揮する強烈な熱意をサポートできるアタッカーがまだいない。クーニャの負傷の影響は大きいが、現状では「孤立無援」のような感覚は否めない。

    それでも、チームメイトはエンベウモを心から尊敬している。コビー・メイヌーは「本当に良い奴。仲良くなればみんなが言うほど無口じゃないし、面白いよ。ここ数シーズンの活躍、ゴール数やクオリティを見れば、加入したときには本当にワクワクした。速く、強く、タッチも素晴らしいね」と称賛。またマヌエル・ウガルテも、「本当にパワフルだ。彼からすればゴールは簡単なのかもしれないね」と語っている。

    こうしてチームメイトの信頼を掴み、ポジティブな雰囲気を生み出すエンベウモ。だからこそ、同時期に高額でやってきたアタッカーたちは、彼が必要とする「サポートと愛情」をいち早く届けなければならない。

  • Manchester United FC v Aston Villa FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    “失敗”を繰り返すな

    ドルトムント時代にシーズン平均26ゴールに直接したジェイドン・サンチョ、移籍直前にアタランタで9ゴール4アシストを記録したラスムス・ホイルンド、アヤックスではシーズン平均10ゴール以上に絡んだアントニー……彼らは全員、高額でユナイテッドにやってきたが、いずれも苦しみ続けた。サンチョやホイルンドに至っては、12月近くまでゴールも奪えていない。強く速く激しいプレミアリーグへの適応、そしてファンの期待は重圧として重くのしかかり、ほとんど結果を残せずに彼らの時代は終わっていくことになりそうだ。

    エンベウモは、他の3人に欠けていたプレミアリーグの経験・実績が豊富であり、早くもサポーターの心は掴んでいる。その点では大きく異なる。だが、結果の面ではまだ大きな差がないことも確かだ。エースとしてチームを勇気づけるゴールが必要だし、チームはそんな彼を明確にサポートしなければならない。今のユナイテッドに「まだ序盤戦だ」という言い訳は通用しない。今季も失敗してしまえば、それこそスポーツ面・財政面で後がないからだ。

  • Manchester United v Burnley - Premier LeagueGetty Images Sport

    エースにサポートを

    そんなユナイテッドが27日の第6節で対戦するのは、ブレントフォード。エンベウモの古巣である。彼にとって慣れ親しんだ相手だ。そして今季は新体制に移行したものの、主力を大量に引き抜かれたためにチームは不安定。すでに10失点を喫し、17位に沈んでいる。

    ブレントフォードでの時間を「笑顔と笑い声に満ちた素晴らしい冒険だった」と振り返るエンベウモだが、この古巣との一戦は大きなチャンスだ。アタッカーにとって、一度ゴールが決まれば立て続けに決まり始める可能性は高い。また、エンベウモをチームでサポートする形を作る絶好機である。勝ち点3は当然だが、それと同じくらい内容も必要な一戦となる。むしろこの機会を活かせなければ、次の相手は好調サンダーランド、そして王者リヴァプールだ。なんとしても結果・内容面にこだわりたいはずである。

    「初めて手にしたトップチームのユニフォームは、ユナイテッドのロナウドだった。僕にとっては世界最大のクラブ。ファンは熱狂的だし、スタジアムは素晴らしい。全選手がここでプレーしたいと思っている」

    移籍決定時、エンベウモはこう語った。彼のプレー、姿勢、発言をファンは愛している。チームも愛している。だからこそ、重圧に蝕まれていった過去の“失敗”を繰り返さないように、彼を支えてあげなければならない。