パリ・サンジェルマン(PSG)対レアル・マドリーによるチャンピオンズリーグ・ラウンド16第2レグは、レアルが2-1で勝利して、総計5-2で準々決勝進出を決めた。
この結果は、サプライズでもなんでもなく、いたって順当だった。
■見えた「経験の差」
この試合でレアルは、ファーストレグで3-1というアドバンテージを得ている彼らがやるべきことをきっちりやり、その成果を得た。
ディフェンスでは相手のスペースを徹底的に潰し、攻撃に転換したときも、むやみに人数をかけて上がることはせずに、絶好のチャンスを待つ。
そうして後半開始6分という絶妙な時間に先制点を奪った。
この瞬間、『2点とれば勝ち抜けられる』はずだったPSGの勝算が、『4点とらないと勝てない』ものへと一転した。
それがどれほど厳しいことかは、前半、レアルの的確な守備にからめとられてほとんどシュートチャンスを得られなかった彼ら自身が痛感していたはずだ。
1戦目に関しては、ジオバンニ・ロ・チェルソが務めたアンカーのポジションなど、PSGには目立った「穴」もあったが、この2戦目の敗戦に関しては、戦犯が誰かというよりも、総合力としてレアルに及ばなかったという印象だった。
繰り返し聞かれるのは「経験の差」という決まり文句だが、具体的には、たとえばゲーム上のことでは、43分にキリアン・ムバッペが右ポスト付近で得たシュートシーン。彼はGKケイロール・ナバスの正面に蹴り込んでしまったが、ゴール前に詰めていたエディンソン・カバーニへのパスか、自らシュートか、という微妙なコースに蹴り入れてセカンドチャンスを誘発するといった別のオプションもあったように感じた。
ムバッペは19歳という年齢以上の逸材だが、ここで先制していたら試合の行方は変わっていたかもしれない、というくらいの絶対的なチャンスで、もう一歩先の判断ができたかどうかはやはり経験値か。
そして66分のマルコ・ヴェッラッティの退場。前半すでにイエローを受けていた彼は、相手の執拗なチャージをコールしない審判へ苦情を申し立てて2枚目のイエロー、すなわちレッドカードをゲットしてしまった。
ヴェッラッティの才能は誰もが認めるところで、この試合でも後方からアンヘル・ディ・マリアにピンポイントのロングクロスを供給するなど、チャンスメイカーになれるのは彼をおいてない!という存在であったから、彼の退場は頭数が1人減る以上のダメージをチームに与えた。
彼の才能を高く評価してファーストチームに定着させたのはかつての指揮官カルロ・アンチェロッティだが、この知将は同時にヴェッラッティの愚行を常に厳しく律していた。その甲斐あって大人になったと思っていたら、こんな大事な試合でやらかしてしまうとは。このあたりのメンタルコントロールも、経験の差だと言われる所以だろう。
そもそも、3-1というハンディがある状態から勝利を手にするには、まずもってミスは許されない。その上で、相手と同等なプレーをするのでは足りず、プラスαの勝ち要素がなければスコアで上回れない。
■エースがいれば…
では、ネイマールがいたらどうだったか?
明らかにレアルにとっては、とくにゴール前のディフェンスはより厳しくなっていただろう。
それにパリ側のビルドアップもこの試合以上に円滑だったはず。というのも、ネイマールが加入してからのPSGは、攻撃に転じたときに必ず一度はネイマールに預ける習性があるからだ。国内リーグでは彼なしでも十分勝てる力の差があるから、ネイマール頼みのプレーをしているわけではないのだが、彼が常にボールホルダーがパスを出したい場所に入ってきてくれるからそうなる。引いて見ていると「そこまでネイマールを経由しなくてもいいのでは?」と思うほどだが、ピッチ上ではネイマールはおそらく誰よりも、パスの出し手にとって心地よい出しどころになっている。結果パスまわしのテンポもよくなり、スピーディに押し上げられる。ディ・マリアも随所で好プレーはあったが、全体として良いリズムが生まれていなかった。
■メンタリティーも違いに
さらに、レアルが勝っていた最大のポイントは「自分たちにはやれるんだ、だってすでに経験済みだから」という根拠のある自信だ。
この点での勝負づけは前日から始まっていたように感じた。前日会見に登壇したセルヒオ・ラモスは、「とにかく明日の試合では、我々ができることを世界にお見せする」と言い放った。違う質問に対しても彼はふたたび、「良い部分も悪い部分も含めて、自分たちにできることを世界に披露するだけだ」と同じ答えを繰り返した。
自分たちに何ができるかということがわかっているからこそのこの発言。
一方のPSGは、国内では軽く5、6点を奪って相手をねじ伏せても、欧州の舞台で究極のせめぎ合いを制した経験には乏しいから、同じような発言はしたくても出てこない。
それどころかPSG軍団は、「2年連続でラウンド16敗退は許されない」、「オーナーはそのための補強にいくら使ったんだ」、という重圧を背負ってこのセカンドレグに臨まねばならなかった。
試合後レアルのジネディーヌ・ジダン監督は、「戦術的に狙いどおりのゲームができた。何よりそれを選手たちが実践してくれたことが素晴らしかった」と清々しい表情で話した。
対するPSGのウナイ・エメリ監督は、「レアルに敗れたことは残念ではないが、ラウンド16で敗退したことは残念だ。第1戦も80分までは我々が勝っていたのに…」とうつむいた。
しかしそのメンタリティでは一生優勝などできない。80分まで勝っていたことをアピールするより、にもかかわらず残りの10分で負かされたことを重要視すべきなのだから。
■厳しいパリの現状
レキップ紙が翌朝のヘッドラインに『すべてはこのためだったのか?』と掲げたように、地元メディアは、夏のメルカートでネイマールとムバッペ(今季はモナコからレンタル)合わせて4億ユーロもの莫大な投資をしたにもかかわらず16強止まりに終わったことを絶望的だと見ている。
そしてエメリ監督の在籍期間はそう長くは残されていないだろうと。
昨夏の時点でも「まずはネイマール、それでビッグイヤーに手が届かなければ次の夏にはさらに他のポジションを補強する」と言われていたから、今夏のメルカートで、PSGがどう動くかも見ものだ。
試合前日の会見で、一人のフランス人記者がジダン監督に、「あなたも98年のW杯で優勝しているように、フランスは代表では結果を出しているが、クラブではマルセイユ(1993年) 以外、成功していない。その理由はどこにあるのか?」という質問をぶつけた。
ジダン監督は、具体的な考えは挙げることができず、「たしかにおっしゃるとおりだ。しかしいずれチャンピオンズリーグに優勝するクラブは必ず現れると私は信じている」と希望を語るにとどまった。
しかしカタールがいくらお金を注いでPSGだけ強化しても、国内リーグの底上げがなければ難しいように思う。
数日前にPSGと2連戦し、2度とも3-0で敗れたマルセイユの酒井宏樹は、「いまのままならPSGとは10回やっても1回勝てるかどうか。それくらい差がある」と話していた。
マルセイユはリーグアンで2位争いをしているクラブなのに、まったく歯が立たないというくらいPSGは頭抜けている。しかしそのPSGも欧州ではここまであっさりやられてしまうのだ。
来季は新指揮官、それから新たな戦力を加えて、PSGは再挑戦するだろうが、カタールのお偉方が思っていた以上に、ビッグイヤーを手に入れるのは難しいことだったようだ。彼らの興味が続いているうちに念願の欧州制覇は叶うのか。
昨年の『カンプ・ノウの悲劇』に続く今回のレアルによるノックアウトで、PSGはまざまざと現実を見せつけられた。
取材・文=小川由紀子




