Charlie Patino Folarin Balogun GFXGetty/GOAL

アーセナル急速な進化の弊害:パティーノ、バログンら下部組織出身選手が直面する苦難

アーセナルが誇るヘイルエンド・アカデミーは、近年クラブの暗い時代に光をもたらしてきた。数年前の暗黒期に現れたのが現エースのブカヨ・サカであり、エミール・スミス=ロウだ。10代で頭角を現した彼らの存在によってガナーズは復活し、2022-23シーズンにはプレミアリーグの優勝を争うほどまで成長している。また彼らだけではなく、エディ・エンケティアはトップチームで重要な戦力に。その他ジョー・ウィロックは高額な移籍金を残した後、ニューカッスルで大活躍。アレックス・イウォビもエヴァートンで主力を務めている。

ヘイルエンド・アカデミーは、アーセナル再建に不可能であり、このサクセスストーリーは世界に誇れるものだ。

しかし、チームの成長とともに変化が訪れている。ミケル・アルテタの革命によってチームのスタンダードは飛躍的に向上し、来季は2017年以来のチャンピオンズリーグの舞台に挑戦する。それに伴い、アカデミーの選手にとってトップチームは遠い存在になりつつあるのだ。

文=チャールズ・ワッツ/『GOAL』アーセナル番記者

  • Mikel Arteta Arsenal 2023Getty

    スタンダードの大幅な上昇

    チャンピオンズリーグへの復帰はクラブの悲願であり、多くの希望をもたらすものだ。アルテタの下でトップ・オブ・トップへの挑戦はスピードを増しており、また今季優勝できるかどうかに関わらず、再建計画は今夏さらに勢いを増すことが予想される。プレミアリーグでマンチェスター・シティと競うだけでなく、ヨーロッパの舞台で強豪と争うだけのスカッドを準備するため、特に中盤にはビッグネームを獲得するだろう。

    アーセナルというクラブにとって、これは喜ぶべき変化だ。しかし、そんな喜ばしい進化の弊害として、アカデミーからの道筋が不透明になることは避けられない。今季レンタルで加わったブラックプールで急激な成長を見せたチャーリー・パティーノだが、シーズン終了後の退団についてクラブと合意に達した。すでに影響は確認できる。

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  • Patino Arsenal 2022-23Getty

    才能の流出

    パティーノはアカデミーで最も才能あふれる存在として何年も期待を集めていた。トップチームデビューは、18カ月前のリーグ・カップ準々決勝サンダーランド戦。いきなりゴールを奪い、その巨大なポテンシャルを見せつけている。

    そんなパティーノだが、先日クラブと今夏の退団で合意に至ったことがわかっている。本人はレギュラーとしての出場機会を求めているが、現チーム内でそれは困難だろう。さらに中盤のトッププレイヤーの獲得に動いているため、パティーノが求める出場機会を得る可能性は限りなくゼロに近い。

    これこそ、進化の弊害だろう。ほんの数年前はプレミアリーグで下位に低迷し、それがサカやスミス=ロウの躍進の助けになった。だが、現在トップチームのクオリティは飛躍的に向上している。下部組織の選手がチャンスを掴むのは遥かに難易度の高い挑戦だ。

  • Jack Wilshere Arsenal West Ham Youth CupGetty Images

    ウィルシャーの見解

    アーセナルU-18チームの監督を務めるウィルシャーは、「2つの見方ができると思う」と語る。

    「トップチームがレベルを上げ続けるのに、我々がそうしなかったら差は広がり続ける。だからプッシュし続けなければならない。だが、逆の見方もできる。私が選手時代、トップチームデビューを狙っていた時、実際にそれが叶ったのはブラックバーン戦だった。4-0で快勝したよ。私にとっては、良いチームに加わる方が簡単だった。もちろん、選手のレベルが高くなければダメだけどね」

    「だからこそ、エミールやブカヨの成功は素晴らしいんだ。あの時のアーセナルがどん底だったとは思わないけど、今ほど良いプレーではなかった。そして彼らが彗星のように表れ、違いを生み出したんだ」

  • Folarin Balogun 2022-23Getty

    バログンのケース

    パティーノ同様、アーセナルは今夏アカデミーが生んだ別の才能を手放すことになるかもしれない。

    フォラリン・バログンは今季リーグ・アンのスタッド・ランスにレンタルで加入すると、33節消化時点で18ゴールの大活躍。トップリーグでの実力を証明した。そして本人は、来季アーセナルに戻ってベンチに座り続けるつもりはないだろう。アーセナルで明確な道筋が見えないのであれば、彼には多くの選択肢が用意されている。本人は将来について、こう語っている。

    「僕がこれまでやってきたことは、多くのノイズを起こすだろうね。アーセナルだけでなく、どこでもだ。それを続けていくだけだよ。何が起こるかはわからない。サッカーでは何だって起こる可能性があり、色々なことが変化する。夏にあるクラブとの会談次第だね」

  • Ethan Nwaneri Arsenal 2022-23

    複雑化する道筋

    そしてアーセナルは、アカデミー選手にとってより状況が難しくなっていることを許容している。ハイレベルな選手の獲得を狙い、来季のチャンピオンズリーグ・グループステージではおそらく、若手選手を起用することはない。これはチーム内競争のレベルが上がったことを意味している。

    その一方で、イーサン・ヌワネリやマイルズ・ルイス=スケリー、アマリオ・コジア・デュベリーといったアカデミー卒業生の道を確保したいと考えている。アカデミー部門監督のペア・メルテザッカーは、以下のように語った。

    「より難しい挑戦だとはわかっているが、彼らのためにもっとチャンスを作るつもりだ。絶対にね。地元で育った若者をファーストチームに送り込まなければならない。常にそうあるべきだ。そしてクオリティが十分であれば、それが拒否されることはありえない。道のりはやや難しくなるが、彼らへのサポートは続けていく」

    「SNSで見るようなバラ色の道なんてない。辛くて大変な時期もあるだろう。失望が待ち受けているかもしれない。チャンピオンズリーグに出場するチームに参加するのは非常に難しい。だが、彼らはそのチャンスをつかみ、みなの注目を集めるはずだ」

  • Joe Willock Newcastle 2022-23Getty Images

    放出が可能な人材育成

    すべてのアカデミー卒業生が、サカやスミス=ロウのようになれるわけではない。クラブは常にトップチームで活躍できる選手の輩出を目指しているが、それが不可能な場合は補強費に充てるために放出も考えなければならない。もちろん、それにはクオリティが必要だ。メルテザッカーはこう語る。

    「過去5~6年間で2000万ポンド以上の移籍金を獲得できた例を見ると、それがアレックス・イウォビ、ジョー・ウィロック、エミリアーノ・マルティネスであることがわかる。アカデミーはトップチームに多額の資金をもたらしてきた。新たな投資に資金を回すために、高額な移籍金を獲得できる選手がチームにいるということだ。素晴らしいことだね。アカデミーが優秀であることを示している」

    「これはファーストチームに新たな価値をもたらせる優秀な選手を輩出できるという、明確なメッセージだ」

  • Bukayo Saka Arsenal 2022-23Getty Images

    より不透明な未来に

    アーセナルは、過去数年間の復活にヘイルエンドがもたらした影響の大きさを当然のように誇りに思っている。ホームグロウンの逸材たちは、サカを中心に世界の舞台で花開いた。

    だが、次の世代が彼らの足跡をたどるのは難しいだろう。パティーノやバログンはすでにそれに直面している。しかしその一方で、放出する必要に迫られたとしても、彼らの才能を欲しがるクラブは多いはずだ。

    つまり、アーセナルはピッチ上で彼らの才能にあやかることは不可能だが、獲得できる移籍金で再投資が可能になるのだ。そしてその資金は、過去数回の移籍市場で大幅な進化に成功してきたトップチームにとって、巨大な利益をもたらしてくれるだろう。

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