Gabriel Martinelli GFXGetty/GOAL

マルティネッリが真の意味で「100年に1人の才能」になるために:アーセナルが取り戻した最高のフォーム

「100年に1人の才能だ。信じられないストライカーだよ、本当に信じられないね。まだ若いのに成熟していて、本物の脅威だよ。これで彼にプレッシャーをかけるつもりはないけど、私が愛する素晴らしい選手の1人だよ」

2019-20シーズン、カラバオ・カップのラウンド16で対戦したユルゲン・クロップが語った言葉だ。当時18歳のガブリエウ・マルティネッリがリヴァプール相手に2ゴールを叩き込むと、世界屈指の名将は最大限の賛辞を送った。

しかしこのクロップの賛辞は、マルティネッリの「重荷」になってしまったことは否めない。ブラジル4部イトゥアーノから加入した無名のアタッカーは、この評価で一気に世界中の注目を集めることになった。確かにその後も見事な成長を見せ、ミケル・アルテタの下でレギュラーに定着。優勝に迫った過去2シーズンの活躍は称賛されるべきだ。だが今季、ケガの影響ももちろんあったが、停滞気味だったのも確かである。

それでも、彼はアーセナルが最も必要な時期に戻ってきた。直近のパフォーマンスは、間違いなくクラブを牽引するものであった。

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    「ベストシーズンではないよ」

    アーセナルが2006年以来のチャンピオンズリーグ決勝に進むには、彼の力が必要だ。それは準々決勝の2試合で証明している。特に“神殿”サンティアゴ・ベルナベウでのセカンドレグ、後半アディショナルタイムに驚異的なスプリントでネットを揺らした瞬間は、クロップが6年前に称えた通りの姿だった。

    だが、これまでのシーズンは彼にとって思い通りに進んだわけではない。ケガによる長期離脱に加え、ブカヨ・サカの負傷によって右サイドに回ったことも一因ではある。しかし、最大の理由は「自身の喪失」だ。

    彼の献身性と運動量に変わりはない。だが、何かが欠けていた。昨年3月~9月にかけては17試合連続の無失点。得意の一対一でも突破できず、またクロスやシュートの精度も著しく下がっていた。サイドで受けても、なかなか期待感を伴う仕掛けができていなかったのである。あのレアル・マドリー戦後、マルティネッリは『iPaper』で「(今季は)アーセナルでのベストシーズンとは言えないよ」と認めていた。

    それでも、同じインタビューで「でも、本当に幸せだよ。ベルナベウでゴールできたんだから。チームのパフォーマンスもそうだし、ゴールにも大満足だよ」と語っている。ファンもその言葉通り、あの歴史的な一夜が転機になることを祈っているはずだ。

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  • Ipswich Town FC v Arsenal FC - Premier LeagueGetty Images Sport

    取り戻したトップフォーム

    プレミアリーグ制覇が厳しくなったことで、続くイプスウィッチ戦は主力を休ませることも考えたはずだ。それでもアルテタは、マルティネッリの勢いを止めないことがいかに重要かをよく理解していた。

    この試合でも先発したマルティネッリは、常に対峙したアクセル・トゥアンゼベに脅威を与え続け、ハイラインの背後を何度も突いた。ミケル・メリーノへの素晴らしいアシスト、そして2試合連続となるゴールも叩き込んでいる。これでアーセナル通算50点目。これはクラブ4番目の若さでの記録となった(サカ、セスク・ファブレガス、テオ・ウォルコットに続く)。

    指揮官の選択もあり、マルティネッリは再びトップフォームを取り戻した。悲願のプレミアリーグ制覇には遅すぎたかもしれないが、ビッグイヤーへ向けた挑戦の中でこれほどまでに頼もしいこともないだろう。

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    ゴールへの最短距離

    イプスウィッチ戦後の会見で、アルテタはこう語っている。

    「今は素晴らしい状態にあると思うよ。自信に満ちており、鋭いプレーを見せているね。そして、適切なタイミングで危険な状況を作り出していることも評価したい」

    アーセナルでは現在、カイ・ハヴァーツとガブリエウ・ジェズスが長期離脱を強いられているため、生粋のセンターフォワードが存在しない。チームでその得点を共有しなければならないだろう。だがこの2試合で、マルティネッリがその役割を担えることを証明した。彼はこれまで高く評価されてきた「ゴールへの最短距離を見つけ出す能力」を再び示している。今季前半戦は苦戦したにもかかわらず、2シーズン前に記録した21ゴールという記録にあと「6」まで迫った。

  • Kvaratskhelia Fabian Ruiz Dembele PSGGetty Images

    “鉾”と“盾”

    マルティネッリの復活もあり、アーセナルは現・欧州王者を合計5-1で粉砕した。とはいえ、今のレアル・マドリーはチームとして機能しているとは言えない。だからこそ、準決勝は遥かに難しい挑戦になるはずだ。

    「キリアン・エンバペ後」のパリ・サンジェルマン(PSG)は、1人のスターに頼り切らないルイス・エンリケのアプローチが見事なまでに奏功している。早々にリーグ・アン制覇を決めただけでなく、チャンピオンズリーグの舞台でもリヴァプール、アストン・ヴィラとプレミアリーグ勢を次々に撃破した。ウスマン・デンベレ、フヴィチャ・クヴァラツヘリア、デジレ・ドゥエの3トップは破壊力抜群で、ヴィティーニャやアクラフ・ハキミ、ヌーノ・メンデスらアタッカー陣を支える選手たちも最高の状態を維持している。その勢いは、ベスト4に残ったチームでもトップかもしれない。

    だがアーセナルも、彼らの“鉾”に対抗できる“盾”がある。ガブリエウという柱を欠いているにもかかわらず、レアル・マドリーを終始沈黙させた彼らの守備は素晴らしい。ピッチの全てのエリアで非常に高い意識とともに、規律をもってハイプレスから撤退守備まで楽々とこなして見せる。

    この守備の安定は一貫して見せてきたアーセナルだが、勝利を逃した試合はいつだって攻撃力不足が問題となっていた。だからこそ、マルティネッリの復活は大いに歓迎すべきなのである。PSGとの2試合でデンベレやクヴァラツヘリアを凌駕すれば、クロップの言葉は現実になるだろう。

  • Athletic Club v Rangers FC - UEFA Europa League 2024/25 Quarter Final Second LegGetty Images Sport

    ポジションの確立

    そして、マルティネッリにとってこれからの1カ月は、自身のポジションを改めて確立しなければいけない期間でもある。アーセナルはこの夏こそ、スペイン代表FWニコ・ウィリアムズの獲得に動く可能性が高い。

    22歳のスペイン代表は、圧倒的なスピードとドリブルのキレ、そして決定的なパスの精度が非常に高い。EURO2024でも見せたように、低いブロックを楽々と崩す姿は圧巻である。相手に引かれることが多いアーセナルにとって、最適なピースになることは確実だ。右サイドのサカのように、拮抗した試合を破壊できる特別な選手である。

    一方でマルティネッリは、ニコ・ウィリアムズよりもスペースと時間が必要なタイプのため、相手に囲まれてボールを戻すシーンも多い。また、突破した後の選択肢はシュートかファーサイドへのクロスであり、近くの味方を使う技術はまだまだ改善が必要だ。

    ニコ・ウィリアムズ加入の真偽は定かではないが、再び今季前半戦のようなパフォーマンスに戻ってしまえば、補強の必要性はこれからも叫ばれ続ける。そうした意味でも、マルティネッリは欧州最高峰の舞台で今の調子を維持しつつ、より決定的な存在になる必要がある。

  • martinelliGetty Images

    メンタリティ

    ユース時代にマンチェスター・ユナイテッドのトライアルを4度受けるも不合格で、ブラジル4部から這い上がってアーセナルにたどり着いたマルティネッリ。『The Athletic』でトライアル当時を振り返り、「彼らが契約しようと思った瞬間は一度もなかったみたいだ。でもフットボールを経験できたことで、その後の適応が少し楽になったよ。トライアル後も自分を信じていた。常に『できる』と考えているんだ」と語っている。

    あの強烈なエネルギーと献身性は、こうしたメンタリティからくるものだ。クロップの言葉通り、真の意味で「100年に1人の才能」になるためのメンタリティはもう取り戻した。あとは、ピッチ上での結果だけである。今季のCLは、彼にとってこれ以上ないチャンスだろう。まずはPSG戦、ピッチを駆け抜ける彼の姿を楽しみに待ちたい。