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南野拓実、リヴァプールでの現在地。将来をかけた最後の戦いへ

南野拓実はこのプレシーズン、慣れた環境に自身を置くことができている。言葉通りに捉えることもできるし、比喩としてもそのとおりだ。

この日本代表選手はリヴァプールの一員として4週間のトレーニングキャンプをザルツブルク近郊で過ごした。オーストリアのこの街は、マージーサイドに移る前に南野が5年を過ごした場所だ。

ザルツブルクでの時は幸福であり、成功の時でもあった。だが、リヴァプールのキャリアで同じくらいの評価を得たいのであれば、何か変化が必要だ。それもすぐに変化しなければならない。

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なぜなら、18か月が経過した今、26歳の彼はすでに自分のレッズでの将来をかけて戦っているからだ。

非常に厳しい評価に思えるかもしれないが、確かにそのとおりなのだ。昨シーズン後半はローン先のサウサンプトンで過ごした南野は、自身がフォワードとしてレギュラーで使える存在だということをユルゲン・クロップに納得させなければならない。

■レンタル移籍に実りはあったか?

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2021年2月、冬の移籍ウィンドーが閉まる数時間前。セインツへのローンが確定したときには、眉をしかめる人が多かった。リヴァプールの調子は当時劇的に落ちてきており、チームにはけが人が続出していた。期限付きとはいえ、トップチームの選手がクラブを離れることは、どこか奇妙な決断に思われた。

だが、クロップはそういった考え方を否定し、この移籍は「Win-Winのシチュエーション」とコメント。それまで十分なチャンスが与えられてこなかった南野のことは「長期間のプロジェクトだ」と宣言していた。

さらに、クロップは「移籍先で再び自身のフットボールをエンジョイしなくてはならないね」と付け足した。「何かを変えようとか、成長しようとする必要はない。ただフットボールをすればいい。そして自信やリズムを手に入れさえすれば良くなるだろう」

クロップは、南野はサウサンプトンで残るシーズン17試合すべてに出場するだろうと予想した。だが、結局出場は10試合にとどまった。

セインツでのデビュー戦となったニューカッスル戦ではゴールを決め、評価されて然るべきものでもあったし、引き分けとなった数週間後のチェルシー戦でもさらに1ゴールを追加。だがフル出場は2試合にとどまり、シーズン終了後サウサンプトンに完全移籍する可能性は全くなくなってしまった。

それでも、リヴァプール関係者が言うには、この移籍は実りあるものになったという。南野は出場時間を増やしたかったし、実際に試合に出ることができたのだと指摘している。停滞するクラブを引き上げようとしながらも、なんとかチャンピオンズリーグに滑り込もうと画策するクラブの状態にあっては、アンフィールドでの出場機会は得られなかったのではないか、ということだ。

確かに正しい考察だ。移籍前までの南野は1月末までに2試合しか先発していない。そのうち2試合目、12月のクリスタル・パレス戦で得点を記録しているが、その後6週間で得た出場時間はたったの6分間にとどまってしまった。レギュラーからは程遠い状態だった。

クロップは南野について「素晴らしいプロフェッショナル。トップタレントで、本当に良い選手だ」と評価しつつ、チャンスを与えることは簡単ではなかったことを認めている。

「問題は、我々は本当にいいチームだということと、私は試合で得られる成果を考えて判断を下さないといけないということだ。彼とポジションを争う選手たちは皆とても調子がいい。(ジェルダン)シャチリは最高の状態でカムバックを遂げたし、ディヴォック(オリジ)のこれまでの業績も皆知っているはずだ」

■南野の現在地

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南野、オリジ、シャチリの3人は皆同じ状況にいる。リヴァプールから追い出されてはいないが、適切なオファーが実ればすげ替えられてもおかしくないだろう。

ただ正確に言えば、南野の状況は微妙に異なる。オリジはイングランドやドイツのクラブから引く手があるし、シャチリはラツィオのようなクラブが大好きだ。南野に関しては、今夏完全移籍で獲得する気のあるクラブはほとんどなさそうだ。また、クラブはもう一回南野をローンで放出することに非常に消極的な姿勢を示しているという。

レッズは28日間に渡るオーストリアでのキャンプを過ごしている。充実したプレシーズンが当落線上の選手たちにとって実りあるものになることを願っている状態だ。来年1月にカメルーンで始まるアフリカ・ネイションズカップの頃には、チームの攻撃陣を維持し、できれば強化する必要があることにもクラブは気がついている。この大会で選手陣が欠場する試合はリーグ戦2試合だけに限られていたとしても、この期間の戦力維持は重要なのだ。

さて、その時期がチャンスとなるかもしれない。集中してやるべきことをこなし、ローンで学んだことを見せるべきだ。マージーサイドでの成功に飢えているということを。

彼自身は昨年夏にそのようなアピールができたと思っていた。昨シーズンは幸先よくスタートを切っていたのだ。ウェンブリーで行われたコミュニティ・シールドではゴールを決めたし、アウェーのリンカンで行われたリーグカップでは2ゴールを記録した。しかし、彼がさまよっているトンネルはもう少しだけ長いものだった。

コーチングスタッフの間では、南野が「素晴らしい選手」であるということに疑いはない。だが同時に、プレミアリーグで活躍していく上で改善が必要なことも明らかだ。

中盤深くに落ちてきてパスを繋ごうとする動きや、プレッシャーを先導してディフェンダーにミスを誘発させる働きなどには、ザルツブルク戦でリヴァプールの選手たちが驚かされた才能を垣間見ることはできる。だが、それ以上に試合中にフラフラと中に外にとポジションをさまよう様子が気がかりだ。フィジカルや持久力にも疑問符がつく。

■奇跡の復活を狙う

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2020年1月、南野はたった725万ユーロ(約9億3600万円)の移籍金でレッズへと加入した。当時、スポーツダイレクターのマイケル・エドワーズたちが他クラブを差し置いて獲得できたことに大喜びしていた。実際、コロナ禍の前まで南野には移籍金の3倍の価値があると考えられていた。

だが、それだけの価値に見合うものはイングランドではほとんど見せられていない。全コンペティションで、レッズで先発した試合はたったの12試合。リーグ戦に限ればわずか4試合しかない。

そして、難しい要因のひとつに挙げられるのが、イングランドに来た時期があまりよくなかったということだ。

英国で過ごした18か月のほとんどはロックダウンに近い状態で過ごさねばならなかった。新生活や新たな文化に触れ、新たな言語を学びながら新たな人間関係を作ることは時期が良くても簡単なことではない。マスクをしてソーシャル・ディスタンスを保ちながら過ごす不確かな世の中ではなおさらのことだ。

期限付き移籍でリヴァプールを離れた選手がファーストチームでレギュラーに返り咲いた例はほとんどない。一時的な移籍というのはいつだって永久のお別れの序章なのだ。そう言う人はたくさんいるはずだ。

だが、オリジは過去に復活したことがあり、ナサニエル・フィリップスとリース・ウィリアムズは昨シーズン、極端な状況ではあったがこの流れに逆らった。今回このチャレンジに挑むのが南野拓実というわけだ。

正直に言えば非常に大きなハードルになりそうだが、これまでも奇跡は起こってきた。アンフィールドの情報筋の言葉を引用するなら、南野は「完璧な契約」だったのだから。

タクミ、君の本当の力を見せてくれ。

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