■2年後の甲子園を目指して1年生を送り込む
23歳以下のアジア王者を決定する、AFC U23アジアカップの予選会がアジア各地で開催されている。日本ではグループKの試合が始まっており、23日にカンボジアと香港が対戦して前者に軍配が上がった。26日には日本の初戦が行われる。
2年に1度、AFC U-23選手権の名前で開催されてきたこの大会は、4年に1度(つまり2大会に1度)五輪の予選を兼ねる大会となる。今回はそのうちの“予選を兼ねないほう”の大会となる。
例年、日本サッカー協会は、この“予選を兼ねないほう”の大会には大会の年齢制限を2歳下回る年少のチームを送り込んできた。U-23が年齢制限ならU-21年代を送り込むわけだ。こうしておくと、U-21のチームは2年後にU-23となり、五輪の“予選を兼ねるほう”のときの年齢と合致する。要するに、2年後の甲子園出場を目指して、1年生チームを送り込んで経験を積ませておくというような考え方である。
しかし反町康治技術委員長が東京五輪後から示唆していたように、今回からこの強化方式を微修正。次の五輪パリ大会を見据えた選手たちを軸にしつつも、大会の年齢制限に合致する上の年代の選手であるMF郷家友太(ヴィッセル神戸)ら4名を“オーバーエイジ”として招集している。
■オーバーエイジが含まれた狙い
(C)Akihiko Kawabataこの狙いは大きく3つあると見ている。
1つは郷家たちの年代に「代表選手として国際試合を戦うチャンスを与えたい」(冨樫剛一監督)ということ。彼らは東京五輪では年少組に当たるためにメンバー入りしづらく、次の五輪では年齢制限をオーバーしてしまうので入れない。代表のチャンスがあるとすればA代表になるが、そのステップは当然かなり高い。そういう選手たちに適切なステップを踏む機会を提供しようということだ。
2つ目は、五輪年代をその年代だけで固めないことによって生まれる効果への期待である。どのみち五輪本大会になれば、“オーバーエイジ”枠がある。それも踏まえて、五輪年代の選手たちに「上の年代とも競争してポジションを勝ち取る」覚悟や意識をあらかじめ持ってもらおうということである。
さらに3つ目は、よりリアリスティックな部分だが、「アジアで日本が強いチームだと思わせる」(冨樫監督)ための術策としての年長組である。
前回のAFC U-23選手権(現U23アジアカップ)において、日本はグループステージ敗退。このため、今回の予選で日本は第1ポット(第1シードグループ)から外れてしまった。幸いにも最悪の抽選は避けられたのだが、いきなりアジアの強国とデスマッチを強いられる可能性もあった形だ。
■リオ、東京は8強で敗退
正直に言って、2年後の“パリ五輪予選を兼ねるほう”の大会でこうなってしまうのは非常にまずい。このため、今大会で結果を出してシード権を取っておいて、2年後の五輪1次予選で最悪の組み合わせを引く可能性を削っておきたいという本音がある。
また年少組で臨んだ過去の大会では、リオ世代も東京世代も8強で敗退しており、ノックアウトステージの高いレベルで緊張感のある戦いの経験が継続できなかった。それならば年長組を加えて戦力を底上げした上で勝ち残り、その経験を加えたほうが、下の年代だけで臨むより大きな経験値を得られるのではないか——。
そんな算段もあると思われる。もちろん、年長組が少し加わったから必ず勝てるなどと言えるほどアジアのステージは甘くないが、勝率の底上げ自体は可能だろう。
これにはもう一つの側面もあり、国際Aマッチデーではない時期に行われるこの大会において日本はベストオーダーを編成できないということが半ば確定しているということもある。GK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ/ポルトガル)やFW斉藤光毅(ロンメル/ベルギー)といった海外組がいることに加え、Jリーグ組も各チームで戦力になっている選手が多い。このため、天皇杯やルヴァン杯、そして一部リーグ戦とバッティングした今回も多くの有力選手を招集できなかった。より幅広い世代から選手を集めることで、極端な戦力低下を回避したいという狙いもあると思われる。
幅広い世代という意味では、今回の代表には4人の年長組に加え、4人の高校生が参加する。これもまた楽しみな要素だ。DFチェイス・アンリ(尚志高校)、MF中村仁郎(ガンバ大阪ユース)、甲田英將(名古屋グランパスU-18)、松木玖生(青森山田高校)は、いずれも上の年代に混じって活動した経験を持ち、飛び級招集に動じるところはなさそう。FW細谷真央(柏レイソル)が「本当に2個下なのかと思うこともあって刺激を受けている」と語るように、プロでプレーする選手たちにもポジティブな効果を生んでいる。もちろん、それぞれ特長を持っているだけに、“個”としての輝きにも注目しておきたい。
福島Jヴィレッジにて、次代に向けた一歩を新生U-22日本代表が踏み出すこととなる。
取材・文=川端暁彦
