レアル・サラゴサ、または彼らの首脳陣は、香川真司の一件について、その歴史に見合うクラブとしての“セニョリオ(優雅さ、上品さ、威厳などの意)”を示すことができなかった。1年と少し前、この日本人の入団が一体どういうものだったのかは忘れ去られ、彼はまるでどこにでもいるような選手として、悪役としてアラゴン州のクラブを去ることになる。
「自分としては望んでいた形ではなかった。予期していた形ではないお別れになったのが心残りですね。こうなるとは予想していなかったし、今はこれから考えなきゃいけない自分の未来について整理しているところです。一歩を踏み出す必要があります」。香川は退団会見で、そう語った。
(C)Goal約1年前、レアル・サラゴサは攻撃の柱だったペップ・ビエルを移籍金500万ユーロでコペンハーゲンに売却することを決断し、サポーターから容赦のない批判を浴びていた。しかし香川の到着が、一気に状況を逆転させている。彼の獲得はサポーターはもちろんのこと、サラゴサという町にとっても喝采を送るべき出来事だった。手の届かない存在と思われた日本最大級のスター選手が、たとえ2部リーグであってもスペインに挑戦する道を選び、そのために彼クラスの選手からすれば極端に低い年俸契約を甘受する……。胸を熱くするのは、当たり前だった。
その入団セレモニーは華やかそのもので、今はもう昔となったパブロ・アイマールやアンドレス・ダレッサンドロが加入したときのようなガラクティコ(銀河系選手)級の歓迎ぶりだった。会見場では和太鼓のショーが行われ、その後、本拠地ラ・ロマレダのピッチ上で行われたユニフォームお披露目では6000人ものサポーターが集結。レアル・サラゴサの名は香川がクラブエンブレムにキスする姿とともに、久しぶりにスペイン国内外で響き渡ったのだ。
■誰も望まぬ退団
(C)MutsuFOTOGRAFIA確かに、そうやって始まった香川のスペインでの1シーズン目は、フィジカルの問題も響いて浮き沈みがあった。が、それでもパンデミックからリーグ戦が再開した後、彼はチーム最高の選手の一人として君臨していた。それだけでなく、この日本人はいつだって素晴らしいプロフェッショナルとしての振る舞いを見せ、ベンチスタートにも文句の一つだって言わなかったのだ。加えてパンデミック下で、友人のアンデル・エレーラとサラゴサ市を支援する募金活動を展開したことも称賛すべき出来事だった。
それなのに今夏、レアル・サラゴサは香川の(彼らからすれば)あまりに高い年俸が、満足いく補強戦略を妨げる要因と捉えた。香川本人には、もし年俸が問題であるならば話し合って引き下げる心構えすらあったものの、クラブは一方的に決断を下してしまった。彼をチームにとどめることを望まず、退団させるためにあらゆる手を尽くしたのである。
私が最も心を痛めているのは、レアル・サラゴサがこの香川の一件によって、再び悪名を馳せてしまったことだ。日本はもちろんのこと、ここアラゴン州の首都でも彼のプレーに惚れ込み、残留を願っていた者は多い。香川が「ファンのメッセージと応援にはとても感謝しています」と話していた通りに。私にしたって、多くの主力を失った現在のレアル・サラゴサで香川は大きな助けになる存在だと信じていた。スペインでの挑戦は2年目となり、ここのフットボールにより適応しているはずなのだから。それに私は、彼がいまだに貪欲さを失っていないと思っている。香川はスペインでプレーし続けるため、異なる国から届く巨額のオファーに対して首を横に振り続けていた。
何よりもシュールだったのは、嘆かわしい財政的問題を抱えるレアル・サラゴサが、現陣容の中でおそらく最もクオリティの高い選手を退団させるために金を支払うということだ。香川がこれ以上チームを助けることができないようにするために金を支払うのである。同じ額、もしくはそれより少ない額を支払うことで、チームを助けてもらうことだってできたはずなのに……。香川は今後18カ月をかけて、契約を1年残していたレアル・サラゴサから50万ユーロを受け取ることになるが、移籍先のクラブが決まった際にはそこでの年俸から差し引いた額をもらうだけで良しとしている。彼はクラブの扱いに不満を持ちながら、それでも新しい心遣いを見せてくれた。レアル・サラゴサの首脳陣よりも、ずっとずっと立派だ。
香川が2枠しかないEU圏外の選手であったことも問題だったが、しかしその問題もクラブ側が勝手に抱えたものだった。彼らは香川の放出問題をまったく解決しないままトロ・フェルナンデス(ウルグアイ)を獲得し、イビサから出戻り契約延長による残留か退団かの二択を迫ってきたライー・ナシメント(ブラジル)を土壇場で残すことに決めた。レアル・サラゴサの振る舞いは、やはり決して褒められたものではない。彼らは理にかなった手順を踏むことなどなく、突として、日本人を強制的に退団に追い込んだのだ。
私たちはときに、心からの感謝というものをしなくてはならない。1年と少し前、私たちは香川が入団してくれたことで、確かに幸せだった。そしてもっと大きな幸せを、今季こそもたらしてくれるかもしれなかった。「サラゴサというチームはこの町にとって大きな意味を持っています。1部で戦わなければいけないクラブだし、今季はそれをチームメイトに託して自分は応援していきたいと思います」。まったく似つかわしくない終わりを迎えたにもかかわらず、最後の最後までこんなことを言える偉大なフットボーラー、素晴らしい人間が行ってしまう。私にできるのは、ただ彼の幸運を、幸せを願うことだけだ。
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