■低調な船出
今夏7300万ポンド(約111億円)を支払いFWジェイドン・サンチョを獲得したのは、ゴール、アシスト、天賦の才が約束されていたからだった。オーレ・グンナー・スールシャール監督は、「オールド・トラッフォードは、彼がまだ開花させていない才能を発揮させ、最高レベルで活躍するために必要な環境を提供するつもりだ」と宣言していた。
確かに、まだマンチェスター・ユナイテッドでのキャリアは始まったばかり。だが、これまでの6試合で、その約束は果たされていないと言っていいだろう。支払った移籍金を考えれば、当然のように疑問を持たれても致し方ない。
ウェストハム戦後、辛口で話題のOBロイ・キーンは「問題ない。まだこのクラブ来て2カ月くらいだろ? まだ役割を学んでいる最中だし、大きな期待を背負う選手だ。新しいクラブでいきなりスターにはなれないし、チャンスを与えようじゃないか」と珍しく擁護の姿勢を見せた。スールシャールも交代出場を「最適な選択」とし、後半20分で与えた影響に満足感を示していた。
だが、チャンピオンズリーグのヤング・ボーイズ戦のハーフタイム前、アーロン・ワン=ビサカが退場になった際、真っ先に交代させられたのはサンチョだった。ユナイテッドでの最初の6試合で、シュートはたったの2本(ニューカッスル戦のみ)。チャンスクリエイトも3度のみで、もちろんゴールもアシストもない。
やや追い詰められているのは確かだろう。EURO2020後の休暇を経て8月にようやくキャリントンへ到着したが、病気のために最後のトレーニングキャンプを欠席。プレシーズンを満足に過ごせず、新チームへの融合やスールシャールの要求に応えることができなかった。
■C・ロナウドの存在
Getty/Goalそして、クリスティアーノ・ロナウドの獲得である。
C・ロナウドというレジェンドの復帰は、サンチョのような選手にとっては「祝福」であり、同時に「呪い」でもある。
彼の帰還がクラブ全体にもたらす意味は計り知れない。曜日を問わず、マンチェスター市内のあちこちに彼のスカーフが売られている。スーパースターの古巣復帰に、街全体がいまだ熱狂ムードだ。
C・ロナウドを中心としたこの熱狂は、サンチョへのプレッシャーを軽減させるものでもある。このポルトガル代表がファンやメディアの注目を浴び続けている間、サンチョは脚光を浴びることなく、静かにチームに溶け込むチャンスが与えられるはずだ。
だが同時に、C・ロナウドの存在がチームの他の攻撃陣に与えるマイナス面の影響もある。ほとんどの試合で先発が約束される彼によって、サンチョがどのように攻撃に組み込まれていくかは気になるところだ。C・ロナウドに加え、メイソン・グリーンウッドの活躍を考えれば、サンチョがすぐにレギュラーの座を掴むとは思えない。
■昨季の再現を果たせるか?
スールシャールはサンチョについて「常に学び続けている。プレミアリーグを学び、もちろんチャンピオンズリーグも学んでいる。まだ21歳の若者だし、これからもっと良くなっていくだろう」と期待を込めた。
そしてスールシャールやファンにとって朗報なのは、サンチョがシーズン前半の不調に絶え、後半戦に最高のフォームを取り戻すという経験をすでにしていること。昨シーズン、ドルトムントでのブンデスリーガ開幕11試合で全く結果を残せず、シーズン初ゴールは1月に入ってからだった。だが、終わってみれば公式戦全体で16ゴール、20アシスト。文句なしの大活躍だろう。
確かに、平均して67分毎に1ゴールに絡んでいた2019-20シーズンには及ばなかった。だが、昨シーズンの成績も十分に誇れるもの。再現できれば、スールシャールも大満足のはずだ。
今のところ、サンチョはC・ロナウドを中心とするサーカスの影で、静かに自身と向き合うことができている。それがどれほど続いていくかはわからない。だが、自身のことだけに集中し続けることができるのであれば、その価値を証明する日はすぐにやってくるだろう。
文=シャーロット・ドゥンカー/『Goal』マンチェスター・ユナイテッド番記者


