■ウワサどおりの物怖じしない性格
青森山田高校・黒田剛監督の言葉を借りれば、松木玖生は「今どき珍しいタイプ」ということになる。
「肝が据わっているし、何でも先頭を切って行動を起こす。発言するときも堂々としている。そういない選手で、頼もしさを感じるキャプテンですよ」(黒田監督)
そしてこうも言う。「だからこの時代に余計に大きな価値を持っているのかもしれない」と。
一方、青森山田高校の先輩にして、U-22日本代表で初めて同じチームでプレーすることになったMF郷家友太(ヴィッセル神戸)も、一緒に長く過ごす機会を得て「ウワサどおりの物怖じしない性格」と思ったと言う。高校サッカーでプレーしている選手が年上のプロの集団に交じるのはある種の難しさが伴うものだが、「まあ松木なら大丈夫かな」と思わせるモノが確かにある。この図太さ、威風堂々としたところがまず第一に挙げられる特質だろう。
U-22日本代表にとっての初戦となるU23アジアカップ予選・カンボジア戦でのプレーもそうだった。別に緊張していなかったわけではなく、チーム全体が硬くなる中で松木自身も難しさを感じていたと言う。
「前半はあまり足元の感覚がないというか、そういう感じがしていた」
だが、それでも最初にゴールネットを揺らしたのは松木だった。こぼれ球に抜け目なく反応した形で、本人は分析のおかげだと謙遜していたが、松木をこの一戦に抜擢した冨樫剛一監督が「スペースであったり、こぼれ球であったりに対する“いい目”を持っている」と語った通り、松木のもう一つの特長がよく出た場面だった。
■結果を残せる要因
(C)Kenichi Arai指揮官は「日本が苦しい、なかなか難しいゲームの中で、しっかりとゴールという数字を残したことが彼の一番の特長」とも評価する。この“点を取れる”ということと、“苦しい時間や勝負どころに強い”といった評価は松木について回るものだ。来季加入の内定しているFC東京の石井豊スカウト部長も、「ボランチなのに本当によく点を取る」ところと「メンタリティ」を最大の評価ポイントとして挙げていた
実際、ボールを扱うテクニックに関して松木より優れた選手はいるし、身体的にも強さはあるけれど速さはないタイプ。何か数字を計って分かるような個人能力を持った選手ではない。年代別日本代表でも常に主軸だったかと言えばそうではなく、トレーニングで輝くタイプでもないだけに、評価も分かれた。
ただ、本人の軸が揺れ動くことはなかった。地道に積み重ねてスケールアップしてきた肉体的なベースの高さ、それに裏打ちされた強さに加え、指導者が教えられないようなメンタリティやセンスも間違いなく持っていて、実際に結果も残し続けている。
結果を残せる要因を本人は「自信があるからできる」とした上で、「気持ちがブレていないからできる」とも言い切る。飛び級での緊急招集となった今回の予選、並み居るJリーガーや大学サッカーのスター選手たちを抑え、高校3年生のMF松木玖生が初戦で最初に輝いたのは、偶然というわけではなさそうだ。
■MF 17 松木玖生(MATSUKI Kuryu)
2003年4月30日生まれ、18歳。180㎝/76 ㎏、北海道出身。室蘭大沢FC-青森山田中学校-青森山田高校。来季FC東京加入内定。
