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バイエルン、ジャパンツアーは「次の10年に向けた戦いに」。実況者・下田恒幸氏が注目するポイント/インタビュー

チケット好評販売中!「川崎フロンターレ vs. FCバイエルン・ミュンヘン」スカパー!ブンデスリーガジャパンツアー2023

ドイツ王者バイエルン・ミュンヘンが日本へやってくる。

来日するのは2008年以来、実に15年ぶり。昨季は最終節での逆転優勝でメンツを保ったが、シーズン中の監督交代、優勝直後の首脳陣更迭など不安定な一年を過ごした。それだけに、プレシーズンから巻き返しへ向けて全力を注ぐことが期待される。

『スカパー! ブンデスリーガジャパンツアー2023』で川崎フロンターレと戦うバイエルンのどこに注目するべきなのか。ブンデスリーガに関して造詣が深い、実況者の下田恒幸氏に話を聞いた。

  • Tuchel Nagelsmann splitGetty/GOAL

    昨季は「次のステップに行く1年目」

    ――名門で絶対王者のバイエルンですが、今季のブンデスリーガでは不安定なシーズンとなり、結果的に優勝争いがもつれました。どのように見ていましたか?

    バイエルンが次のステップに行こうとしているシーズンだと思って見ていました。ロベルト・レヴァンドフスキというバイエルンを屈強なクラブにした一番の点取り屋が昨夏に去ることになりましたが、彼の在籍していた最後のシーズンに「ナーゲルスマン(前監督)はレヴァンドフスキがいないほうが面白いサッカーができると考えてるはずだ。彼(ナーゲルスマン)のやろうとしている方向性においてレヴァンドフスキの存在は〝諸刃〟だと思う」と解説者の風間八宏さんがことあるごとに中継で仰ってまして。

    実際、「ナーゲルスマン自身もこうやりたいけど、選手側から反発があってシーズン終盤は自分の就任前のスタイルに戻した」という事実があったと木崎伸也さんが著書(『ナーゲルスマン流52の原則』)の中で指摘しています。そうした選手と指揮官のせめぎあいがあった中で、クラブはナーゲルスマンの方針を魅力的だと感じて彼を信頼し、彼とともにこの先10~15年の歴史を作っていこうとする1年目だと思っていました。

    ――しかし、そんな中でバイエルンはシーズン中の3月、ナーゲルスマンからトーマス・トゥヘルへの監督交代を決断します。

    驚きました。主将のマヌエル・ノイアーが(休暇でのスキーによって)骨折している間に、彼と懇意にしているGKコーチ(トニ・タパロヴィッチ)をクラブが解任したことで、尚更そう思いましたね。チームの中で監督以上に力を持つ可能性のあるGKが負傷したタイミングで、その腹心を切り、なおかつブンデスリーガトップクラスのヤン・ゾマーというGKを獲得してきたわけですから。これはもうナーゲルスマンと心中する気なんだなと…。だからこそ、3冠の可能性がある中での解任は「なぜ?」と思いましたね。

    ――しかも、トゥヘル就任後、バイエルンはDFBポカール、チャンピオンズリーグでも連続して敗退することになります。

    トゥヘルにとってはやりにくかったでしょうね。(2021年1月に)彼がチェルシーの監督に就任した時は、前任のランパード監督がやっていたサッカーが割とクラシカルで問題点がはっきりしていたので手を付けやすかった印象がありました。実際、トゥヘルは守備から改善して結果を出しました。

    ただ、バイエルンの監督に就任した時は、前任のナーゲルスマンのかなり特殊なスタイルと哲学がチームのそこかしこに刷り込まれていたので、そこに手をつけるのはかなり難しかったはずです。実際、トゥヘル監督は色々なところに気を使って探り探りやっているように見えました。あのスタイルを標榜する監督はなかなかいないですから(苦笑)。ですので、私にはそれが定まっていないように見えましたし、チームがひとつになりきれないようにも見えました。

    ――そんな中、バイエルンはすでに新シーズンへ向けて動いていて、ライプツィヒからコンラッド・ライマーを獲得しました。

    ライマーはトゥヘルとしては助かる選手だと思いますよ。様々なポジションを器用にこなしますから。ウイングバックも4-3-3のインサイドも4-4-2のウイングもできる。うまい選手ではないし、バイエルンっぽくはないかもしれないけど、ああいう選手はクラブの歴史上これまでもいましたよね。(2009~2012年在籍の)イビチャ・オリッチもすごい点を取るわけではないけど、すごく「役に立つ」いい選手でした。ライマーもそういう「役に立つ」タイプなので、トゥヘルにとっては使い勝手が良い選手だと思います。

    ――センターフォワードの選手を獲得するとも言われています。下田さんとしては誰を推していますか?

    トゥヘルは柔軟に人を使う監督なので、例えばフランクフルトのランダル・コロ・ムアニは面白いんじゃないですか。ドイツで実績もあるし、今のバイエルンにはフランス人も多いですから。タイプ的にも独善的なストライカーではなく、人も生かせるタイプ。彼を獲れたら理想的ですね。

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  • Joshua Kimmich FC Bayern 27052023Getty

    ジャパンツアーで見るべきバイエルンの魅力

    ――バイエルンの来日は15年ぶりです。当時はドイツでは今と変わらず「盟主」でしたが、チャンピオンズリーグでは中心にいるような存在ではありませんでした。この15年間で大きく進歩しましたよね。

    確かに、当時はまだチャンピオンズリーグでの優勝を目指すことが前提のクラブではなかったですよね。ただ、この15年間でバイエルンは矜持を持ってチームを強化し、欧州のビッグクラブとしてのステイタスを完全に確立したのは間違いありません。

    ドイツサッカーの歴史は常にバイエルンが中心です。時期によってライバルは変わりますが、ブンデスリーガの歴史は、「バイエルンとどこかのクラブ(ボルシアMG、ハンブルガーSV、ブレーメン、ドルトムントなど)が競い合う」という歴史です。60年の歩みの中で常に強豪だったのはバイエルンだけ。つまりバイエルンの1強です。そして、ヨーロッパ全体での立ち位置も、ウリ・ヘーネス(現名誉会長)の尽力により、この15年で本物の「欧州のビッグクラブ」になりました。

    ――バイエルンをあまり見たことのない人へ向けて、チームの魅力や見てほしいポイントがあれば教えてください。

    一番は「勝負」へのこだわりですかね。何といっても「Mia san Mia(※バイエルン地方の方言で、クラブの合言葉。〝自分たちは自分たちだ〟〝俺らは俺らだ〟という意味)」というクラブですから。「俺らは俺らだ」なんて普通は言わないですよ(笑)。その矜持は仮に親善試合であっても出るはずなので、相手が力の劣る日本のクラブだったとしても、目一杯やってくれるはずです。

    また、バイエルンにとってジャパンツアーが新シーズンを迎える上で大事な時期になります。クラブは明らかに歴史の過渡期にあり、次の10年を見据えながら来日までの1か月を過ごすでしょうし、先を見据えた補強を行った上でベースを明確にして来日するはずなので、次の10年に向けた骨格を見せてくれるんじゃないかなと思います。

    ――バイエルンの中で注目してほしい選手はいますか?

    一番わかりやすいのは(キングスレイ)コマンかな。単純にとてつもなく速いのでボールを持った時に「どういう選択をするのか」を考えるだけで期待感があります。また、(ヨシュア)キミッヒの配球のセンスも見て欲しいですね。チーム全体が押し込んでしまい前を塞がれてパスコースが無いだろうという場面でも、浮き球で上から破るのがすごくうまい。いわゆる10番タイプの選手ではないけど、バランスを取る6番や8番の仕事をしながら、勝負どころで急所を突くパスセンスは見事です。

    あとは、若い(ジャマル)ムシアラですね。その才能はかなりのレベルです。指導者の方はボールを持ったら顔を上げろとよく言うけど、ムシアラの場合はドリブル中に頭を下げて下を見ていることが多い。でもするする抜いてしまう。彼のドリブルは生で見たらかなり面白いんじゃないかと思います。

  • 20230528_Kawasaki1(C)Masahiro Ura

    川崎Fに期待すること

    ――7月29日にバイエルンと対戦する川崎フロンターレですが、今季Jリーグでは苦戦しています。ドイツ王者を相手にどのような戦いを期待しますか?

    間違いなく厳しい戦いを強いられるでしょうね。ドルトムントと2015年に対戦した時は、始動して1週間ぐらいしか経ってないドルトムントに完膚なきまでやられました(※0-6と完敗)。当時、川崎Fの選手が口をそろえて言っていたのは、「ボールのスピードが全然違う」と。そう考えると相手がバイエルンとなるとそれなりに苦労はすると思います。

    ただ、川崎Fも毎年のように主力を引き抜かれて、過渡期が続いている中ですが、鬼木達監督は選手の志を高いところにキープさせ続けています。川崎Fは技術的な裏付け、「止める・蹴る」に対するこだわりがJリーグの全クラブの中で最も高いチームだと思うので、彼らが積み重ねてきたものをドイツの最強クラブに逃げずにぶつけてほしいな、と思います。玉砕するかもしれないですが、それもアリかなと。自分たちがやれること、あるいはやろうとしてきたことをそのまま見せてほしい。Jリーグはシーズン中なのでコンディション的には川崎Fの方が絶対いいはずですし、日本の暑さが川崎Fに有利に働く可能性もあるので、それを目一杯見せてほしいなと思いますね。

    ――川崎F側で注目したいキーマンはいますか?

    試合に出ればという前置きがありますが、2人います。まず大島僚太。彼はJリーガーの中でもプレースピードが群を抜いて速い。ボールを正確に止めて次を選択するまでのスピードが抜群に速いんです。なので、大島がバイエルンの中盤のプレッシャーの中で、どれくらい存在感を出してくれるか、とても期待しています。

    あとは、大南拓磨。大南は対人戦も強いし、単純に速いですよね。1対1の勝負になったときには誰とやっても優位に渡り合えるディフェンダーです。その彼がヨーロッパNo.1を獲りたいと思っているクラブのアタッカーたちにどう対応するか。コマンの加速力、(リロイ)ザネ、(セルジュ)ニャブリ、(サディオ)マネらのキレはいずれも欧州トップクラスです。それと向き合った時にどういうバトルを演じてくれるのか。すごく興味がありますね。

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