■戦いながら調子を上げたスペイン
「グループ分けが決まったときから、順当にいけば準決勝の相手はスペインだと思っていた」
MF久保建英の言葉だが、そう思っていたのは久保だけではないだろう(少なくとも、私はそう思っていた)。準決勝は、勝てば金銀いずれかのメダル獲得が決まるメダルマッチ。その相手が最高のチームなのだから、これ以上の舞台はない。
スペインはMFペドリなど、ユーロの登録メンバー6名を含んだ豪華な陣容を整えて大会に臨んだ。事前キャンプでは暑熱対策に取り組み、コンディションは大会を戦いながら上げていくイメージで大会に入ったのだろう。想定外の負傷者も出てしまってはいるが、随所で地力の高さを見せ付けている。
(C)Getty images準々決勝のU-24コートジボワール代表戦。スペインを食うならこのチームではないかと思われていたアフリカの雄に対し、後半アディショナルタイムに失点するという絶体絶命の危機に陥るも、そこから奇跡的な同点ゴール、そして延長でのゴールラッシュへと繋げてみせるあたり、単に上手いだけではない、スピリットとタフネスも備えたチームであることを見せ付けた。
オーバーエイジ(OA)のFWマルコ・アセンシオが「個人的にも日本との試合より良くなってきていると思うし、チームとしても大会を通して良くなってきている」と語るように、日本との試合のスペインとはひと味違うと思っていたほうがいいだろう。また初戦で負傷していた同じくOAのMFダニ・セバージョスはこの準決勝を目指して復帰に向けたプログラムをこなしていたそうで、ルイス・デ・ラ・フエンテ監督も出場の可能性を否定していない。
■準々決勝の苦戦を経てより団結
(C)Getty images日本の選手にスペインの印象を聞いてみても、「個々の力がある選手がいるのはもちろんのこと、チームとしての完成度が高い」(DF板倉滉)、「非常に洗練されたオーガナイズがあり、もちろん個人の能力も高く、チームとしてのレベルも高い。優勝候補と言われるようなチーム」(DF酒井宏樹)と絶賛の言葉が次々と出てくるような相手だ。
ただ、リスペクトは持っていても恐れている雰囲気はない。大会直前の試合で1-1のドロー、主力組がぶつかった前半は1-0と勝ち越していたという事実もある。あのときのスペインが本当のスペインでないということは皆が分かっているが、過剰に恐れる相手ではないことも肌感覚として持っている。そして何より選手たちが「チーム」としての成長に手応えを得ていることが大きい。
「この1ヶ月、嫌でもずっと一緒にいるので、お互いの特徴は今まで以上に理解しているし、プレーでも私生活でもいろいろな話をできている。本当にチームとして一つの方向によりまとまってきた」(MF三好康児)
「本当に終わりたくないというのが率直な思い。それくらい本当に良いチームだなと思います。オン・ザ・ピッチもそうだし、オフ・ザ・ピッチもそう。本当に全員が出て全員が活躍してほしいくらいに素晴らしい選手が揃っているし、素晴らしい準備をしている」(MF田中碧)
缶詰め生活を送るのはストレスに違いないが、同時に一体感が醸成されることにも繋がる。準々決勝は大苦戦となったものの、ああした苦しい流れから勝ち切る経験というのはチームの一体感をより強く生み出すもの。高校サッカー選手権などでもそうだが、大苦戦しながら勝ち切ったところからチームが一皮むけるというのもよくある話だ。試合後の帰りのバスの車内では歌声がやまなかったそうだが、短期決戦のトーナメントを勝ち切るために必要な勢いが生まれたようにも感じている。
■セットプレーもポイントの1つ
(C)GOALもちろん、繰り返しになるが、スペインは難敵である。勢いだけで勝てるなんてことは思っていない。冨安健洋の出場停止により板倉が先発CBを務めそうだが、まずここに関して大きな不安はないだろう。すでに2試合先発し、しかもそこで勝ち切った経験を持っているからだ。
気になるのは1トップの人選だ。グループステージから死力を尽くしてきたFW林大地が消耗しているようにも感じるので、FW上田綺世の先発もあるかもしれない。ただ、守備を考えれば林がベターではある。また奇策に近いが、超特急FW前田大然の先発もありではないかと感じている。当然ながらオーソドックスな選択は相手が疲れてきた後で投入する形で、これはこれで“効く”予感はある。ただ、スペイン相手に先手を取っていくなら、相手のビルドアップを壊しにいくプレッシングができる前田の先発での投入も選択肢だろう。
前回の対戦では日本のボール支配率を削られすぎたが、今回は前回と違って田中が先発するので、同じような展開にはならないはず。「粘り強く我慢強く戦う」(森保一監督)のは大前提ながら、積極的に相手の背後を突く仕掛けも出していきたい。
またもう一つポイントになりそうなのが、セットプレー。今大会の日本はPKを除いてセットプレーからのゴールがないが、本来は武器としている形がある。スペインもそこまで高さに特長があるチームでないので(もちろん、別に弱くもないが)、吉田麻也や板倉、遠藤航の頭から決勝点が生まれることも期待しておきたい。
決戦の地は埼玉スタジアム2002。因縁深い対戦相手との試合を前に、久保はこう語った。
「どう倒すかとかは、もうどうでもいいと思います。勝てばいいので。どんな戦い方になるか本当にわからないですけど、勝ちます。勝たせてください」
慣れ親しんだピッチの上で、最強の相手と最高の勝負を。チャレンジャーとして、いまチームが持っているすべてを叩きつけるのみである。
取材・文=川端暁彦
