Kengo Nakamura©Yuki Nagao

「自分に似てる?」「三笘に近い?」今季注目のJ1若手選手たち【中村憲剛×北條聡】

代表ウィークを過ぎ、J1リーグが再開する。リーグ戦序盤は鬼木達監督が就任した鹿島アントラーズが躍進を見せ、町田ゼルビア、サンフレッチェ広島、柏レイソル、そして湘南ベルマーレが続く。昨季はヴィッセル神戸の連覇となったが、ベストイレブンに鹿島のルーキーDF濃野公人が名を連ね、ベストヤングプレーヤー賞には、日本代表デビューを果たした20歳のDF高井幸大(川崎フロンターレ)が選出されるなど、新たな世代が頭角を現した。

来年にはFIFAワールドカップが控え、ますますの盛り上がりを見せるJリーグ。今季の活躍次第では、高井のようにA代表まで駆け上がっていく選手がさらに出てくるかもしれない。そこでGOALでは、元日本代表であり、JFA Proライセンス(S級ライセンス)の資格を持つ中村憲剛氏とサッカージャーナリスト北條聡氏に、2025シーズンJリーグ注目の若手選手と今季の展望について対談を実施した。(構成:浅野凜太郎)

  • 大関友翔(C)Getty Images

    中村憲剛と似てる? U-20代表の期待株

    大関友翔(おおぜきゆうと・川崎フロンターレ) 2005年2月6日生まれ。神奈川県出身。真福寺FC-FC多摩ジュニア-FC多摩Jrユース-川崎F・U-18-川崎F-福島ユナイテッドFC

    北條:今年のJリーグで注目の若手選手を教えてください。

    中村:今シーズンは直近でU-20アジアカップがありました。身びいきみたいですが、川崎フロンターレの大関友翔選手。期待を込めて選びたいと思います。U-20W杯の出場も勝ち取りましたし、この代表を引っ張るためにも、フロンターレで出番が増えてほしいと思っています。

    北條:大関選手の良さ、見るべきプレーはどこですか?

    中村:パスを出すところや技術はもちろん、相手を見ながらプレーできます。ターンして前を向いて、くるくるしながら相手をひっくり返せる攻撃的なアイデアがすごくある選手です。昨季はJ3の福島ユナイテッドFCに育成型期限付き移籍していて、そこで数字も残してレンタルバックしてきました。自信をつけて帰ってきた今季は、J1のフロンターレでどれだけやれるのか。U-20日本代表は彼が年長者としてやってくれないと困るでしょうし、その覚悟を持ってフロンターレに帰って来たと、僕は思っています。

    北條:現役時代の憲剛さんと似ているところがある気がします。

    中村:小さいころからずっとフロンターレを観ていたらしいですよ。僕が引退したタイミングで、ちょうど彼がユースでプレーしていました。あとはロールモデルコーチとして、アンダーカテゴリーを指導していたときにもいました。だから接点が多かったんです。すごく質問をしてくる選手だったので、話す機会もたくさんありました。船越優蔵監督(U-20日本代表)の信頼も厚いようです。

    北條:1本のパスで相手のディフェンスラインをブレイクできるようなセンスを持っていると思います。人と違うところを見ている感じがするので、そこに注目してもらいたいですね。人と連続で関わりながら、どんどん前に出ていける選手なので、楽しみですね。

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  • 中島洋太朗(C)Getty Images

    いろいろなことを“考えている”選手

    中島洋太朗(なかじまようたろう・サンフレッチェ広島) 2006年4月22日生まれ。広島県出身。広島ジュニア-広島Jrユース-広島ユース

    中村:二人目はサンフレッチェ広島の中島洋太朗選手です。大関選手よりも1学年下で、彼もロールモデルコーチのときに教えていました。

    初めて観たときに、面白い選手だと思いました。「いろいろなことを考えているんだろうな」と感じましたし、アイデアを持っているんだろうと思わせるボールの持ち方、立ち位置、プレーの選択をしていました。あとはすごく負けず嫌い。相手に対してうまくいかない場面があれば、「次は超えてやるぞ」という気概をすごく感じました。

    すごく大人しいですし、自分もあまり会話はしていませんが、プレーでモノを言える選手です。すこし静かな子だったのですが、試合が始まった途端にバトルでも闘える。ファウルとかではなくて『やられたら、やり返す」選手です。「抜けなかったら、次は抜く」、「通せなかったら、次は通」』。Jリーグでデビューしていますし、ここからどんどん成長すると思います。

    北條:中島選手の一番の武器は何ですか?

    中村:大関と被りますが、スルーパスです。彼は常に狙っています。どうしても自分と重なる部分が選出理由になってしまいますが…。

    北條:スルーパスのように一発で局面を変えられる選手が、だんだん少なくなってきているように思います。

    中村:それはあると思います。相手の「下」はもちろん、パスで「上」を通せる選手はあまり多くありません。もちろん、守備の統制が取れる形に年々なってきているので、一回では崩せませんが、そういう時代だからこそです。洋太朗や大関にはすごくアイデアがあって、意外性もあります。

  • 佐藤龍之介(C)Getty Images

    サッカーIQも、実行力も高い

    佐藤龍之介(さとうりゅうのすけ・ファジアーノ岡山) 2006年10月16日生まれ。東京都出身。JACPA東京FC-FC東京U-15むさし-FC東京U-18-FC東京

    中村:3人目はFC東京からファジアーノ岡山にレンタル移籍した佐藤龍之介選手。彼は洋太朗と同じ世代で、自分はU-17代表で(コーチとして)観ていました。

    彼はすごくコミュニケーションを取れるタイプです」。物怖じせずにバンバンと話しますし、周りの選手たちともコミュニケーションを取って関われます。初見のときからサッカーIQが高いと感じましたし、実行力も高い。攻撃であれば突破の部分や、スルーパス、ワンツーパス、ランニングなどまんべんなくできます。

    守備では“勘”といういか。けん制や、相手の目を盗んでいいタイミングでボールを奪う、バトルの場面でボールを奪い切れます。中盤ではアタックのところで、サイドやボランチ、トップ下などどこでもできる選手。少し話をすると「はい!」と返事をしてくれるんですが、サッカー理解力が高いんです。育成年代の選手からは「はい!」という言葉をよくもらいますが、実は理解できていない選手も意外といます。だけど彼はこちらが求めているものを理解する感覚や能力が高いと感じます。

    北條:サッカーIQの高さは、いろいろなポジションをできる事実が裏付けていると思います。

    中村:岡山ではウイングバックをやっていると記事を読みましたし、「まぁ、できるだろうな」という感想です。何をやっていいのか、逆に何がダメなのか、きちんと理解できている選手なので、必ずチームの力になると思います。やってほしいプレーを言わずとも、やってくれる頼りになる選手です。

  • 西原源樹(C)Getty Images

    三笘と似ている!? 強気な仕掛け

    西原源樹(にしはらもとき・清水エスパルス) 2006年12月16日生まれ。群馬県出身。ファナティコス-清水エスパルスJrユース-清水エスパルスユース

    北條:個人的には、清水エスパルスの西原選手が面白いと思っています。

    中村:強気ですよね。仕掛けが強気だなと。プレーを成功に持っていけますし、ゴールも取れていました。若さだけではないんですよね。もちろん、若さゆえの強気な仕掛けもありますが、それだけでは跳ね返されてしまいます。彼の強気な仕掛けには裏打ちされた技術やドリブルのコース選び、足さばきがあります。

    ドリブルを最終的にはゴールにつなげるという意識がある選手だと思います。ただドリブルが得意というよりも、ゴールに入れるための手段としてドリブルをしている。順番がハッキリとしている選手です。僕は彼と直接関わった経験がないので、映像を観たときにそのような感覚を抱いていました」

    北條:プレーの目的を理解することは大事だと思います。また、三笘薫選手にイメージが近い気もしています。

    中村:しなやかさがありますよね。

    北條:抜く、抜かないというドリブルの理論もあると思いますが、西原選手は手足が長くて、アフリカの選手が持つ独特の感じに似ている気がします。それも彼の面白さであり、怖さにつながっていると思います。

    中村:清水は今年J1なので、そこで結果を残せれば、クラブの上位進出に貢献できると思います。

  • 稲村隼翔(C)Getty Images

    ポテンシャルある左利きCB

    稲村隼翔(いなむらはやと・アルビレックス新潟) 2002年5月6日生まれ。東京都出身。FC東京U-15深川-前橋育英高-東洋大

    北條:新潟の稲村隼翔選手はいかがですか。去年から特別指定選手としてYBCルヴァンカップの決勝戦でもプレーしていた期待の選手です。

    中村:僕は中央大学でテクニカルアドバイザーという役割を担っているので、大卒の選手たちは全員把握しています。稲村選手は東洋大学時代にインカレ(全日本学生選手権)で日本一を経験。アルビレックスでもずっとプレーをしていたので、新戦力というよりはしっかりとした戦力だと思います。

    左利きのセンターバックは貴重だと思いますし、ボールを付ける感覚をすごく持ち合わせている選手です。短いところだけではなく、ミドルから長いところ、対角へのサイドチェンジも出せます。相手のプレスを観ながらポジショニングを取り、パスを付けられる選手なので、昨シーズンのアルビレックスのサッカーにはものすごくフィットしていたと思います。

    高さを持ち合わせていて、対人の強さもある。今シーズンは新戦力というよりは、中心選手としての気概や覚悟を持って臨んでいると思うので、すごく期待してほしいと思います。

    北條:いろいろなクラブの強化やスタッフの方に話を聞くと、CBの良い選手がどんどん海外に出て行ってしまって、人材がいないと聞きます。もちろん、いい選手はたくさん出てきていますが、稲村選手は非常に能力の高い選手ですし、ひょっとしたら海外挑戦できるポテンシャルもある選手なのではないでしょうか。

    中村:そう思いますね。日本の市場がそのように見られる現状は仕方がないですし、選手たちもJリーグでしっかりとプレーをして海外に行く、もしくはJリーグを通らずに海外へ行くケースも増えています。それだけ日本の育成年代の選手たちが評価されていると僕は思っています。

    いろいろな選手がチャンスをつかむという観点でいえば、誰かが抜けたら、誰かが出てくる循環はいいと思います。日本サッカーの裾野を広げる部分や選手層の厚みを持つという意味で悪いことではないはずです。いま挙げた5人の選手たちには、ぜひ期待していただきたいと思います。

  • GOAL©Yuki Nagao

    アグレッシブに戦うトレンドは続くか?

    北條:最後に、今年のJリーグに期待することを教えてください。

    中村:神戸が3連覇を目指すシーズンになりますが、「ストップ神戸」を合言葉にして、序盤戦は始まると思います。昨シーズンの上位3チームである神戸、広島、FC町田ゼルビアはインテンシティがものすごく高くて、攻守においてアグレッシブに戦えるチームです。

    この特長は、昨年の世界的なトレンドだと思います。そのトレンドが今年も続くのか。はたまた、アグレッシブに戦う相手をひっくり返すチームが現れるのか。今シーズン、すごく楽しみにしている部分です。

    選手たちはバチバチにファイトしますし、ファン・サポーターのみなさんも、シーズン序盤戦が一番ワクワクすると思います。シーズンが進んでしまうと勝ち負けが顕著に出てくるので、準備してきたものそのまま進むチームもあれば、「それどころじゃない」というクラブも出てきます。20チームが20通りの進み方をするはずです。

    選手やファン・サポーターにとって、一喜一憂するシーズンがまた始まりました。トレンドを追いつつも、期待の若手たちがどのような活躍をしてくれるかに注目して、僕自身も楽しみにしたいと思います。

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