プレミアリーグは開幕から4試合が経過した。昨シーズン、熾烈な優勝争いを展開したリヴァプールが4連勝、マンチェスター・シティが3勝1分けで後を追っている。一方で、フランク・ランパード監督が新たに指揮を執るチェルシーは11位、チャンピオンズリーグファイナリストのトッテナムは9位と厳しいスタートとなった。
『Goal』では、結果だけでなく、そのパフォーマンスの中身について分析。プレミアリーグのクラブにおいて戦術的な勝者と敗者を独断で選定していく。
Getty/Goalプレミアリーグは開幕から4試合が経過した。昨シーズン、熾烈な優勝争いを展開したリヴァプールが4連勝、マンチェスター・シティが3勝1分けで後を追っている。一方で、フランク・ランパード監督が新たに指揮を執るチェルシーは11位、チャンピオンズリーグファイナリストのトッテナムは9位と厳しいスタートとなった。
『Goal』では、結果だけでなく、そのパフォーマンスの中身について分析。プレミアリーグのクラブにおいて戦術的な勝者と敗者を独断で選定していく。
Getty Images方向性の見えない就任1年目を経て、アーセナルはようやく枯れることのないエナジー、鋭いカウンターアタック、そしてリスク承知のポゼッションといった指揮官の戦術的信念を体現し始めた。ダヴィド・ルイスとソクラティスは妙なミスもするが、エメリが信頼を置く闘志あふれるプレーを見せてくれている。
加えて、不安定な中盤に悩まされてきた保守的な指揮官にとって、ルーカス・トレイラ、マッテオ・グエンドゥジ、ダニ・セバージョスは理想的な存在となり得る。ダイナミックな3トップを抱えるエメリは、クロップが体現するような4-3-3を築くことを夢見ている。
サイドバックのファーストチョイスには、エクトル・ベジェリンとキーラン・ティアニーがケガから帰ってきた。輝かしく、混沌としたシーズンに向けて、ついにガナーズはすべてのピースが揃ったのだ。
Gettyスールシャールは自らの戦術を説明するとき、自身がチームの一員だった90年代のチームの話を持ち出す。
一言で“ペースとパワー”と言われるそれは、縦横無尽の攻撃で相手を脅かし、プレッシャーを波のようにかけて守備をするという、サー・アレックス・ファーガソンのチームの代名詞の戦術で、指揮官はその役割をマーカス・ラッシュフォード、アントニー・マルシャル、ダニエル・ジェームズに期待している。
スールシャールが戦術を語る際に挙げられるアンディー・コールとドワイト・ヨークといった選手がプレーしたのは、20年以上昔の話だ。今は2019年で、ビッグ6は引いて守る敵に対してポゼッションを支配して攻略せざるを得ない。この現状で、スールシャールが語る時代遅れなメソッドは、もはや機能しない。
それは単純な話で、ユナイテッドのスピードある攻撃陣のためのスペースは、ファイナルサードに存在しないからだ。オールド・トラッフォードでパーク・ザ・バスの戦術をとり、勝ち点3を持ち帰るクラブは、もはやクリスタル・パレスだけではなくなっている。

非常に高い最終ラインによるコンスタントなプレッシングなどで知られるマルコ・シルバのアグレッシブな攻撃的スタイルは、力強いプレーをしたかと思えば大崩れするなど、しばしばつかみどころのないチームだった。
だがファビアン・デルフが中盤に加入したことで、ボールを持った際にはダイナミズムが生まれ、オフザボールの場面はより活動的になった。結果、試合をコントロールできなくなる危険は低下している。
エヴァートンはついにモイーズ・ケーン、さらにギルフィ・シグルドソンといったチャンスを作る対象となる選手を獲得した。一方でリシャルリソンの正直なプレーは、ハードワーカーであるアレックス・イウォビと良いバランスを生み出している。
エヴァートンの戦術アプローチには昨シーズンから変化はない。だがシウバが目指すサッカーを体現できる選手たちを、適切に補強したと言える。
Ben STANSALLノリッジとアストン・ヴィラは今シーズンここまで楽しいサッカーをしていると称されている。だがダニエル・ファルケ、ディーン・スミス両監督はワイドに開き過ぎた陣形、そしてオープン過ぎる中盤をじきに非難されるだろう。
ヴィラは守備的MFを起用せず、両サイドバックをフォワードのように高い位置でプレーさせるため、ボーンマス戦では早々に2失点を喫し、アウェーで行われたクリスタル・パレス戦では、おそらくプレミアで今最も創造性に欠けるチームを相手に22本もの枠内シュートを打たれる始末だった。
ノリッジはアンフィールドで行われた開幕節の試合では思い切った決断が称賛されたが、同じことをウェスト・ハム戦で繰り返すべきではなかった。ホームのハマーズはカウンターアタックでノリッジを何度も切り裂いた。
プレミアでは多くのホームチームが冷静になるが、彼らはその機会を失っている。ノリッジがポゼッションで上回れば自動的に勝利に結びつくと考えるのは、少々単純すぎるだろう。
Getty Imagesシェフィールド・ユナイテッドは順調にプレミアでの日々に適応している。他のチームと比べて、明らかに彼らはポゼッションするテクニックを有してはいない。だがワイルダーの複雑な戦術が、そうした欠点を見事に埋めているのだ。
センターバックのオーバーラップは注目を浴びるが、彼らのそれは眼を見張るものがある。またワイルダーの誇る中盤の3選手は非常に流動的で、その役割は試合中目まぐるしく入れ替わる。そしてウィングバックのエンダ・スティーブンスは完成されたプレミアのアタッカーのようにプレーしている。
戦術的によく訓練を積むことのあまり評価されない意外な利点として、自信が生まれることが挙げられる。シェフィールドはスタンフォード・ブリッジで行われた先の試合でも自信を持ってプレーした。それは選手たちがワイルダーの指揮を信頼していたからであり、自分たち自身のプレーを信じていたからに他ならない。
Getty Imagesマヌエル・ペジェグリーニは昨季、デクラン・ライスを最終ラインに起用し、アルトゥール・マスアクと前線の4選手が素早く攻撃に出られる陣容を築いたことで、ウェスト・ハムを我慢強いカウンター型のチームへと変貌させた。
だがマヌエル・ランシーニとアンドリー・ヤルモレンコの負傷により、チームはボールを収めてカウンターを主導する軸を失ったかに思われた。
セバスチャン・ハーラーはその掛けたピースとして見事にハマった。
空中戦に強く素晴らしいファーストタッチを持つ彼のおかげで、ウェスト・ハムはハラーを軸として、よりロングボールを用いたカウンターが出来るようになった。彼はすでに復帰したランシーニ、ヤルモレンコ、そしてフェリペ・アンデルソンとも良い関係を築いている。ハラーは1試合平均5.7回ヘディングで競り勝っており、これはプレミアの全ディフェンダーを差し置いて最高の数字だ。
Getty Images最近のホーム戦でニューカッスルに0-1で敗れたことは、トッテナムにとってはアーセナルに2点リードを追いつかれたこと以上に不安を生む結果となった。
2019年を通じてスパーズは徐々にホームで動きがなくなってきている。相手はポゼッションをトッテナムに譲り、堅い守備を形成する。スパーズはそれを突破するのに苦しみ、苛立ちを募らせるが、それが相手の狙いだ。4月にはウェスト・ハムを1-0で下したが、ブライトン、クリスタル・パレス、ニューカッスル戦では80分まで先制ゴールを決めることができなかった。
これは懸念すべき傾向だ。ポチェッティーノが戦術的な問題を解決する能力がないように見えてしまっている。ニューカッスル戦の敗北で彼はソン・フンミンとルーカス・モウラを前線でワイドに配置したが、この起用は敵のウィングバックが両選手を封じたことであまり意味のない采配に終わった一方で、クリスティアン・エリクセンとジョバニ・ロチェルソをベンチに置いた。
スパーズはファイナルサードでのプレーでより狡猾さを必要としたが、両選手が投入されたのは62分。遅すぎだ。こうしたケースがお決まりになってしまっている。
Getty/Goal目新しいことではないため、特に興味深いことでもないだろうが、19-20シーズンもここまでリヴァプールとマンチェスター・シティがリーグの先頭を走り、規格外のサッカーを見せつけている。
リヴァプールはチームの継続性という恩恵を享受し、チャンピオンズリーグ王者としての力を見せつけている。ジョエル・マティプ、ファビーニョ、ディヴォック・オリジはこの夏明らかに序列を上げた。
ペップ・グアルディオラはシティで特段戦術的な革新を起こしていない。ケヴィン・デ・ブライネが今シーズンはより右ワイドにポジションを取るようになり、リヤド・マフレズのサポートを厚くしている程度だ。小さな修正に過ぎないが、デ・ブライネは今シーズンすでに5アシストを記録しており、うち4つは右ウィングとの連携から生まれている。
Getty Imagesフランク・ランパード率いるチェルシーは、ランパードの選手としての個性をいくらかシェアしている。ハードワークと、規律に欠けるという特徴だ。
彼はハイプレスによるポゼッションサッカーを提唱しているが、同様のサッカーを標榜するリヴァプールやシティに見られるような、複雑なポジション指導ができるレベルにあるようには思えない。
そのため、選手たちはプレッシングに躍起になるが、それは個人レベルにとどまり、全体としての一体感がない。そのため疲労がたまり始めると、途端にバラバラになってしまうのだ。
この傾向は以前から変わらない。ジョゼ・モウリーニョはランパードのチームはボールを失った時のプレッシャーが弱すぎると指摘したが、この批判がなされて3試合が行われてもいまだ問題は解決していない。幸運にも、チェルシーはホームで戦ったレスター戦とシェフィールド戦以外で、後半あれ以上の失点はせずにすんだ。だが一方で勝利したノリッジ戦では、危機的なまでにコントロールを失っていた。
Getty昇格組の3クラブはいずれも前へ前へと意識したサッカーを目指している。ブライトンはクリス・ホートンからより大胆なグラハム・ポッターに指揮官をすげ替えた。また新たにプレミアに参戦したストライカーたち(ハーラー、ケーン、ウェスリー、ジョエリントンを含む)は今シーズンを象徴する攻撃的サッカーを体現している。まだ4節が終了したに過ぎないが、我々はすでに113ものゴールを目にしてきた。
戦術のトレンドは当然サイクルがあるもので、やがて別の流れが来る。そういつまでもこれが見られるわけではない。
クリスタル・パレスやニューカッスルは注意深く、そして守備的なサッカーでシーズンを堅調にスタートさせた。このことは、今後シーズンで最初に指揮官を更迭するクラブは、スティーヴ・ブルースやロイ・ホジソンといった火消し役的な指導者を選ぶ可能性を示唆している。