U-22日本代表は6日、AFC U-23アジアカップ・カタール2024予選の初戦でU-22パキスタン代表に6-0で快勝。その試合で日本の守護神を務めたGK鈴木彩艶は、スケールアップの兆しをみせている。【取材・文=川端暁彦】
■求めていた課題の抽出
表情が明るく見えるのは錯覚ではないらしい。この夏に新天地へと飛び出した鈴木は、充実感を漂わせながらU-22日本代表へ合流してきた。
「やっぱり試合に出ないと気付けないものが本当にある。しかも海外のチームで試合に出られたのはプラスになっている」
今夏から移籍したベルギー1部リーグのシント=トロイデンでは2試合に先発出場。浦和レッズではなかなか機会を得られなかったリーグ戦での連続出場という形は、本人にとって大きな意味があった。
1試合目のセルクル・ブルッヘ戦は、「こんなに色々変わるのは初めてなので難しさはあった」と振り返るように、“らしくない”プレーも頻発。「ミスしても動揺しないということはできていたけど、そもそもの予測の部分ができていなかった。頭の準備ができていなかったと思う」と反省する内容になった。
ただ、まさに求めていたのはこの感覚でもある。試合で出た課題を抽出してトレーニングに励み、その次の試合へぶつけていくというサイクルだ。2試合目のシャルルロワ戦は、「頭の整理ができた2試合目は自分の持ち味が出せて、何回かシュートセーブもできた」と納得感もある内容に。「(1試合目の)学びがあった」と語り、「GKコーチからも1試合目より2試合目が良かったと言ってもらえた」と言う様子は、最近の鈴木からはみられなかったものだった。
■欧州でどん欲に吸収中
(C)Getty images昨年のAFC U-23アジアカップでは正GKを務めた鈴木だが、出場機会を失っている中で序列も低下傾向。ポルトガルのベンフィカでプレーする年長のGK小久保玲央ブライアンが、最近の国際親善試合ではスタメンで出る機会も多くなっていた。「ずっとやってきた良いライバル」と競って上回っていくためにもと、欧州移籍を決断することとなった。
その過程において、英国の名門マンチェスター・ユナイテッドからオファーを受けるという仰天の展開もあったが、こだわったのは出場機会。試合に出て今の自分を試し、それを練習に反映させてまた試合へ臨む。そのサイクルに飢えていたからこその決断だった。
シント=トロイデンには日本代表GKシュミット・ダニエルも在籍中で、「物凄く良い人。わからないことをいろいろ教えてもらっている」と、その経験と技術もどん欲に吸収中。さらなるスケールアップを目指している。
また、「欧州組」になったからといって偉ぶるようなタイプでもなく、普段から身にまとう穏やかな雰囲気が変わったわけでもない。
試合前に必ず食べる甘味はバーレーンの地にも持参済み。“ようかん”を調達し、荷物にしのばせてきた。新天地となったベルギーでも、あんこを入手できる店はチェック済み。その上で「(現地で買うのは)高いですし、やっぱり日本から持っていったのが一番」と、補給体制の整備に余念はない。
■代表GK争いは激化
6日に行われたAFC U-23アジアカップ2024予選、パキスタンとの試合では先発フル出場。代表でのGKのポジション争いは激しさを増しているが、ここも譲るつもりはない。
190cm91kgの体躯を生かしたパワフルなプレースタイルは、これまでの日本代表GKにはみられなかったもの。15歳でU-17W杯のメンバーへ飛び級招集されたときから、関係者が口を揃えて「未来のA代表」と太鼓判を推したタレントは、成長の踊り場を一歩抜け出し、もっと大きなステージを目指しつつある。
より大きく、より逞しく、より鋭く自分自身を研ぎ澄ませていく。そのサイクルの中で「未来のA代表」という長年の肩書きから「未来の」が消える日は、そう遠くないかもしれない。
