Pedri Spain

ペドリとは何者か?プレースタイル、イニエスタとの共通点を徹底分析|バルセロナ|スペイン代表

U-24日本代表は3日、オリンピック男子サッカー競技準決勝でU-24スペイン代表と対戦する。先に開催されたEURO2020で主力を張り、現代フットボール最先端を走る選手が多数在籍。フル代表にも引けを取らないメンバーだ。大会前から言われていたとおり「優勝候補筆頭」であることは間違いないだろう。

そんな彼らの中で、ピッチ上でひときわ目を引く選手がいる。ラ・リーガ挑戦1年目にしてバルセロナの中心的存在となり、スペイン代表でも絶対に欠かすことのできない18歳、ペドロ・ゴンザレス・ロペス。通称ペドリだ。

スペイン国内でも期待を一身に背負う彼だが、ではなぜピッチ上で圧倒的な存在感を示しているのだろうか? そのプレースタイルはどんなもので、最大の長所はどこにあるのだろうか? 今回はスペイン大手紙『as』の戦術分析を担当するハビ・シジェス氏に、ペドリのプレーを紐解いてもらった。

文= ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間 慎一郎

■歴史に名を刻む男

内輪揉めばかりしていて皆の意見が一致することのないスペインで、もしかしたらペドリだけが同じような気持ちを植え付けているのかもしれない。まだ18歳の彼は人々の歓呼の声を浴び続けながら、のしかかる期待という重圧に何食わぬ顔をしている。これだけ若く、エリートの世界に飛び込んで1年目だというのに、バルセロナとスペイン代表の根幹になってしまったテネリフェ出身MFは、長きにわたるフットボール史において、ほんのわずかしか到達できなかった深さで名を刻むことになるのだろう。

遠い未来ではなく過去と現在に目を向ければ、そこにあるのは最高峰となる試合の山である。ペドリは次の日本戦が2020-21シーズン(もう2021-22シーズンとも言えるが……)に臨む72試合目で、ブルーノ・フェルナンデス(マンチェスター・ユナイテッド&ポルトガル代表)と並んで欧州で最も試合をこなした選手となるのだから。ラス・パルマスの下部組織出身で、誰よりもバルセロナのスタイルを自分の物にしてしまった彼が、たった1シーズンでどれだけの飛躍を果たしてしまったのかがうかがえる。

本当は、東京に赴かなくてもよかった。バルセロナはもちろん五輪参加に否定的だったが、フットボールを取り上げられることを嫌った選手本人の決断を尊重した。ペドリはいつだってボールと一緒にいることを望み、自分とボールの間にある神秘性すべてを解き明かそうとしている(ほかの選手からすれば、まるで一トンの塩を舐め切る作業にもかかわらず)。だからこそ彼のフットボールは、ひとりでに生まれたかのように自然なのだろう。

■なぜボールを取られないのか?

Pedri Gonzalez España SpainGetty Images

バルセロナ、スペインが使用する1-4-3-3で左インサイドハーフに位置するペドリは、ボールだけでなくスペース(自分のものでもチームメートのものでも)をも巧みに扱い、すでに完熟したトップ・オブ・トップの選手のように優位な状況を生み出せる。相手チームの監視を18歳とは思えぬ戦術理解力でもってかいくぐれるのだ。ボールを受けるのはDFとMFのライン間におけるボランチの背後やアンカーの横に空いたスペースで、開くのか中に絞るのかをいつも適切に判断する。このスペースの利用の仕方に加わるのが、ボールを受けてから前を向く技術である。たとえ焦った相手が彼のことを潰そうとしても、その頭の中にはどの方向に、どうやって回転すればいいのかが予め描かれている。だから相手を背負ってプレーする光景は滅多に見られない。ボールを受ける前にその体はすでに回転を始めており、背後から襲ってくる相手は自分の背後を取られている。

至極単純に言えば、彼は相手と自分のものにしたボールとの距離を取るのが圧倒的にうまく、そこからチームに流れるような攻撃を実現させる。チャビ・エルナンデスが、かつてそうしていたように。アンドレス・イニエスタが、今なおそうしているように。東京五輪に臨むスペインでもペドリの機能は変わらず、日本は可能な限りコンパクトにまとまってスペースをなくさなければならない。遠藤航がいかにペドリのプレーを打ち消す仕事ができるかが、試合の行方を左右しそうだ。

■ポジショナルプレーの体現者

Xavi Andres Iniesta BarcelonaGetty Images

ペドリはピッチ上で起こっていることを見事に解釈するがゆえに、その技術を集団のために供することができる。リオネル・メッシ、セルヒオ・ブスケツ、ジョルディ・アルバ、アントワーヌ・グリーズマン、ダニ・オルモらと分かり合えているように見えるのは、決して偶然ではない。彼はポジショナルプレーの体現者であり、意図したポジショニング、意図したところでの三角形のパス回しによって優位性を生み出す術を理解している。個人主義に走ることなく、自分を輝かせる前にチームメートたちを見るのがペドリであり、その存在だけでチームのパス回しのクオリティーは飛躍的に向上するのだ。後方で攻撃を組み立てるときにも、前方で縦に行くことを意識すべきときにも、やるべきことを瞬時に推し量ることができる。とりわけ前方でのプレーで効果を発揮することだが、彼は壁パスのスペシャリストでもあり、最善のタイミングでそれを仕掛けて攻撃に継続性とスピードを与えられる。

センターバックとサイドバックの間を通すことで最終ラインに亀裂を入れるスルーパスは、ペドリという選手のクラスをはっきりと表すものだろう。バルセロナではジョルディ・アルバ、東京五輪ではフアン・ミランダが、そのクオリティーの恩恵を受けている。前述したように、まずチームメートの動きを見るペドリは、彼らがそこを突破するための動き出しに常に気を配っており、日本の「おもてなし」にも引けを取らない完璧なスピードと距離のパスを出していく。加えて、プレーサイドを変えるパスの質も五輪の試合をこなす毎に向上しており、プレーリズムを急激に変化させて自ら相手のラインを突破することも可能と、スペースを与えてしまえばその選択肢の多さからまるで手をつけられない。スペインのフル代表を率いるルイス・エンリケが「ペドリはイニエスタが18歳の頃にできなかったことをやってのけている。規格外だ」と語っていたのは、お世辞でも何でもはない。

ペドリはこれらすべての長所以外に、フィジカルもある。外見上は明らかに線が細いが、しかし実際は強靭であり、意思の強さも凄まじい。労力を惜しむことなくアップダウンを繰り返して、誰よりも積極的にプレスを仕掛ける様は圧巻そのもの。前方でビルドアップを防いだかと思えば、チームが後退したときにはその視野の広さで守備の薄いところに厚みを加える。EURO2020で彼よりも長い距離を走ったのは1試合多く戦ったジョルジーニョ(イタリア)、カルヴァン・フィリップス(イングランド)の2人以外いなかった。「学校に通っていた頃はいつも長距離走に取り組んでいた。自分の強みはスピードじゃなかったからね」と話していたペドリは、フットボール界のマラソンランナーとも言えそうだ。五輪ではさすがに戦いっぱなし、走りっぱなしだった影響も見られるが、それでもキーパス4本、パス成功率88%、1試合平均のボールタッチ数76本と、存在感は失われていない。

■“選ばれし者”

Pedri Spain 2020-21Getty Images

ペドリのパフォーマンスは信じられないほど安定しており、ゴールやアシストなど数字的な結果を残せていなくても何ら問題はない。が、欲を言えば、もう少しだけフィニッシュに絡む場面が増えてもいいだろう。例えば、EUROではフィニッシュフェーズに絡み続けながらも、シュートを1本も打たずじまいだった。

本人も認めるところだが、そのシュート技術はまだ改善の余地があり、現在は威力もコースも不十分だ。しかし批評家が、その唯一とも言える不完全な部分から彼を貶めたり、過大評価だと訴えたりするのはナンセンスである。それは「数字で目立ってなんぼ」を基にした、うさんくさい商業的な観点からの物言いであり、フットボールの本質を損なう。チャビやイニエスタにも起こったことだった。

そう、チャビやイニエスタがそうであったように、ペドリはこれから一時代を築く選手になり得る。EURO2008、南アフリカ・ワールドカップ、EURO2012の三連覇を果たして世界中を魅了したスペイン代表のフットボールを、その小さな体に内在させているのだから。

EURO2020では準決勝でイタリアに敗れて涙を流した若者は、今度は東京を舞台に、スペインの代表として初の成功をつかむチャンスを手にしている。この大会が報いの瞬間になるのかは分からないが、いずれにしろ彼が“選ばれし者”であることは変わらない。ラス・パルマス監督ぺぺ・メルは、バルセロナ加入前の今よりも若いペドリを目にしてこう語った。

「ほら、あそこに億万長者がいるぞ。あいつ自身はまだ知らないんだ」

その言葉は、変わることのない真実だ。

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