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【徹底分析】スペイン一流分析官「森保は道を切り拓いた」「残るのは失望ではなく希望」。日本の勝負を紐解く

簡単に飲み込んで、消化してしまえる敗北など、どこにもない。決勝の一歩手前ならば、なおのことだ。しかし一過性の痛みが消えた後、日本に残るものは失望ではなく希望である。彼らはこの東京五輪で、間違いなく逞しくなった。

■前進

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今回のスペインとの試合では、これまで持ち得なかった戦術的個性を発揮して、どこまでも真剣に戦っていた。そう、それこそ日本が取り入れなくてはならなかったもので、ようやく実現を果たしたようだ。そうしたパフォーマンスは、これまでよりも美しくないし、決まりごとの中で自分たちを押し殺さなくてはならない。だが思い込みも含めた自己完結の強さではなく、相手と競い合う上での強さを手にすることができる。

日本とスペインの実力差は、まだ明らかに存在している。日本が世界トップクラスのチームと対等に渡り合える日は、押し付けがましい攻撃を実際に遂行してしまえる力を身に付けなければ、決してやって来ることはない。この試合でも、彼らの攻撃がスペインに本当の苦しみを味わわせるまでには至らなかった。しかし少なくとも、現在の日本の対戦相手は、どんなチームであっても必死に汗をかかなければ勝利まで届かない。森保一はこの東京五輪で、日本を前へと進ませ、世界のトップに追いつくための道を、確かに切り拓いたのだった。

■ピッチで何が起こったのか

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ネーム的に最も魅力的な選手たちを集めたスペインとの対戦で、日本は規律立った守備に専心。スペインが攻略を目論む中央のレーンでぶつかり合い、トランジションから脅威を与えようとした。しかし、すべてを上手くこなせたわけではない。とりわけ試合を通してそうプレーできず、何度も注意力散漫になってしまうのは、自分たちの不必要なフットボール・メモリーをいまだ消去できていないことを露呈している。いずれにしても、スペインの攻撃が日本の対応に苦しめられたことは間違いない。

森保は日本の守備ブロックをかなり下げてきた。ハイプレスを実行するのはリスタートのときに限られ、時折だがスペインの攻撃をサイドに追いやることに成功している。堂安律と旗手怜央が林大地に近づいてスペインの中央からのビルドアップを阻害。久保建英はメキシコ、フランス戦のように、アンカーのマルティン・スビメンディへのパスコースを塞いだ。さらにハイプレスが破られると、目を見張るダイナミズムとチームメートの効果的なサポートにより、極めて滑らかに後退していった。

しかし、日本がスペインをかき乱すために選択したプレーはハイプレスではない。森保にはボールポゼッションや中盤での主導権争いでスペインと競い合う気など、さらさらなかった。日本は1-4-4-2と1-4-5-1に可変する守備ブロックをペナルティーエリアの前に置いている。その狙いは中央のレーンを閉じて、ペドリ、ダニ・オルモに送られるパスを奪ってからカウンターを仕掛けること。120分間を通してよくやってはいたが、しかしそれだけ低い位置で守備をすればゴールへの思いをトランジションでつないでいくことは難しい。カウンターを仕掛けても、スビメンディ、エリック・ガルシア、パウ・トーレスの潰す守備によってボールを奪われるか、またはファウルによってプレーを切られた。

日本の守備が問題を抱えたのは、遠藤航と田中碧が自分たちのポジションから離れて、吉田麻也と板倉滉が警戒すべきラファ・ミルの使えるスペースを狭めなかったときだ。そのときにペドリ、オルモ、ミケル・メリノがDFとMFのライン間に姿を現し、余裕を持ちながらボールを扱えるエリック・ガルシアとパウ・トーレスから精度の高いパスを受けてしまえば危険な場面が生まれる。日本はダブルボランチがペドリらに背後を取られても、両サイドバックの酒井宏樹と中山雄太はマルク・ククレジャとミケル・オヤルサバルに付いていなければならないためにケアができない。こうして彼らの守備には綻びが生じ、谷晃生とラファ・ミルの1対1、取り消されたPKの場面が生まれている。

日本の落ち着きはククレジャのオーバーラップにも乱されている。堂安は彼の対応に手を焼き、酒井がサポートに入ってもクロスを防ぐためには数秒が足りなかった。ペナルティーエリアでクロスを待ち受けるのはラファ・ミルと、田中のマークをはがして飛び込んでくるミケル・メリノ。日本にとってはこれも危険な場面だったが、吉田がうまく処理していた。

なかなか点が取れないスペインの指揮官ルイス・デ・ラ・フエンテは、ブライアン・ヒルを招集メンバー外としたことを悔いていたかもしれない。1対1で最も突破力があるこのウィングは、今回の日本相手には90分、延長戦30分のどちらでもかなり効果的だったはずだ。ただ途中出場のカルロス・ソレールとハビ・プアードはブライアン・ヒルとはまた違う形、縦に行く意識とアグレッシブなドリブルでもって日本をさらに後退させた。マルコ・アセンシオにも同じようなプレーを期待されたが、重傷を負ってからの引っ込み思案は変わらず、それでも規格外のシュートでもってスペインに勝利をもたらしている。あのキックの技術は、エリートの世界であっても比較対象がほとんどいないほどに凄まじい。

アセンシオの強烈な左足でKOされてしまった日本は、攻撃面で断固たる決意を感じられず。この試合以前のようなトランジションを実行できずに、スペインの守備を苦しめることは最後までかなわなかった。それは今大会で最も輝いていた2選手が、物足りないパフォーマンスに終始してしまったことを意味する。堂安は素晴らしい笑顔以外にその存在をほとんど感じられず、久保は左サイドに開いてエリックとオスカル・ヒル(後にヘスス・バジェホ)の間を突く以外のプレーがいまいちだった。もちろん、責任は彼らだけにあるわけではない。田中と遠藤は敵陣でのプレーにほぼ参加せず、林は長い時間プレーの外に追いやられ、両サイドバックは上がってこなかった。

日本は右サイドバックを務めたバジェホの穴を突くこともできたはずだ。スペインの主将が穴となったのは彼のせいではなく、オヤルサバルとアセンシオのサポートが足りないためだった。相馬勇紀は彼とのデュエルに勝っていたし、中山に相対する選手がいないのも一度だけではなかった。日本は彼らの連係から、攻撃での数少ないニュース、前田大然のチーム最大の決定機が生まれている。

■「森保は声を発した」

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おそらく現在、日本の意気地のないような攻撃は理解し難いものとして扱われているだろう。しかし、そこにはれっきとした理由がある。この日本の代表チームは、形にこだわらず、勝利をつかむことだけに執着していた。彼らがフットボール界でもっと地位を上げるためには、確固たる戦術的な返答が必要だったが、ついに口を開いて声を発したのである。

森保はスペインと真っ向から勝負を挑むこと、自分たちの長所でもってぶつかり合うことをあきらめて(明らかに見極めて)、競争の中で最大限の成果を挙げることを選択した(前から後ろではなく、後ろから前に向かってチームを構築)。確かに今回のプレーぶりでは、0-1敗戦よりも良い結果には値しなかった。だがしかし、日本がこれまでとは異なる形で成功に近づいていたことは、決して否定してはならない。勝利には犠牲が付き物であり、日本は今まさに、その過程にいるのだ。

文= ハビ・シジェス(Javi Silles)/スペイン紙『as』試合分析担当
翻訳=江間 慎一郎

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