20210729_Sakai_Thauvin(C)Getty images

5年間の共闘を経て東京オリンピックで激突、そして異なる道へ。U-24日本代表DF酒井宏樹が「泣きそう」になった盟友トヴァンとの別れ

■ピッチ内外で快進撃を支える男

「彼は個での1対1はもちろん、1対2でも守れますという表現をしてくれている」

 森保一監督がそんな言葉で高く評価したのが、東京五輪代表の右翼を担う右SBの酒井宏樹だ。攻撃面での派手な仕事はフランス戦のゴールくらいだったので目立ちにくいが、日本の快進撃を支えていたのは間違いなく彼の守備力である。

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 逆サイドのDF中山雄太は「宏樹くんの人柄が良いので、僕もハーフタイムに『あそこどうしたらいいですか』と聞きに行っちゃう。隣の席なので(背番号が2と3のため)サラッと聞けますし、本当に真摯に答えてくれる」と完全に“酒井サイドバック塾”の門下生といった雰囲気になってきている。

 酒井本人も「オーバーエイジにはそういう責任がある」と自覚的で、オープンに若い選手たちの質問に答え、アドバイスを送り続けている。

 その酒井から教わったこととして中山が強調するのは「現代サッカーで俺たちサイドバックが対峙するのは相手の一番うまい選手である」ということ。そこを抑えられるかどうか。それもサイドハーフの助けを借りずに1対1で止め切れるかどうかで攻守の戦術的な幅がまるで違ってくるということだ。酒井で言えば、「(右サイドハーフの堂安)律の位置を下げない」ことを意識して実践し、そのおかげで堂安はパワーと意識を攻撃に傾けることが可能となっている。

 空中戦でも安定した対応能力を見せているが、精神面での落ち着きぶりも特筆モノで、逆境に動じず、順境で驕らないピッチ内外での立ち居振る舞いを含め、周囲へ好影響を与え続けている。

■運命的な邂逅から別れ

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 そんな男が、フランスとの第3戦終了後は、かなり感傷的になったようだ。

「抽選会でフランスと同じグループになって、オーバーエイジでフロリアン(・トヴァン)が選ばれて、すごくそれだけでも運命的なのに、まさか自分もゴールでとは思っていなかった。本当にサッカーの神様に感謝しています」

 酒井にとってフランスのFWフロリアン・トヴァンはマルセイユで5シーズンにわたって共闘してきた仲間だが、「ただの同僚ではない」と言う。

「試合終わったあとも喋っていて、あまり普段泣かないんですけど、すごく泣きそうで……」

 感慨深げにそう語った酒井は、こう続ける。

「彼がいなければ5年間もプレーすることはできなかったですし、何回『ありがとう』と言っても足りないくらいですけど、きっと思いは伝わったと思っています」

「ここ最近は毎日連絡を取っていた」という二人は試合後にフランス代表と日本代表のユニフォームを交換。2020-21シーズン終了後からはメキシコと日本へ旅立つ二人にとって、特別な試合として刻まれたようだ。

「僕らはマルセイユの経営が厳しい時からの関係だったので、二人でチームをよくしていったという自負はありましたし、僕とフロリアンともう1人のボランチ(マクシム・ロペス)の3人であれば、どんな相手でも崩せる。そう思える関係でした。フローが移籍を決断したというのは僕にとって大きなターニングポイントだったので、(浦和レッズへ)移籍した理由には、それもあります」

 フランスを代表する名門チームで共に戦い、汗を流し、涙も共有した二人は、東京五輪での運命的な邂逅を経て、またそれぞれの道を歩み出す。酒井にはまだ大きな仕事が残っているが、試合後はまだちょっとだけ感傷に浸りたい様子だったのも無理はない。

「この勝利はしっかりと味わいたいですね。……本当に親友とのお別れなので」

 感情を強くあらわにするタイプではないが、言葉に込めた思いから、友誼に厚く、人望も厚い男の一面が見え隠れした。

取材・文=川端暁彦

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