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【アーセナルは本当にハヴァーツが必要なのか】109億円を投じる価値はある?補強優先度と能力の再考を

昨シーズン半ば、アンディ・タウンゼントは『talkSPORT』のインタビューでチェルシーの得点力不足について問われた際、カイ・ハヴァーツを「ピンとこない」と話していた。

このドイツ代表は、ヨーロッパで最も「奇妙な」選手の1人だろう。チャンピオンズリーグとクラブ・ワールドカップという大舞台で決勝ゴールを奪ってみせるメンタリティの強さはある。しかし、決定力が高いとは言えないし、最も得意とするポジションも定まっていない。「ハヴァーツはどんな選手?」、「チェルシーが獲得に費やした7500万ポンドは正解?」、これらの質問に明確に答えられる人は多くないだろう。

そんな中で、プレミアリーグのライバルであるアーセナルがハヴァーツとの契約に動いていることが発覚。移籍金は6000万ポンド(約109億円)を超える可能性が取り沙汰されているか、果たしてその金額を投じるべき選手なのだろうか?

文=マーク・ドイル

  • William Saliba Mikel Arteta Arsenal 2022-23Getty Images

    アーセナルの優先度

    一部のアーセナルサポーターは、ミケル・アルテタがハヴァーツに対して「他の人間には見えない何かを見出している」と主張している。しかし、一部では「プレミアリーグ91試合で19ゴールの選手に大金を投じる必要はあるのか」との声も聞こえてくる。それも納得できるし、理由は簡単に説明できる。

    マンチェスター・シティから王座奪還を狙うアーセナルの勇敢な試みは、称賛すべきだ。昨シーズンの通算ゴール数は「88」。シティとはたった6ゴール差だ。攻撃陣の様々な選手が躍動しており、前線の選手の苦戦によってタイトルに届かなかったわけではない。

    彼らが最終的に罰せられたのは、守備陣による問題だ。ウィリアム・サリバと冨安健洋の相次ぐ負傷により、ディフェンスの穴が露呈。また精神的・肉体的疲労の蓄積がチームを蝕み、最終的に重要な試合を落としていった。

    したがって、アーセナルが今夏にセンターバックや右サイドバックを獲得に動いていることは理にかなっている。またブカヨ・サカの疲労を取り除くバックアッパー、グラニト・ジャカの代役、そして4バックを守る絶対的な守備的MFに関心を寄せている。優先すべきポジションはわかりきっているはずだ。

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  • Emile Smith Rowe Arsenal 2023Getty

    スミス=ロウを大きく上回る選手なのか?

    「絶対的な守備的MF」の役割を担うのはデクラン・ライスだろう。彼がマンチェスター勢からの興味を集めていることを考えると、アーセナルは1億ポンドを支払わなければらない可能性が高い。彼にその価値があるだろうか? おそらくそうではないだろうが、アーセナルは取りに行くしかない。

    そしてライスへの巨額投資を考えると、ハヴァーツに6000万ポンドを支払うのはまったく不可解だ。中東資金に頼らない彼らにとって、控え選手にそんな莫大な金額を投じることはできないはずだ。

    事実として、ハヴァーツが現アーセナルの攻撃陣の中で秀でた存在かは疑問だ。投資に見合う利益をもたらせるのだろうか? 昨シーズン、ケガに苦しんだエミール・スミス=ロウはチームにフィットできなかったが、ハヴァーツならそれが可能なのだろうか?

  • Kai Havertz Bayer Leverkusen 2017Getty

    ハヴァーツはジダン?

    だからといって、ハヴァーツのポテンシャルに疑いの余地はない。17歳でレヴァークーゼンのトップチームに加わって以降、様々な記録を打ち破った彼の才能に疑いはない(学校のテストでチャンピオンズリーグを欠場した選手はそういないはずだ)。

    おそらくサッカー史上最も完成されたMFであるローター・マテウス氏は、ハヴァーツを「過去数十年で最も才能あふれる選手」と評価し、偉大なジネディーヌ・ジダンと比較している。『キッカー』でこう語った。

    「彼は自らのハードルを非常に高く設定していた。(2018-19シーズン)最高の選手だ。彼の天性の才能、賢さ、ピッチ上での存在感、そしてゴールへの脅威。このレベルを維持できれば、いつか私に続いて世界最高の選手になれるだろう」

    それから5年後、ハヴァーツは偉大なバロンドーラーに似た存在になったのだろうか?

  • Kai Havertz Chelsea Real Madrid 2022-23Getty

    レアル・マドリーの関心

    昨年の3月~4月にかけて、当時のチェルシー指揮官トーマス・トゥヘルはハヴァーツの才能を解き放った。プレミアリーグ5試合で5ゴール、チャンピオンズリーグではレアル・マドリー相手にも得点した。

    そしてカルロ・アンチェロッティは、昨夏にもフロレンティーノ・ペレス会長に獲得を要請したという。その関心は、カリム・ベンゼマが退団した後も続いている。だがマドリーは、チェルシーの要求額に躊躇したようだ。そしてそれは、アーセナルも同じであるはずだ。

  • Kai Havertz Chelsea 2022-23Getty Images

    決定力の欠如

    半年前、長く追いかけていたミハイロ・ムドリクをチェルシーに強奪され、アーセナルは代わりに半額以下でレアンドロ・トロサールの獲得に動かざるを得なかった。だが、アーセナルは爆弾を回避することに成功している。ベルギー代表ウインガーは、シーズン後半はピッチに立つ度に大きな貢献を見せた。一方でムドリクは、チェルシー新オーナーのトッド・ベーリー最大の無駄使いと言えるかもしれない。

    これは多くのことを物語っているだろう。チェルシーのハヴァーツに対する要求額は7500万ポンド。アーセナルは非常に慎重になるべきだ。トロサールよりも貢献できるとは言い難い。彼は昨季プレミアリーグで20ゴールに絡んだが、ハヴァーツは7ゴール1アシスト。チーム状態に差はあれど、ゴール創出に関する能力には疑問符がつく。

    特にフィニッシュの精度は欠如している。ハヴァーツのシュート決定率は「9.86%」。ビッグチャンスをゴールにつなげる確率も「22%」にとどまっている。ちなみに、サカは「70%」、ガブリエウ・マルティネッリは「62.5%」、マルティン・ウーデゴールは「55.6%」だ。

  • Kai Havertz Chelsea 2022-23Getty

    有用なサブ要員に?

    もちろん、チーム状態がパフォーマンスに直結する。そして、アーセナルがチェルシーよりも優れていることは疑いようがない。しかし、それを理解するためだけに6000万ポンド以上を費やす必要はない。

    ハヴァーツは、アーセナルで先発が保証されるわけではないはずだ。ガブリエウ・ジェズスほど前線を引っ張る力はないだろうし、ウーデゴール、サカ、マルティネッリからポジションを奪う実力があるとも思えない。サブ要員としては有用だろうが、アーセナルが本当に必要としているものではないはずだ。

    アーセナルは明らかに、各ポジションの強化が必要だ。ハヴァーツに何千万ポンドも費やすのであれば、その資金を別の場所に回したほうが良いのは明らかだ。チェルシーが彼を手放す用意があるというだけでも、それがどういう意味化かを物語っている。

    アタッカーは時にすべてを達成できるように見えるが、まったく何もできないということもよく起こる。その意味で、タウンゼントは「ピンとこない」と話したのだろう――アーセナルの関心に関しても、「ピンとこない」と言えるかもしれない。