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【現地発】チャビ・バルセロナの失敗:繰り返す言い訳、監督としての力量不足が打ち砕いた「希望」

チャビ・エルナンデスは現地時間1月27日、今季限りでバルセロナ指揮官を退任すると発表した。

選手としてバルセロナで獲得し得るタイトルすべてを手にし、2021年11月に困窮に陥る古巣へ指揮官として戻ってきたチャビ。愛するクラブでの2シーズン目には27回目のラ・リーガ制覇をもたらした「レジェンド」だが、3シーズン目の今季は厳しい結果が続きプレッシャーも日に日に増大。最終的には、シーズン中に今季限りの退任を発表することになっている。

そんなチャビの退任について、現地の人々は何を思い、何を感じているのだろうか。カタルーニャ出身で、スペインで唯一無二の存在感を放つフットボールカルチャーマガジン『パネンカ』のルジェー・シュリアク氏が「希望」と「失敗」を綴る。

文=ルジェー・シュリアク/Roger Xuriach(スペイン『パネンカ』誌)

翻訳=江間慎一郎

  • xaviGetty images

    “黒い絵”

    ディエゴ・ベラスケスと並びスペイン最大の画家と称されるフランシスコ・デ・ゴヤは、『サトゥルノ・デボランド・ア・ス・イホ(我が子を食らうサトゥルヌス)』と題された、ぞっとするような作品を生み出している。

    その絵の中では、目を見開いた一人の老人が生まれたばかりの息子を食べている。その老人はギリシア神話のクロノスを表しており、子供に自身の地位を奪われることを恐れたために、人食に及んでいるのだという。

    側から見れば、現在のバルセロナはゴヤによって描かれたこの“黒い絵”のように見えるだろう。バルセロナという老人は、自分に威厳を与えるタイトルももたらしたロナルド・クーマン、チャビ・エルナンデスを食らった。バルセロナの伝説的選手だった2人は、彼らの成長を見守ってきたはずのファンに貪り食われた……何てひどいことなのだろうか。

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  • Araujo De Jong BarcelonaGetty Images

    全員にとっての失敗

    チャビはバルサを去る。クレ(バルセロナサポーター)にとって、その悲しみはあまりに、あまりにも深い。チャビの失敗は、私たち全員にとっての失敗だった。

    多臓器不全のように、問題はありとあらゆるところに存在していた。感情的にも、フットボール的にも、論証的にも……。すべてに共通しているのは、そこには“期待”があったということ。そう、チャビは希望だった。私たちは彼のクラブを愛する気持ち、選手たちを説き伏せる言葉、そして何よりも良質なポゼッションフットボールを復活させるという断固たる意思に期待していたのだ。

    ヨハン・クライフを師と仰ぐジョゼップ・グアルディオラを師と仰ぐチャビは、これまでの強烈な成功体験にも後押しされて、バルセロナのプレー哲学において最も過激な人物とみなされてきた。しかしながら選手時代、その哲学を誰よりも体現して成功をつかんできた男は、監督としてはその熱をピッチに反映できるだけの力量を持たなかったのだ。

    かてて加えて、メディアの前に現れるチャビの振る舞いは、あまりにも感情的で丸裸過ぎた。彼が会見などで口にする不平不満、愚痴、言い訳の内容は、勝者のメンタリティーの持ち主という範疇を逸脱しているばかりか、選手としてあらゆるものを勝ち取った人物にはまるでふさわしくないものだ。その言動は間違いなく、サポーター間で反感が芽生えていくプロセスを早めている。

    私たちがチャビに求めていたのは台本の作者としての役割だったが、結局は殴り書きのような4ページしか目にしていない。私たちが求めていたのは長期のプロジェクトだったが、切迫した状況での一瞬の歓喜しか味わっていない。私たちが求めていたのはチャビがプレーしていた頃のようなバルセロナだったが、彼が先頭に立って旗を握るバルセロナ(私たち)は、ひどい負け方をするチームの代表格となってしまった。

    チャビがプレースタイルにこだわらないわけがない。が、彼のチームはスタイルから結果を得るより、結果だけを求める方が快適なようにも思えた。昨季のリーガを思い出せば、彼らは試合終盤に苦しみながらも、堅守を頼りに1-0で勝ち続けて優勝を手繰り寄せたのだから。あのリーグ制覇にケチをつける必要はなく、そればかりか大きな価値を見出すこともできる。バルセロナは(極度の財政難に端を発する)サラリーキャップに関するリーガとの厳しい交渉、そして審判買収疑惑“ネグレイラ事件”によってクラブイメージが地に落ちていた。チャビのチームはそうした大きな騒動と動揺の中で、1シーズンを通して安定した結果を出し続け、国内リーグを制したのである。

    だが“パランカ(レバー)”と称されたクラブの資産の切り売りによって、本来ならばあり得ない早さで陣容を強化していった彼らの状況は、わずか1年でパランカが引かれる前に戻ってしまった。そこから、チャビは語るべき言葉を失っている。

    「チームはまだ構築中だ」

    彼は自分たちがつまずく度に、何度も、何度もそう繰り返した。しかし昨夏の補強で昨季よりも戦力が充実し、それなのに結果が出なくなったとすれば、それは派手に失敗したことを意味している。チャンピオンズリーグ(CL)についても、ヨーロッパリーグに回らずベスト16に進出したことは喜ぶべきだとしても、グループステージでシャフタール・ドネツク、アントワープ相手に失態を演じたことで、これだけ収入が必要な状況にもかかわらずクラブ・ワールドカップ(W杯)参加が極めて難しくなってしまった(大会の意義はともかくとして、新フォーマットで行われるクラブW杯は参加すれば5000万ユーロ、優勝で1億ユーロを手にできる。バルセロナが参加するためには今季CLで優勝するレベルの成績が必要だ)。私たちは相変わらず、欧州全土の笑い者である。

    大きな波に何度も襲われ、沈没寸前となっているバルセロナで、船のマストを支えているのはラ・マシア(バルセロナ下部組織)の選手たちだけだ。チャビはクラブの未来そのものと言える彼らをしっかりと助けていかなければならない。アレハンドロ・バルデ、ラミン・ヤマル、フェルミン・ロペス、マルク・ギウ、エクトル・フォント、パウ・クバルシはチャビが抜擢した選手たちであり、間違いなく彼の印が刻まれている。ガビにクーマンの印が刻まれているように……。ガビについて話せば、彼は現役時代のチャビに似ても似つかない“バルサの6番”だが、しかし指揮官となったチャビにとっては、いなくなって一番恋しく思っている選手だ。

  • Xavi Barcelona 2023-24Getty Images

    力量不足

    チャビのバルセロナ帰還は、最も恐ろしい結末を迎えてしまった。彼が史上最高クラスのゲームメーカーとしてバルセロナ、またはスペイン代表を世界のどのチームより輝かせていた頃から、クライフ、グアルディオラの系譜を継ぐ指導者となることを、誰もが信じて疑わなかった。バルセロナの現状を嘆き悲しんでいた私たちは、チャビの帰還ですべてがうまくいくと信じていたのだ。しかし彼が今季限りでの監督退任を発表したことで、皆が頭の中に描いていた“FCバルセロナ伝説”は、その続きが失われてしまった。

    チャビが理想的な環境で仕事に取り組むことができなかった? だがジョアン・ラポルタは彼に全幅の信頼を寄せ、何としても成功をつかめるようにと“パランカ”含めてありとあらゆる手を尽くした。スタンドの観客も毎試合にわたって彼の名を叫び、絶対的な支持を表明してきた。目も当てられない今シーズンでも監督に対して指笛が吹かれないというのは、バルセロナの歴史においてほとんど前例のない稀有な現象である。

    しかし、それでもチャビはバルセロナ監督として力量不足だった。彼はプレーの質を上げられなかったばかりか、チームが調子を落としたときに、どこに病巣があるのかを見つけられなかった。ピッチ上では誰にも見えなかったパスコース、スペース、ゴールへの糸口を知覚できたというのに……。

  • 「バルサを指揮するのはつらい」

    もちろん、この大惨事は彼だけのせいではない。ラポルタは自分たちを贔屓にしていた代理人(とりわけジョルジュ・メンデス)に恩を返す選手補強も行ったし、またチャビが信頼していたクラブ首脳陣ジョルディ・クライフ&マテウ・アレマニー、元チームメートでもあったセルヒオ・ブスケツ&ジョルディ・アルバは昨夏にクラブを離れた。

    いずれにしても、チャビは勇敢だった。カタールでしか監督経験がなかったにもかかわらず、財政的にもスポーツ的にも危機に陥るバルセロナから助けを求められると、アル・サッドに自腹で契約解除金を支払ってでもカタルーニャに戻って来た。とはいえ、その勇敢さとバルサへの愛も、最後の審判において酌量の余地を与えるものとはならないのだ。

    サトゥルヌスは無慈悲にもチャビを食いちぎった。彼はその痛みを、こう表現している。

    「バルサを指揮するのはつらい。まったく、嫌なことだよ」