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【徹底分析】クラシコで衝撃…バルセロナを蘇らせたチャビ。復活支える2つの要素と“カメレオン化”

バルセロナのラ・リーガ優勝は、彼らが世紀の大失態でも演じない限り、すでに決まっている。彼らが今回のクラシコで見せたパフォーマンスはじつに素晴らしく、同時に衝撃的だった。それは、まさに今季のバルセロナそのもの。彼らはシーズンを通して見せてきた長所の集大成を、このクラシコで誇示している。今、私たちが目にしているバルセロナは、自信を持って歩を進めていく、信頼を寄せるべきバルセロナだ。マドリーに決定的な、屈辱的な一撃を加えた今回のクラシコはその証明だったのである。

バルセロナはこの伝統の一戦が要求していた通り、断固たる決意でもってピッチに立ち、プレーした。チャビの敷いた規律を遵守し、それでいてあふれんばかりの熱意とエネルギーを発揮して……。彼らはマドリーとの試合で必要なことを見事に解釈していた。最も創造的な選手ペドリは不在だったが、それでもブスケツ、フレンキー・デ・ヨング、セルジ・ロベルト、ガビとMF4枚を同時起用するシステムは継続。これによりボールポゼッションは約束され、ハイプレスが成功しないときも後方から良質なビルドアップを実現している。

ビルドアップの中心はクンデの並外れた判断力と勢いによるボールの持ち込み、デ・ヨングのインテリジェンスしか感じない配球で、その後ボールを奪えず仕方なく後退して守備を行うマドリーに覇気がなかったために、彼らの陣地でパスを回したい放題となった。マドリーのDFとMFのライン間にはレヴァンドフスキとガビが位置してパスコースを確保し、右サイドではハフィーニャがナチョとのデュエルで常に優位に立ち続けている。また逆サイドのバルデはその潤沢なフィジカルとスピードを生かして何度も突破を仕掛け、ケシエの決勝・逆転ゴールまで導いた。バルセロナの実現した攻撃は、文句のつけようがない。彼らはまさに一枚岩に団結し、とはいえ密集するわけではなく両サイドが開いて幅を取り、多くの選手が然るべきタイミングでゴール前に飛び出していった。

バルセロナはチームの際たる特徴の一つ、ハイプレスも機能させていた(といってもマドリーのビルドアップは、選手の創造性に頼ったクオリティーの低いものだったが……)。チャビの男たちはまるでライオンのごとく、獲物たるマドリーの選手たちに1対1で食らいつき、ボールをサイドへと追いやっている。このクラシコでバルセロナに穴があったとすれば、それはブスケツの背後だけだった。彼のプレーは本来のレベルには程遠く、ロドリゴがトップ下の位置で途中出場したときにあからさまな弱点となっている。いずれにしろバルセロナはどんな戦術的問題も克服して、自分たちにふさわしい勝利をつかんだ。「私たちは勝利に値した」というチャビの決まり文句はかつてないほどの真実性を獲得し、アンチェロッティが試合後に口にした「今日の私たちは敗戦に値しなかった。勝てなかったのは私たちが疑っているオフサイドがあったためだ」という言葉は、あまりにも空虚なものだった。

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    復活を支えた二つの要素

    復活を遂げたバルセロナ。しかし、チャビが帰還してから取り組んだ2つのリハビリなしで、よみがえることはかなわなかったろう。

    取り組んだ要素の一つは、守備の頑強さ。これはアラウホ、クンデ、クリステンセンの存在によるところが大きい。彼らは自陣ペナルティーエリア内で巨人としてそびえ立つばかりか、エリア外でもその足の速さと判断力、修正力で守りの保証となってくれる。クラシコでは、マドリーが不甲斐なくも唯一の武器として頼り切りだったヴィニシウスが、クロスからアラウホのオウンゴールを誘発。試合の立ち上がりに冷や水を浴びせられた格好だが、バルセロナのパフォーマンスが落ち込むことはなかった。彼らのDF陣は全員が責任から逃れず、常に仲間のカバーを意識しながら相手からボールを奪おうと試みている。

    そしてもう一つの要素は、競争に臨む意識レベルの高さだ。スペイン・スーパーカップ決勝のベティス戦、チャビは選手たちに「全員止まってるぞ。ふざけるんじゃない! これは決勝なんだ、タイトル戦なんだぞ!」と発破をかけて指揮官としての初タイトルを獲得。強烈な勝者のメンタリティーは選手たちにしっかりと浸透しており、良い時にも悪い時にも輝かせている。だからこそ彼らは、ラ・リーガの12試合(!)で1点差の勝利を収めてきたのだ。薄氷を踏みながら勝ち点3を獲得するためには、最大限の集中、苦しみに耐え切る力が必要だ。再び最少得点差で勝利したクラシコは、彼らのハナ差で勝ち切る力が偶然の産物ではないことを証明している。

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    カメレオン化するバルセロナ

    最少得点差の勝利にはもちろん1-0のスコアも含まれ、チャビ・バルセロナの攻撃のクオリティーは疑問視されることもある。が、選手たちのオフ・ザ・ボールの動きを見る限り一概にそうとは言えない。選手たちは一つの場所にとどまってボールを待つことなく、明確な意図を持った動きを繰り返しながら連係力や相互理解を試合をこなす毎に高めている。ハフィーニャはCB&SBの間を突破するべくそのタイミングをうかがい続け、レヴァンドフスキは後ろに下がってきて得意の反転やワンタッチプレーで周囲を活性化させ、ガビ、ペドリ、デ・ヨングといったインサイドハーフは隙あらば積極的にペナルティーエリア内に入り込む……。彼らの攻撃は有機的であり(だからこそ完成を見るまで時間がかかるのだが)、個々のクオリティーも高さも伴って、相手にとっては守備の予測が立てづらい。チャビは加えて、最初こそ固執していた両ウィングをサイド一杯に張り出させるバルセロナの伝統的なプレーを取っ払った(デンベレがいるときはその限りではないが)。これはボールを失ったときに抱える守備のリスクを排除することにつながっている。

    チャビ・バルセロナの特徴は攻撃だけにとどまらない。規律あるハイプレスのほか、後退守備も見事にやってのける。同じくレアル・マドリーとのコパ・デル・レイ準決勝ファーストレグ、確かに彼らはボールを保持したプレーでしくじったが、しかしそのセーフティネットとして素晴らしい守備組織があった。そう、これがチャビの率いるバルセロナなのである。彼らはカメレオン的に、皮膚の色を攻撃的にも守備的にも変えていく。そしてその能力は、彼らが生存するためには必要不可欠なものだった。なんとなればグアルディオラが率い、チャビやイニエスタやメッシがプレーした、あの極上のバルセロナに到達するなど不可能なのだから(少なくとも今の段階では)。ときには守りを優先した方がいいこともある。現在のバルセロナはその実用主義、生存主義の姿勢に、ロマンあるクラブ伝統の価値を加えて結果を残していくべきなのだ。

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    光の方へ導くチャビ

    バルセロナの今季の汚点は欧州カップということになるが、チャンピオンズリーグでもマンチェスター・ユナイテッドとのヨーロッパリーグ・プレーオフでも、チームの根幹と呼べる選手たち(アラウホ、ペドリ……)を欠いていたことは否定のしようがない事実だ。欧州カップでの早期敗退は彼らの価値を汚すものとなるが、その汚れの奥に輝きは感じられる。例えば、レアル・マドリー相手に3連勝するなど、普通ではない。バルセロナは現在、彼らを手玉に取ることができるほぼ唯一のチームだ。レアル・マドリーは昨季にパリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティ、リヴァプールを破って欧州王者となり、そして今季に弱体化しているとはいえリヴァプールを再び寄せ付けなかった存在である。マドリーは原理が分からないところもあるがどんなビッグチーム相手にも勝ち続け、チャビのバルセロナはそんなマドリーに勝ち続けているのだ。

    バルセロナはコパ準決勝セカンドレグのクラシコにも勝利すれば、復活を果たしたという印象を確固たるものにできるはず。監督としてのチャビの実力も、そこで認められることになるだろう。いずれにしても今回のクラシコは、今季ラ・リーガがアスールグラナ(青とえんじ)に染まっていることをまざまざと見せつけた。財政難や“ネグレイラ事件”のような喧騒はあれど、少なくともスポーツ面では、彼らは長らく続いた困窮の日々をついに乗り越えようとしているのだ。

    文=ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』副編集長

    翻訳=江間慎一郎