■スペイン戦のダメージは大きい
スペインに準決勝で敗れてから中2日。本気で金メダルを目指して死力を尽くしたゆえに、そのダメージは深刻だった。
出場停止のため、スタンドから声を張り上げ続けたDF冨安健洋は、準決勝翌日に仲間たちを思いやりつつ、シンプルな結論を述べた。
(C)Getty images「正直、切り替え切れていない選手もいると思うけれど、それでも試合はやってくる。気持ちもフィジカル面も結構限界に来ている選手も多いので、あとは気持ち。気持ちしかないと思う」
同じ冨安の言葉を借りれば、「メキシコ戦までに切り替えられればいい」という割り切りも大事だった。一口に「切り替えろ!」と言われて変われるものでもないのだからそこは当然。その上で、最後は個々人が自分自身をもう一度奮い立たせるしかない。そこはDF吉田麻也が「自分たちの本当の精神的な強さが試されている」と語ったとおりだ。
■より強健に生まれ変わったメキシコ
(C)Getty imagesただ、精神的な意味での“再点火”は勝利に向けて欠かせぬ条件ではあるものの、それだけで勝利がやって来るわけではない。相手はメキシコ。吉田が「このままじゃ終わらないチーム」と評するとおり、タフな選手をズラリと揃えた戦士の集団だ。この一戦に向けて、彼らも必ず“再点火”してくるだろう。精神的な支度を整えるのは、勝つための大前提に過ぎない。
今大会、メキシコはあらためてその地力の高さを証明した。日本には開始早々にMF久保建英に浴びた一撃が効いて敗れたものの、それ以外は一度も「負けて」いない。王国ブラジルには激闘を演じた末にPK戦で後れを取ったが、120分のスコアは0-0のまま動いていなかった。
MF田中碧は、そんな難敵をこのように評した。
「非常にタフで強いチーム。グループステージで一度は勝ちましたけど、本当に厳しい戦いの末に勝ったゲームでした。本当にサッカーをすごく知っていて、強さ、速さ、巧さがありながら相手を見て隙をついてくる。そういう“したたかさ”を持っているチームだと思います」
日本戦の反省を踏まえてメンバー構成と戦い方を修正し、より強健なチームに生まれ変わってもいる。右ウイングに入っていた“異能”ディエゴ・ライネスを切り札として温存し、勝負所で投入する戦いにシフトチェンジ。守備の弱みもあった10番の使いどころを変えてきている。中盤のキーマンであるMFルイス・ロモの起用法を含め、より厄介なチームに仕上がっている。
GK谷晃生が「これだけ試合をやっているので、そこは相手も研究し、いろいろ自分たちの弱点をついてくると思う」と言うように、一度日本が勝っているからこそ、入念な準備を整えてくるはず。谷は「うまくハマらない部分もあると思うけど、試合中に自分たちが改善していかないといけない」と語るように、試合序盤の奇襲攻撃から、中盤以降の変化への対応、そして終盤への試合運びまで、チームとしての対応力が問われることとなる。
■勝って笑って終わるための試合
(C)GOAL現実的な勝負のポイントを言えば、やはりセットプレーだろう。日本はここまでPKを除いてセットプレーから直接的に生まれたゴールはないが、2012年ロンドン大会の3位決定戦に深い悔いを残している“吉田の頭”には期待したい。
逆にグループステージのメキシコ戦での失点がセットプレーだったことを思えば、その再現は厳に避けたい。しょっぱいファウルをしてFKを与え、そこから放り込まれて失点……というような展開は特に厳禁だ。
その上で、やはり攻撃陣の“再点火”にも強く期待している。久保や堂安律の爆発も大いに楽しみだが、個人的にはFW登録でメンバー入りしている3名に期待したい。素晴らしいハードワークを見せ続ける林大地、いつでもどこでも逞しい超快足の前田大然、そして出場絶望と思われた負傷から必死に戻り、もがき苦しみながらゴールを目指し続けている上田綺世——。
イギリスのことわざによれば、“最後に笑う者が最もよく笑う”そうである。一発のゴールが人生を変えてくれるのがサッカーだ。東京五輪男子サッカーのブロンズメダルマッチは、最後に勝って笑って終わるための試合である。
取材・文=川端暁彦
