「東京五輪優勝」を掲げ、強化を進めるサッカーU-24日本代表は、3月26日と29日にSAISON CARD CUP 2021(国際親善試合)でU-24アルゼンチン代表と対戦した。南米王者相手に26日の第1戦では0-1と苦杯を喫したものの、29日の第2戦では3-0で完勝。コロナの影響によりオリンピックは1年延期となり、招集もままならない急造チーム。個々の選手たちはいかに"大人の選手“へと成長し、チームの進化を形作っているのか。文=川端暁彦/写真=新井賢一
■U-12からU-24に生き残ってきた選手たち
コロナ禍の中でついに実現した待望の国際試合、SAISON CARD CUP。U-24アルゼンチン代表との対戦を前に、トレーニングを見つめていた内山篤日本サッカー協会技術委員がこうつぶやいた。
「あいつら、本当に大人になったなあ」
ナショナルトレセンU-12に始まり、U-13・U-14の選手を対象にしたJFAエリートプログラム、そしてU-17〜U-20日本代表の監督としてこの世代を見てきた内山氏にしてみると、「ほとんどの選手を小中学生時代から知っている」ので、その変化もよくわかるのだ。
ヤンチャ坊主だった選手も経験を積んだ大人になった、あるいは「大人になった選手が、ここにいる」(内山)と言うべきなのかもしれない。若い選手ゆえの浮き沈みはあって当然だが、その上で一人のプレーヤーとして成熟したからこそ、地元開催の五輪を前にした代表チームの中に生き残っている。
U-24アルゼンチン代表との2試合は、そんな彼らの成熟を強く感じる機会となった。合宿合流早々から「チーム」としての姿勢を強調していたMF久保建英(ヘタフェ/スペイン)は、その一人だろう。
■久保建英と林大地は初対面
©Kenichi Arai「同じ相手にホームで連敗はあり得ない」(久保)
そんなチームスピリットをあらためて共有していたという第2戦、メンバーは9人が入れ替わり、久保が前線で組んだ相手は「完全な初対面だった」という代表初招集のFW林大地(サガン鳥栖)。やりにくさを感じても不思議はなかったが、林の「僕が前でガチャガチャやるので、(久保は)周りでウロチョロしておいてほしい」という言葉どおり、林の勢いとパワーを活かしながら守備も含めて連動して対応してみせた。
林の特長を把握して活かしたDF瀬古歩夢(セレッソ大阪)の先制点につながるロングフィードを含め、代表経験豊富な選手たちが、新顔の林に対して「こいつの個性を活かして勝ってやろう」という意識を持って試合に臨む様は、A代表の選手たちのようで、血気盛んな若造だった時代とは違う成熟を感じさせた。
キャプテンマークを巻いたMF板倉滉(フローニンゲン/オランダ)もその一人だろう。ボランチでコンビを組んだ「(田中)碧(川崎フロンターレ)の邪魔をしないように、相手の嫌がるポジションに入ることを意識した」と、攻撃ではオトリになって田中がボールをさばきやすい状況を作ることに徹し、守備では泥臭く対応。2つ年下の相棒・田中を立ててやりやすくすることに徹した黒子のお手本のような動きだった。
にもかかわらず、ヘディングシュート2発で試合の主役に躍り出たのには思わず笑ってしまったが、第1戦の反省を踏まえた相手のビルドアップ対策、ロングボールに対する守備も含め、ピッチで一番“大人”として機能していたのは間違いない。
■2019年には「壊れた試合」もあった
©Kenichi Arai2019年秋のコロンビア戦では、先制点を献上する流れから攻守がバラバラになって惨敗を喫した。それぞれが個性を出そうとする中でお互いの強みを消し合うようなシーンもあり、正直に言ってしまえば、酷い試合内容だった。
ただ、あれもまた良い薬になっていたのだろう。アルゼンチンとの第1戦でも先制点を奪われたところから一気に崩れるようなことはなかったし、「チームとして戦う」という極めてベーシックな(そして急造の代表チームで保つのは意外に難しい)部分は共有できていた。
久保も板倉も、あるいはDF菅原由勢(AZ/オランダ)や中山雄太(ズヴォレ/オランダ)といった選手たちも、A代表で感じたトレーニングに臨む姿勢、勝つための雰囲気作り、試合中の強いコミュニケーションといった部分に影響を受けたと語り、それを五輪世代に持ち込みたいと意欲的だったし、それをピッチ内で実践してくれたのは頼もしかった。
また第1戦で出番のなかった選手たちの輝きぶりを見れば、先発を外されても精神的に落ちることなく、しっかり第1戦の内容を踏まえて準備していたこともよくわかった。そうした点も“大人”のサッカー選手としてのありようだろう。試合後、「(出番がなくとも)ずっと準備してきた」と胸を張ったのはGK谷晃生(湘南ベルマーレ)だが、その言葉の妥当性はプレーによって示されていた。
代表チームには選手と選手の競争関係があり、共有できる時間は非常に短く、今は欧州各国でプレーする選手も多く、異なるサッカー文化の中でプレーしている選手がいるゆえの難しさも発生するようになった。「チーム」として機能するのは、言うほど簡単ではない。
そして、そのために必要なのは“大人”の選手たち。ここで言う“大人”というのは決して“大人しい”という意味ではない。サッカーに対して情熱的で、競争に打ち克っていくメンタリティを持ち、自分の意見を発信する強さと聞く耳の両方を持ちつつ、同時に「チームが勝つために何をすべきか」を考えて行動に移せる選手のこと。代表選手に求められるのはそうした資質であり、立ち居振る舞いだ。
■ここに、冨安、堂安、OA…が入ってくる
五輪まであと3カ月余りとなる中で迎えた久々の国際試合。しかも強豪を相手にした連戦の中で“大人”の選手たちが、チームとしての規律を保ちながら個性を活かし合って「2試合トータル3−1」(久保)で快勝。それも偶発的な勝ち方ではなく、確かな手応えをつかんだ上での勝利だった。
今回のメンバーにA代表の冨安健洋(ボローニャ/イタリア)やオーバーエイジの選手たち、そして負傷で参加できなかったMF堂安律(ビーレフェルト/ドイツ)やFW前田大然(横浜F・マリノス)といった選手たちもおり、個々の能力という点でもまだまだ上積みの余地はある。
メダルについて云々するのはまだ早い。ただ、東京五輪男子サッカー日本代表が「勝てる代表チーム」になっていく兆しは、少しばかり見えてきた。


