■魔法の日にはならず
レアル・マドリーを打ち破る……。それはスペインのどんなチームにとっても、形式上は“ノンオフィシャル”ながら一つの目標として掲げていることである。白いチームを相手取ってつかむ勝利は大歓喜を生み出し、凡庸なシーズンを正当化するどころか、素晴らしいシーズンに変えてしまうほどだ。別にトロフィーを掲げるわけではなくとも、歴史的に金満な権威ある存在を下した夜は、決して忘れない魔法の日として、ずっと記憶に残り続ける。
今回はビジャレアルが、そんな魔法の日を迎えるように思えた。マドリーにはカリム・ベンゼマ、セルヒオ・ラモス、カセミロなど多くの離脱者が出ていたし、素晴らしい出だしを見せた黄色いチームにとっては、今季に何か大きなことを成し遂げられることを証明する一戦のはずだった。が、実際はそうならず、感覚的にはマドリーの息の根を止め損なった試合だった。やはり、フットボールというものは予想や計算の通りにはいかない。
ビジャレアルを率いるウナイ・エメリは、成功を手にするための方法をすでにつかんでいる。見事なボールタッチを見せる選手たちでもってボールを保持し、流麗なパス回しから相手を崩す……。今季はそうやって結果を手にしてきたわけだが、マドリー戦では開始直後にマリアーノの先制点を許して、いきなりプランが狂った。以降、前半はマヌ・トリゲロス、モイ・ゴメス、ダニ・パレホとプレースタイルの鍵を握る選手たちの動きが鈍くなり、パコ・アルカセル不在で最も決定的な選手であるジェラール・モレノは迷子になってしまった。
それでも後半、状況は変化する。マドリーはマリアーノが手にしたゴールのみで生きようとしてチャンスらしいチャンスはほとんどつくれず、一方のビジャレアルは選手交代から勢いづいた。サムエル・チュクウェゼがチームに必要だったスピードと突破力をもたらしてPKを誘発し、キッカーのG・モレノがスコアをタイに戻す。ビジャレアルはそのほか4回は決定機を迎えて試合をひっくり返す寸前までいった。が、この日は魔法の日にならず、マドリーに勝ち点1を与えてしまっている。
■才能に疑いの余地はないが…
(C)MutsuFOTOGRAFIAさて、久保建英はどうだったのか? 期待されていたような存在感は放てなかった。試合終了の5分前からの出場では、致し方ないことだろう。それでも一度ペナルティーエリア内左でボールを持つ場面があったが、GKティボー・クルトワを前に判断力を欠いてしまった。
現状において、ラ・リーガで久保がスタメンを張ることは難しいと言わざるを得ない。エメリがシステムを4-4-2(4-2-3-1)から4-3-3に変更して、より難しさが増している。久保は中盤の3枚に数えられておらず、前線3枚にしてもアルカセル、G・モレノがアンタッチャブルとして君臨し、チュクウェゼとモイ・ゴメスと出場機会を争わなければならならない。そして攻守両面で活躍するモイ・ゴメスをあえて外す理由は見当たらず、起爆剤にはチュクウェゼがいる。
マドリーに所属からレンタル中の久保がビジャレアル最注目選手であることは、日本でもスペインでも変わらず、エメリの起用法に不満を抱える人は少なくない。というより、ビジャレアルのサポーター以外はほとんどがそうだろう。だが19歳の久保はまだ成長途上の選手であり、スタメンを張る選手たちと比べると、やはり見劣りしてしまう。個人技やセンスは見劣りするどころか群を抜いているが、守備と攻撃の構築における判断はまだまだ磨かなければならない。
このマドリー戦でもエメリの選手交代は当たっていたし、久保が早めに出場するべきだったかを論じる必要はなかった。早めに出場したとして、無謀な仕掛けなどで攻守にリスクを背負う可能性だって拭えない。「ドリブル突破を見せろ」「アシストしろ」「ゴールを決めろ」「今すぐにでも結果を手にしなけりゃ、もう未来はないぞ」と叫ばれるのもけっこうなことだが、マドリーのクラブ上層部はともかく、ジネディーヌ・ジダンらコーチングスタッフが期待している成長は、そうした点ではないだろう。
ラ・リーガと比べてレベルが劣るヨーロッパリーグのグループステージでレギュラーの座を確保する久保は、エメリの要求に徐々に応えていくことで、ラ・リーガでも出場機会を増やしていくはずだ。私たちは落ち着き払いながら待たなければならない。彼が魔法の日を創出できるような才能の持ち主であることに、疑いの余地はないのだから。
文=ビクトール・フランク/スペイン『オンダ・セロ』『マルカ』ビジャレアル番(ツイッター:@VictorFranch)
翻訳=江間慎一郎(ツイッター:@ema1108madrid)
▶ラ・リーガ観るならDAZNで。1ヶ月間無料トライアルを今すぐ始めよう
【関連記事】




