パリ五輪最終予選を来月に控えるU-23日本代表は25日、北九州スタジアムにてU-23ウクライナ代表と対戦。前線からのプレスが機能する形で攻守に上回った日本が2-0と快勝を収めた。
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先制ゴールを奪ったのは、ドイツ・ブレーメンでプレーをする佐藤恵允(ケイン)。実践学園高校から明治大学へと進み、Jを経ることなく欧州でのプレーを選択した「日本の10番」である。【取材・文=川端暁彦】
■「欧州でも武器になる」特長
(C)Kenichi Araiパリ五輪アジア最終予選を兼ねるAFC U-23アジアカップを目前に控える日本にとって、25日のウクライナ戦は、最後の国際試合である。マリとの試合から11名中10名を入れ替えるラインナップとなる中で、FW佐藤恵允(ブレーメン)は左ウイングの位置で先発した。
預かった背番号は「10」。伝統とそれに伴う特別な意味を持つ番号について「重いっス」と笑ったものの、「やることは変わらない」。まず得意の守備を研ぎ澄ます形で試合に入っていった。
そう、「守備が得意」なのが佐藤のストロングポイントだ。攻撃の選手は守備のタスクを嫌がることも珍しくないのだが、「自分はまったく苦にならない」と言い放ってきた。欧州に行ってからも「こっちに来て改めて、守備を特長にできるのは武器になると思った」という考えを深めた。
元から心理面を含めた守備での持久性には自信を持っていたが、ドイツに渡ってからは球際の競り合いを含めて再強化。「(対面のSBのプレーを)限定するだけでなく奪い切る守備になった」と言うように、よりボール奪取にもこだわるようになった。
この日もそうしたプレッシングの部分と、外されたあとにポジションへ戻っての守備でもしっかりと機能。本人も手応えを感じていたように、「守れるウイング」としての個性をしっかり見せ付けた。
もっとも、攻撃面ではチャンスには絡んでいたものの、流れの中で自身のゴールに繋がるプレーはできず。「最後の精度がなかった」と認めたように、合格点と言いがたい内容だったのも事実。とはいえ、あらためて自身の価値を表現したゲームだったのも間違いない。
■「嗅ぎ分けた」ゴール
(C)Kenichi Arai流れの中でゴールに繋がるプレーができなかったと書いたが、セットプレーからの決勝点は佐藤の仕事だった。
「ファー詰めはずっと自分が任されているので、自分の仕事ができて良かった」(佐藤)
そう胸を張ったとおりのゴールは、ニアサイドでDF関根大輝が頭で競り勝って流れたボールがポストを叩き、そのこぼれ球を「鼻で」押し込んだもの。偶然の産物に見えるが、この「おいしい」位置に入れていたことが佐藤にとっては重要なことだった。
「ゴールはゴールなので。“嗅ぎ分けて”あの位置に行けていたことが大事」(佐藤)
ゴールの匂いを察してのポジショニング。「ファー詰め」を任されるのは、それができる選手だという首脳陣の信頼があるからで、その期待に応える形のゴールだったわけだ。
■高校までは無名の存在だった逸材
(C)Kenichi Arai欧州の名門でプレーするようになった佐藤だが、中学までは完全に無名の存在。高校進学に際しては「行き先を選べるような選手じゃなかった」と率直に振り返る。東京の強豪・実践学園高校に進んだが、当時は同じクラブチームから進んだ選手たちのほうが評価も上で、入学当初は悔しい思いも味わったと言う。
ただ、この実践での3年で才能は大きく開花。身体的な成長が伴ったこともあり、ウイングで仕掛けて勝つ快感を覚えた佐藤は自信も付けて、プレー感覚も大きく変化。全国区のプレーヤーになることはなかったものの、東京ローカルでは知られる存在になり、大学サッカー界を代表する強豪の明治大から誘われるまでになった。
明治というプロを狙えるクラスの選手がズラリと揃うハイレベルな環境で揉まれた佐藤はその個性をさらに伸ばし、タフな競争に打ち克つことでメンタル的にも一段と成長。ついに大岩剛監督の目にとまる形で日本代表のユニフォームに袖を通すと、バイタリティあふれるプレーでそのハートも掴み取った。
■いざ最終予選へ
長足の進歩を遂げた佐藤だが、まだまだ進化の過程にあることは本人が何よりわかっている。さらに上を目指すためにも五輪は絶対の目標。最終予選に向けては「アジアの試合は、今日みたいにいかない」と気を引き締め直す。
鋭く速くタフに戦う「日本の新10番」が、パリへの切符を引き寄せる。