AFC U-23アジアカップ2024予選の第2戦U-22パレスチナ代表戦で、U-22日本代表に勝利をもたらしたFW藤尾翔太。セレッソ大阪からFC町田ゼルビアに期限付き移籍中の22歳は、様々なスタイルから刺激を受けながら自らのプレーに取り入れてきた。【取材・文=川端暁彦】
■“現在の藤尾っぽい”得点
大阪育ち桜色のストライカーは、水戸と徳島、そして町田という異郷で、異なる戦術、異なる刺激を受け、現代的なストライカーへと一歩ずつ成長を遂げてきた。
6日に開幕したパリ五輪1次予選を兼ねるAFC U-23アジアカップ2024予選。U-22日本代表23名の中に、FW登録の選手は2人だけだ。一人は柏レイソルの細谷真大、そしてもう一人が、町田のFW藤尾翔太である。
9日に行われたU-22パレスチナ代表戦では先発出場を果たした藤尾がチームにとって唯一の得点にして決勝点である1ゴールを記録。チームに1-0の辛勝と、絶対に譲れなかった勝点3をもたらした。日ごろから「FWは結果」と言い続けている男にとって、意味のある1点だったことは間違いない。
ゴール自体も“らしい”ものだった。絶妙なランニングプレーでペナルティエリアの脇をぶち抜いた右ウイングの小田裕太郎(ハート・オブ・ミドロシアン)に対し、焦ってニアに踏み込むのではなく、わざと減速しながらマイナスの位置に入ってマークを外すと、「当てるだけを意識した」と大振りせずにコツンと足に当ててゴールに流し込んでみせた。
「相手がガッとくると思ったので、(自分が)止まるだけで相手がいってくれたのでラッキーでした」
そう笑って振り返ったが、もちろん単なる幸運ではない、「狙いどおり」のプレーであり、“ストライカーらしい”ゴールであり、“現在の藤尾っぽい”得点だった。
■期限付き移籍先で強烈な存在感
(C)Getty images大阪の街クラブRIP ACEで小中を過ごした藤尾は高校年代からC大阪へ加入。同時に高校1年生から各年代別の日本代表にも名を連ね、国際経験も積んできた。高卒1年目の2020年には浦和レッズ戦でJ1リーグへのデビューと初ゴールも記録してみせた。
ただ、出場機会は常に限定的で、2年目の半ばには早くも最初の移籍を決断。水戸ホーリーホックへ期限付きで移籍すると、ここではハーフシーズンで8ゴールを記録。強烈な存在感を見せ付けた。さらに翌年には徳島ヴォルティスへ同じく期限付きで籍を移すと、ここでは1シーズン通してプレーし、初の二桁得点も記録。ポヤトス監督のスペイン式戦術の下、新しいスタイルにも挑戦し、適応してみせたのも印象的だった。
昨年、活動を本格的にスタートしたパリ五輪を目指す“大岩ジャパン”に招集された際にも、こうして摘んできた経験は大いに生きた。[4-3-3]の基本フォーメーションとし、ウイングが大きく外に張り出すスタイルを持つチームにもしっかり適応。センターFWとして、あるいは右ウイングとしても“計算できる”プレーを披露してみせた。しかもRIP ACE以来の喧嘩上等の野性味あふれるスタイルは保持しつつ、である。
国際試合の秘訣を問われると、決まって出てくるのが「やられる前にやることですね」というフレーズ。特別に体が大きい選手ではないが、体のぶつけ合いで相手DFのバランスを崩す巧みな技を持ち、ゴール前のギリギリの競り合いでも、タッチライン際で相手DFが思い切ってぶつかりに来る場面でも巧みに対応してしまう。
こうした巧みな体の使い方は空中戦でも威力を発揮する。単純な打点の高さで彼より上の選手はいくらでもいるだろうが、ボールの落下点に入っていく目の良さ・勘の良さに加え、ヘディングシュートを枠に飛ばす技術もシンプルに高い選手となると、日本にはそういない。昨年のAFC U-23アジアカップでは、クロスからのシュート練習でスペシャルな軌道のヘディングシュートを連発し、見守っていた記者が思わず感嘆の拍手をしてしまったほどだ。
また、いわゆるドリブラータイプではないが、相手DFの勢いの逆にボールを運んでいなし、シュートやクロスのコースを作る技術もある。
■「いいな」をどん欲に吸収
(C)Getty imagesそして今年3月から期限付き移籍となった町田では、黒田剛監督の薫陶を受けて、新しい刺激を受け取ってきた。藤尾が「わかりやすい」と形容する剛健な黒田スタイルは、シンプルにゴール前へ、つまりFWへとボールを運んでいくだけに、前で体を張る選手の負担も小さくない。ただ、だからこそ刺激的なようだ。
「FWとしてはボールが来る回数がまず多いんですよ。あれをやってると、もっと無理が利く選手になれるんじゃないかという感覚があります。そこは今やっといて損はないと思っているし、『成長できてるな』とも感じています」
町田で求められる単純なロングボールを受ける、相手を背負った状態でパスを収めるといった仕事は、必ずしも藤尾の従来のスタイルと合致するわけではない。ただ、その点についても「代表を考えても大事」と前向きだ。
「めちゃくちゃ大事になると思っていて、アジアでは自分たちが持つ時間が多くなるけど、相手が強くなるにつれて蹴らされる時間帯も長くなっていくと思うんですよ。そういうときにしっかり前で時間を作れるFWかどうか。そこはいま、町田でやっていて『これいいな』と思う部分です」
また、前線からのディフェンスへの要求も厳しいが、「守備はどこに行っても求められること」と受け入れた上で、「サボったら絶対に言われるんで」と笑いつつ、前向きに取り組んできた。C大阪のアカデミーでも、期限付きで移籍した水戸でも徳島でも町田でも、そしてU-22日本代表と、それぞれ戦術もチームカラーも違う環境で「いいな」と思ったことを続々と採り入れ、少しずつトータルなFWになってきた。
パレスチナ戦では前線で起点になり切れず、チャンスを作るという意味でも物足りないパフォーマンスだったように、実際はまだまだ課題も多い。ただ、成長へのどん欲な姿勢と多様なスタイルへの適応力、ゴール前での豊かな感性は間違いなくホンモノ。その進化の先に、より上のステージも見えてくることだろう。
