■もしも新ルールが適用されたら…
今週末(12日)のマンチェスター・ダービーを前に、少し想像してみた。もし仮に、今週末から新ルールが導入されたらどんな影響を及ぼすのか? 他の主要リーグにならって交代枠を「3」から「5」に増やすとか、そんな現実的なルールでは退屈なので、どうせなら斬新なルールがいい。例えば「対戦相手の選手を1名だけ出場停止にできる」なんてどうだろうか?
首位に立つトッテナムと対戦するチームは、FWハリー・ケインや得点ランク2位のFWソン・フンミン、もしくは中盤の屋台骨であるMFピエール・エミール・ホイビュルクのいずれかを選ぶはずだ。2位につけるリヴァプールは、これ以上彼らから戦力を奪うのは心苦しいが、恐らく自慢の3トップの一角が指名されるだろう。
このように、豊富なタレントを揃えるビッグクラブについては「出場停止の1名」を選びきれない。しかし今回のマンチェスター・ダービーに関しては、何の迷いもなく互いに司令塔を指名するはずだ。ユナイテッドのMFブルーノ・フェルナンデスと、シティのMFケヴィン・デ・ブライネだ。
スタイルこそ若干違うが、どちらも世界最高峰の司令塔だ。先日発表された国際サッカー歴史統計連盟(IFFHS)の「年間最優秀プレイメーカー」に選出されたのはベルギー代表MFの方だが、ブルーノだって負けていない。完璧な精度を誇るデ・ブライネと、創造性豊かなブルーノ。まるでピカソが描いた“キュビスム”前後の二作品のようなもので、比較のしようがない。
■圧倒的な“主人公気質”
Getty Images今季リーグ戦で7ゴール4アシストのブルーノは、ユナイテッドの“創造主”である。MFとしてリーグ最多の得点数に対し、アシスト数は全体で4位と少し物足りないが、アシストが成功する確率を示した「xA(アシスト期待値)」ではハリー・ケイン(10アシスト)やデ・ブライネ(6アシスト)を抑えて堂々の1位だ(※参照元『understat.com』)。
前節のウェスト・ハム戦(3-1)でも、DFハリー・マグワイアからの強烈な縦パスを涼しい顔でトラップしながら反転し、前線のマーカス・ラッシュフォードに決定的なパスを通しており、シュートがポストに嫌われてアシストが付かなかっただけ。事実、「好機につながるパス本数」を見るとブルーノは35本で、デ・ブルイネ(28本)を抑えてリーグ最多なのだ。(※参照元『WhoScored』)
では、そのブルーノが敵チームに指名されて欠場する場合、ユナイテッドはどうなるのか? はっきり言って、今のユナイテッドは機能しないだろう。これに関しては決して筆者の妄想ではなく、前節のウェスト・ハム戦で答えが出ている。
ユナイテッドは前節、ブルーノを温存してトップ下にオランダ代表MFドニー・ファン・デ・ベークを配置したが、前半は全く見せ場を作れずにチームもウェスト・ハムに圧倒された。それが後半開始時にファン・デ・ベークに代わってブルーノが投入されると、流れが一変したのだ。
攻撃が活性化されたユナイテッドは、1点のビハインドから3ゴールを奪って逆転勝利。シュート数だけを見ても劣勢だった前半の「3対12」とは対照的に、後半は「11対7」と形勢逆転。そして、45分ずつ出場した両選手の明暗もくっきり分かれた。
もちろん、ファン・デ・ベークが劣った選手であるというわけではない。だが自分の役割を意識して高い位置でパスを待ち続けたファン・デ・ベークにはボールが入らず、タッチ数もブルーノの半数程度に留まった(27対45)。対するブルーノはポジションに縛られることなく、好きな位置に移動してボールを拾うとチャンスを作り続けた。ファン・デ・ベークが1本も好機につながるパスを出せなかったのに対し、ブルーノは同じ45分間で8本も生み出した。
そして、その1本がポール・ポグバの同点ゴールをアシストした。味方のGKがクリアする際、ファン・デ・ベークならば一度リトリートを考えるところを、ブルーノは何食わぬ顔で前線に残って敵の最終ラインと潜んでいた。そしてボールが蹴られた瞬間に敵DFと入れ替わるように背後を取り、ボールを拾ってポグバのミドルシュートをお膳立てした。常に自分がボールに絡むという圧倒的な“主人公気質”が可能にしたプレーだ。
■リスク承知
Goal/Gettyもちろん、ファン・デ・ベークの方が優れている点もあった。それは「パス成功率」である。ファン・デ・ベークが驚異の95%を叩き出したのに対し、ブルーノは(データサイトによって異なるが)80%程度に留まったのだ。だが、実はこれもブルーノが唯一無二の存在である証拠である。
彼のパス成功率が低いのは、好機を作り出すためにリスクの高いパスを狙うからだ。ウェスト・ハム戦の45分間で、彼のパスが敵ゴール方向に進んだ総距離は「275m」で、これはファン・デ・ベークのなんと約9倍だ! いかにブルーノが前方へのパスを意識しているかが窺える。過去のインタビューで本人も自分を「リスクの選手」と呼び、オーレ・グンナー・スールシャール監督からリスクを取ることを許されていると証言している。(※参照元『FBREF』)
シンプルなプレーに徹する場面もあるが、少しでも好機を察すれば躊躇なくパスを狙う。だから味方も信じて走り出す。今年1月に加入して以降、公式戦39試合で37ゴールに関与(23得点14アシスト)して結果を残しているため、チームメイトからの信頼は高まる一方だ。
そのため、OBのリオ・ファーディナンドが『BT Sport』で「ブルーノを欠いたら最悪だ。彼がいなければ敵の守備を崩せない」と依存度を心配するほど、今のユナイテッドはブルーノ頼みとなっているのだ。
■世界最高の競演
(C)Getty Imagesシティも、ユナイテッドほどではないが司令塔への依存度が高い。プレミア過去4シーズンで3度も“アシスト王”に輝いているデ・ブルイネは、10~20mほどボールを運んでから決定的なパスやシュートを繰り出す。
運ぶだけなら同僚のMFイルカイ・ギュンドアンでもいいし、パス精度ならロドリも負けていない。それに運んでパスを出すだけなら、フィル・フォーデンやベルナルド・シウバに任せても良い。だが、スピードを落とさず、歩幅も調整せずに受け手のタイミングに合わせて両足から高精度のパスを配給できるのは、世界広しといえどもデ・ブライネくらいだ。
とりわけ今季は連戦による疲労の蓄積があるためハイプレスの強度が落ちており、必然的にショートカウンターが減ってロングカウンターが増える。そんな場面でスピード、精度、そしてタイミングを全て兼ね備えたデ・ブライネはシティにとって必要不可欠なのだ。
そう考えると、今回のマンチェスター・ダービーは世界屈指の司令塔の競演となる。もちろん、筆者のくだらない“妄想のルール”が適用されなければの話だが……。
文=田島大
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