Pep Guardiola Manchester City Champions League GFXGetty/Goal

グアルディオラ、10年ぶりにCL決勝の舞台へ。長旅は最高の形で成就するのか

10年前、バルセロナがマンチェスター・ユナイテッドを破り、ペップ・グアルディオラはモダンフットボール最高の頭脳としての地位を確立した。

彼のチームにはスタイルと哲学が常に根付いていた。天才リオネル・メッシ、想像力あふれるアンドレス・イニエスタ、ディフェンスの総大将ジェラール・ピケらがいたバルセロナは当時最強のチームと考えられていた。時には史上最強との呼び声まであった。

3年以内に2度のチャンピオンズリーグ(CL)優勝を果たしたことで、グアルディオラは史上最高の監督として君臨するリヴァプールのレジェンド、ボブ・ペイズリーの次点につけた。当時40歳の若さにしてそれだけの名声を手にしたグアルディオラが、ペイズリーを抜くのは時間の問題と思われた。

だが、そこからCL決勝に戻ってくるのに要した月日は10年。10年間、失望、不運、そして間違った判定がいくらかあったせいで、グアルディオラはクラブレベルでは最大の舞台から遠ざかってきたのだ。

■昨季の失望から…

man city lyon

昨シーズンの準々決勝でリヨンに敗戦を喫したことは最大の失望だっただろう。だが、グアルディオラは自身の追求するフットボール哲学を変えようとはせず、信じるよう選手たちを説得した。

リスボンで開催されたシーズン終盤のミニトーナメントで、シティは優勝候補の一角を占めていたが、結果的にリーグ・アンで7位に終わったチームに敗れてしまった。リヤド・マフレズは「本当に失望した。とても傷ついたし、辛かった」とそのときの思いを明かす。

首都にあるエスタディオ・ジョゼ・アルヴァラーデから海沿いの豪華なリゾートホテルまでの静かで惨めな旅の後、翌日選手たちは荷物をまとめ、ショックの冷めやらぬまま飛行機で世界を横断した。

グアルディオラはひどく落胆したが、同時に再び立ち上がることを決意し、敗戦の痛みをヨーロッパの頂点へ再び立つためのエネルギーに変えた。「もう一度やらなければならないと分かっていた」とマフレズは付け加えた。

「このチームなら準決勝や決勝にたどり着けると分かっていた。そして、今僕たちはそこにいるんだ」

土曜日に行われる決勝戦ではプレミアリーグのライバル、チェルシーと相まみえる。この一戦こそグアルディオラが2016年にエティハド・スタジアムに降り立った理由だ。4年間、フラストレーションはあったはずだが、それでもクラブの組織の誰もが彼ならファイナルへ進めると信じてやまなかった。

■初の国外挑戦は失敗に

Pep Guardiola Bayern München 30042016Getty Images

2011年、ウェンブリーでのマンチェスター・ユナイテッド戦での感動的な勝利以来、このカタルーニャ人監督が久しぶりにCL決勝に進出したということは、その間に務めたチームの質を考えれば驚くべきことだ。

2012年は準決勝でチェルシーに敗れ、戴冠叶わず。カンプ・ノウでの経験で疲れ切っていたグアルディオラはその後1年間の休養に入った。

2013-14シーズン、前シーズンに3冠を成し遂げていたバイエルンの新指揮官に就任。グアルディオラは3年の任期の間CLのトロフィーを掲げることができず、彼の努力を称賛する人もいなかった。バイエルンのレジェンドであるローター・マテウス氏もペップの挑戦は「失敗だった」と『シュポルト・ビルト』の中で断罪している。

「バルセロナには、DNA、つまり彼が推し進めたシステムがあった。ペップが成功したのはそこがバルセロナだったからだ。バイエルンとシティでは変化を求めて何度も何度も試したが、失敗を繰り返した」

「自分はもっと上手くできるといつでも示したがっていた。彼にはこう言いたいね。『ペップ、あなたは素晴らしい監督だ。だがシステムは変えないでほしい』。彼の振る舞いは自己中心的だった。厳しい言い方だけれど、それは彼がやってきたことのせいだ。バイエルンでは、ロベルト・レバンドフスキが左ウイングでプレーしなくてはいけなかったじゃないか。すべく上手くいかなかった」

2014年準決勝セカンドレグでレアル・マドリーに0-4と敗れたときも、1年後の同じステージのファーストレグでバルサに0-3と敗れたときも、同じくらい厳しい現実を突きつけられた。

結局、バイエルンは3年連続準決勝で涙をのんだ。その結果、多くの人がこう主張した。

「グアルディオラはブンデスリーガのタイトルを3回獲得したが、ドイツでの挑戦は失敗だったのではないか?」

バイエルンのロッカールームには「スパイ」がいたのではないか、という問題やメディカルスタッフとの軋轢があったのではないかという指摘もあった。

グアルディオラはドイツでの挑戦について「ベストを尽くした」としつつ、「私が失敗したと皆が思うのであれば、受け入れなければいけないね」と話している。

■シティでもCLでは苦戦の歴史

Llorente - Manchester City Tottenham

バイエルンを去り、2016年からグアルディオラはエティハド・スタジアムへと身を移した。

グアルディオラはプレミアリーグ5シーズンのうち3回優勝し、その過程で様々な記録を作った。同時にイングランドのサッカーを再定義するようなプレースタイルを実践してみせた。それでも、グアルディオラを欧州のコンペティションでの実績で評価しようという人はまだまだ多い。

バルサとバイエルンはヨーロッパで長い歴史を誇っている一方、シティのトップの座はつい最近手に入れたものだ。エリートクラブと肩を並べるためには、ペップはまずチームには経験が足りないと考えた。

実際、多くの人間がシティは大舞台での経験・冷静さが足りないと指摘していたが、それも徐々に改善。今季に関して言えば、シティはCLでは無敗なのだ。だが、成長が顕著に分かるようになった一方で、特に高額の費用をかけて集めたチームを持ちながらも成長速度が遅いと感じる者もいた。

「オーナーたちがチームに彼を招いたのは、あくまでもCL優勝のためだ」

『ザ・サン』でそう語るのは元ユナイテッドDFのリオ・ファーディナンドである。

「彼が加わる前にクラブはプレミアリーグを制していたから、他の誰もが成し遂げていないことを、彼はまだ成し遂げていない。自分を守らなくてはいけないし、彼は自分をCLの成績で評価しないでほしいと言うかもしれない。だが、彼はこの大会を制するために呼ばれたんだ。それを成し遂げなければ失敗だとは言わないよ。けれど、要求されていることは達成していない」

たとえばボルシア・ドルトムントやパリ・サンジェルマンに勝利したことなど、これまでのシーズンで褒められるべきことはたくさんある。だが、トロフィーを手にすることができなければグアルディオラは批判されるだろう。

2015-16シーズン、マヌエル・ペジェグリーニが率いたシティは準決勝まで勝ち進んだが、グアルディオラの1年目はアウェーゴールの差でモナコに敗れ、ベスト16で姿を消した。ディフェンスの脆さがキリアン・ムバッペのスピードとラダメル・ファルカオの経験によって露呈してしまったのだ。

Salah Ederson Liverpool Man City 04042018 Champions League QFAFP/Getty Images

シティは翌年次のラウンドまで駒を進めたが、アンフィールドではリヴァプールに一瞬で引き裂かれた。ファーストレグ、シティは19分で3ゴールを喫し、グアルディオラのミュンヘンでの最悪の瞬間を再現してしまった。

セカンドレグで逆転する望みは一瞬で打ち消された。主審のアントニオ・マテウ・ラオスはレロイ・サネのゴールを誤って取り消し、45分を残して3-2となるべきところを誤審で台無しにした。ちなみにこの主審は土曜日の決勝戦で笛を吹くことになっている。

2018-19シーズンはもっと残酷なものとなってしまった。トッテナム戦では、ラヒーム・スターリングがアディショナルタイムに勝ち越しゴールを奪ったかと思われたが、VAR判定で取り消しに。グアルディオラはテクニカルエリアで膝をつくしかなかった。

壊滅的な敗戦を喫し浮き足立ったチームをグアルディオラは再びまとめなければならなかった。書籍『Pep’s City: The Making of a Superteam』の中で、グアルディオラはトッテナムとのセカンドレグ後選手たちにこのように話したことを明かしている。

「私はお前たちを誇りに思っている。クソみたいな気持ちでいることも、フェアな判定じゃないと思っていることも分かっている。だが、いつからフットボールはフェアになった? 君たちを使わないと決めるとき、私はフェアじゃない。君たちをベンチに置こうとすれば、私は君たちをイラつかせる。ピッチに送り出せば、今度はお前たちは俺が間違っていると証明する。そうだろう?」

「我々が今やろうとしていることは、まさにそういうことだ。そういうものだと思って黙って飲み込むんだ。スパーズを倒そうと思ってできることをすべてやったが、あいつらは我々を倒した。この舞台から出ていくのは私たちだ」

「さあ、今度は私たちがやり残した全てのことのために戦わなきゃいけないんだ。立ち上がれ、そしてまだ勝ち取れるもののために戦うんだ」

■変わらぬスタイルで魅了させられるか

Guardiola Premier League trophy Manchester CityGetty

グアルディオラは退任するたびにチーム編成や戦術に対する批判にさらされてきた。過去10年以上に渡って、ビッグゲームの際にいじりすぎると批判されてきたし、確かに普通ではない決断があったことも間違いではない。

リヴァプール戦では、イルカイ・ギュンドアンを投入してMFを一人増やしたが、選手は陣形を乱し、普段の組み立てができなくなった。そして、リヨン戦では3バックに変更したのが裏目に出た。

度々、編成を変えてきたペップだが、アプローチを変えることはない。ハイリスクなハイラインを維持し、ネガティブなフットボールをすることはない。それは彼が常に最高であろうとするからだ。

つまり、トロフィーを獲得するだけではなく、体裁よく勝利することを求めている。彼が率いたバルサは世界中のサッカーファンを虜にする魔法をかけた。それはストックポートに住む11歳の少年も例外ではなかった。

Phil Foden Manchester City Premier League 2020-21Getty

「子供の頃バルセロナの試合を見ていたけれど、信じられないレベルだった。チーム作りや、ワンタッチ、ツータッチで動かすフットボールは見たことがなかったね」

シティのMFフィル・フォーデンはペップ率いるバルセロナに魅了された。そして、今ではマンチェスターでその指揮官から直接指導を受けている。

「いつか彼が僕の監督になるなんて思ってもみなかったな。とてもラッキーだと思うよ。彼と一緒に仕事ができて、毎日楽しい。僕が子供の頃、彼らは何年にも渡ってフットボールを支配して、すべてを勝ち取っていったのを覚えているよ」

「いつも父親とバルサを見ていて、こう思ったのを覚えているよ。『何てチームなんだ。何て監督がいるんだ!』ここでもあのフットボールを導入しようとしていたし、それは上手く行っている」

フォーデンは決勝戦の前日に21歳になる。少年時代からシティのファンだったフォーデンは、かつての自分がそうだったようにファンではない中立の立場の人に同様のインパクトを与えようとしているのだ。

■運命を天には任せない

GFX Pep Guardiola Thomas Tuchel Man City Chelsea UCLGetty/Goal

コロナ禍の中、痛みと悲しみに暮れてプレーし、結果として得た素晴らしいシーズンの成果も、ビッグイヤーを手にできなければ喜びは半減するだろう。シティでの功績を失いかねない試合に臨むグアルディオラだが、驚くほどリラックスしている。

50歳になったグアルディオラは選手たちを信頼しているが、一方で成功の保証は全くないことも理解している。

「CLの決勝にたどり着くのは簡単だと皆が思っているんだ。決勝にたどり着いたのは、私たちが4、5年でやってきたことの結果。毎日選手たちは継続してくれたし、それは並外れたことだ」

「ユナイテッドはジョン・テリーのスリップと最終盤のパフォーマンスでバイエルンに勝ったし、レアルは93分の得点でアトレティコ・マドリーに勝った」

「このコンペティションはとても難しいし、スターたちにある何かがそれに関わっているのだろう」

勝負には運が左右するものだが、グアルディオラ自身は運命を天に任せない。だからこそ彼はいるべき場所に戻ってこれたのだ。チャンピオンズリーグの決勝という舞台に。

10年という長旅を最高の形で終えられるのか。自らのスタイルによって突き進んできた道が正しかったのかどうか、29日に明らかとなる。

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