Jリーグで現存する“オリジナル10”の一角、ジェフユナイテッド千葉。千葉にとって、J1昇格プレーオフは過去5度にわたって涙した“鬼門”だったが、その大きな壁を乗り越えさせ、17季ぶりの復帰に導いたのは“よそ者”指揮官だった。
取材・文=浅野凜太郎
(C)Hiroto TaniyamaJリーグで現存する“オリジナル10”の一角、ジェフユナイテッド千葉。千葉にとって、J1昇格プレーオフは過去5度にわたって涙した“鬼門”だったが、その大きな壁を乗り越えさせ、17季ぶりの復帰に導いたのは“よそ者”指揮官だった。
取材・文=浅野凜太郎
(C)Hiroto Taniyama千葉は13日にホームのフクダ電子アリーナでJ1昇格プレーオフ決勝の徳島ヴォルティス戦に臨み、1-0で勝利。悲願のJ1復帰を果たした。
2023年に同クラブの新監督として就任した小林慶行監督。2021年にコーチ、翌年にヘッドコーチを務めていた男にとって、初めてのJリーグクラブでの監督業だった。
「このクラブは名だたる監督さんしか呼ばれないクラブだと思います。僕なんかはジェフでプレーしたこともありませんし、古巣のクラブでもなかった。ハッキリと言えば、よそ者ですから。そんなただのコーチでしかなかった人間に監督を任せるということが、このクラブにとって、どれだけのチャレンジだったかは僕自身もすごく理解していたつもりです」
2022年5月に亡くなったイビチャ・オシム元監督をはじめ、数多くの名将たちが指揮を執った名門に突如として現れた指揮官が小林監督だ。
2009年のJ2降格から長いトンネルに入ってしまった千葉を救うためのキーワードとして「一体感」を掲げながら、クラブに強さと活気を取り戻していった。
(C)Hiroto Taniyamaそして今季は小林ジェフの集大成となった。
J2リーグではクラブ史上初の開幕6連勝を達成し、最終節まで優勝争いを演じて3位でフィニッシュ。また、今季リーグ戦のホームゲームにおける平均入場者数は1万5549人と、1994年以降で最も多くの観客を集めた。
勝ち星はどんどんと積み上がり、今季第23節のアウェイ・モンテディオ山形戦で、オシム元監督とユン・ジョンファン前監督が記録したジェフでのリーグ戦通算最多49勝を上回るリーグ戦通算50勝目を達成(現在は58勝)。千葉のリーグ戦歴代最多勝利監督となった。
ただ、当の本人は記録達成の事実を知らなかった。山形の会見場で報道陣から「おめでとうございます」と伝えられた小林監督だったが、すぐさま「自分にはやらなければいけないことがある」と表情を崩すことなく次戦への準備を進めた。
それだけ無我夢中のシーズンだったのだろう。
J1復帰の立役者となったこの日でさえ、「ごめんなさい。あまり(試合のことを)覚えていないです」と切り出したほどだ。指揮官はこの3年間、つねにジェフのJ1昇格だけを追い求めてきた。
(C)Hiroto Taniyama指揮官のひたむきな姿勢は、選手たちの原動力となっていた。
特に、2009年のJ2降格時も知るDF米倉恒貴は、小林監督の努力や苦労をチーム最年長として敏感に感じ取っていたという。
「慶行さんは『一緒に頑張ろう』っていう気にさせてくれるんです。ここで初めて監督をやって、右も左も分からない状態からのスタートだったと思う。だから何ていうんですかね…、『すごく一生懸命にやっているな』ってすごく分かりやすいんですよね(笑)。
たぶん僕たちに対しての態度とかも、決して得意ではないことをやっていると思うんです。それでも、これだけ緻密にいろいろと考えて、俺たちに戦術を落とし込もうとしていることがすごい。そういう一生懸命さや必死さはもちろん、感情のところもすごく伝わる。だからその気持ちに応えたいと思って、自分たちは一つになれているんじゃないかな」
(C)Hiroto Taniyama“よそ者”は、いつしか選手、サポーター、スタッフからも愛される監督になっていた。
試合直後のインタビューには選手たちが乱入し、冷水と胴上げで祝福。サポーターも負けじと感謝を伝えようと、こぶしを3回突き上げる“ジェフ三唱”で小林監督を称えた。
さらに会見終了後には自然と拍手が起こり、司会を務めていた広報スタッフが「本当におめでとうございます」と固い握手を交わした。
小林監督の下で積み上げた3年間は、ひとまず最高の形で幕を閉じた。
今後の去就や契約更新については「まだ何も分からない」と語った。それでも「もしも千葉にいられるのであれば、もう次の準備を始めなきゃいけない」と、現状に満足している様子はない。
17年ぶりにトップディヴィジョンの舞台に立つジェフは、どんなサッカーを見せてくれるだろうか。
いよいよ来季からはJ1での戦いが始まる。