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なぜバイエルンは伊藤洋輝を獲得したのか?クラブの思惑、手本とすべきモデルとは…

日本代表DF伊藤洋輝のバイエルン移籍が日本時間14日に発表された。

13日に加入の可能性が伝えられてから、急転直下の移籍劇。冨安健洋(アーセナル)や遠藤航(リヴァプール)らに続くビッグクラブで挑戦する日本人選手となり、日本のサッカーファンを大いに湧かせた。

では、バイエルンはなぜ伊藤の獲得に踏み切ったのか。その理由を紐解いていく。

以下に続く

■クラブの思惑

hiroki-ito(C)Getty Images

バイエルンにとって日本人選手の加入は宇佐美貴史、福井太智以来3人目。しかし、宇佐美や福井と異なるのは年齢。宇佐美と福井がバイエルンへ加わったのは10代の頃で、将来的な可能性に懸けてクラブは獲得を決断したのに対し、伊藤は現在25歳。すでにブンデスリーガでは3シーズンプレーしており、2023-24シーズンはドイツ誌『キッカー』のシーズンを通じた平均採点ではDFで6位にランクインするなど、リーグを代表する選手だ。

レギュラー格としての加入であることは間違いないが、バイエルンでスタメンが確約されているわけでもない。左利きで、CBとSBをこなすことができるというプロフィールが評価されていることは「左でも中央でもプレーできるため、守備でも万能」(クリストフ・フロイントSD)というコメントからも明らかで、2つのポジションを柔軟にこなしてほしいというクラブの思惑が透けて見える。

ただし、伊藤がすでにバイエルンの守備陣より上回っているものがあるとすればビルドアップ能力。2023-24シーズンのバイエルンは後方のパス回しが常に危うく、幾度となくハイプレスの餌食となってきた。

ダヨ・ウパメカノやキム・ミンジェは人には強いが、ビルドアップの能力はお世辞にも高いとは言えず、ビッグマッチで失点に関与するシーンもちらほら。エリック・ダイアーはフィードこそ得意だが、単純な守備能力で他に引けを取る。左サイドバックのアルフォンソ・デイヴィスにしても、身体能力に頼るきらいがあり、後方でのパスゲームは苦手としている。

その点、伊藤の安定感は大きな魅力だ。CBとして見れば唯一の左利きで、後方からの配球も期待できる。ヴァンサン・コンパニ新監督がこれまでポゼッション型のチームを作っている傾向も、伊藤にとってはプラス材料と言えるだろう。

■人員整理の影響も

Vincent Kompany Bayern Munich 2024Getty

ドイツメディアの間では、バイエルンが人員整理の影響を考慮し、伊藤を獲得したという見方も強い。

12年ぶりの無冠で2023-24シーズンを終えたバイエルンにとって、新シーズンは巻き返しの一年となる。コンパニ監督の就任もそのひとつで、守備陣を見渡せば放出の噂がない選手を探す方が難しい。チーム屈指のタックラーで、サポーターからの人気も高いマタイス・デ・リフトでさえ、換金の可能性が伝えられている。

Matthijs de Ligt Bayern 04272024(C)Getty Images

すでにデイヴィスの今夏、あるいは来夏の退団は濃厚で、その点でも伊藤の加入は有用なもの。加えて、伊藤の移籍金はボーナス含めた最大でも2800万ユーロ(約47億2000万円)と伝えられており、バイエルンにとっては比較的“お得”な買い物となった。

■手本とすべきは…

ito-pavard(C)Getty Images

バイエルンは伊藤を獲得してもなお、レヴァークーゼンのDFヨナタン・ターの加入の可能性は残しており、それは今後DFを放出する証左でもある。そうなった際に伊藤が守備陣の中心に据えられるかは定かではないが、手本とすべきロールモデルはすでにある。

それが2019年から2023年までプレーしたバンジャマン・パヴァール(インテル)。伊藤同様、シュトゥットガルトからの加入で、移籍金もほぼ同等(パヴァールは推定3500万ユーロ)、CBとSBとしてプレー可能という共通項もある。

パヴァールは当時2部降格となったシュトゥットガルトからの加入となったこともあり、周囲からの目は懐疑的だった。しかし、パヴァールはどのレベルでも安定感のあるプレーを見せ、ミスを犯すことなく右サイドバックとしてレギュラーに定着。1年目からクラブの3冠に大きく貢献した。

こうした前例を見れば、伊藤の移籍は第三者から見ても十分に理解できる論理的な決断だった。バイエルンが失った後方の安定感、そしてタイトルをチームに取り戻すことができれば、シーズン終了後には伊藤の移籍は優れた補強として記憶されることになるだろう。

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