■選手招集時点で一歩リード
「しっかりと大会に向けて準備できていたチームが勝ち上がってきている」
反町康治技術委員長は、そんな言葉で五輪のグループステージを総括している。1年延期された東京五輪の男子サッカーは、準備する側として非常に難易度の高い大会だった。
FIFAの国際大会のように代表チーム側に明確に選手を拘束する国際ルールがないため(国内ルールで招集に応じる義務があるケースはある。たとえば日本ではJリーグ規約にある)、招集は個別交渉となる。また今大会はユーロ(欧州選手権)、コパ・アメリカ(南米選手権)、ゴールドカップ(北中米カリブ海選手権)と同一年開催となっており、選手本人に参加する意思がある場合でも招集が難しいケースが出てきていた。
(C)Getty images1年延期されたことで招集がより難しくなったケースも多くあっただろうから、かなりイレギュラーなケースだったことが想像される。その中で日本サッカー協会(JFA)は、かつての失敗も踏まえながら各クラブ、各選手に加えて仲介人ともコンタクトを取りながら準備を進めて、オーバーエイジ(OA)を含めてベストオーダーを揃えることに成功。まずこの段階で1歩リードを確保できていた。
「国として、協会として、メンバーをちゃんとしてきているところと、そうでないところの差があるのが現状。そうした中で勝ち上がってきたのは、スペインやブラジルに代表されるように、しっかり揃えてきたチーム」(反町委員長)
■事前の入念な暑熱対策
(C)Getty images日本にとっては、6月に2度の国際試合をマッチメークし、OAを加えたチームでの実戦機会を持てたのも大きなアドバンテージだった。そして、「日本の夏」を知っているか知らないという差も大きい。
日本はJISS(国立スポーツ科学センター)の力も借りながら、暑熱環境での連戦を想定して事前の準備を行ってきた。3年前に行われたインドネシアでのアジア競技大会でもデータを採りながらさまざまな暑熱対策をテストするなど、入念に準備を重ねている。その成果はあっただろう。
海外組が増えたことで、日本の夏への適応力が落ちてしまっている選手が増え、また彼らのほとんどがオフ明けで合流してくるという流れになったが、その状態からのコンディショニングも総じて成功。大会前日にDF冨安健洋が負傷してしまったのは大誤算だったが、その穴はDF板倉滉がしっかりと埋め、破綻を生じさせなかった。
絶対に欠かせないと思われていた守備の柱を欠きながら連勝できたあたりは、「誰が出ても問題なくプレーできる」と森保一監督が胸を張ったとおりである。
また開催国ながら強豪揃いのグループに入れられたというクジ運にこそ恵まれなかったものの、グループステージ3試合すべてが20時以降のキックオフになったという恩恵も少なからずあった。反町技術委員長もグループステージの試合を観ながら「20時開始の試合と17時開始の試合のクオリティの差」に言及していたとおり、最も暑さの厳しい時間に試合をせずに済んだのは、消耗を避けるという意味でポジティブだった。
■課題を共有するサイクル
(C)Getty images個々の試合について言えば、3連勝のうち最初の2勝は決して思ったように進んだゲームではない。ただ、DF酒井宏樹が「良い感じに課題が出ている」と独特の言い回しで語っていたように、変な慢心を生むことがなく、出た課題をチームとして共有し、次の試合に反映するという流れが生まれたことで、楽勝で進むよりもチーム力を高められた印象もある。
リードした試合のペースを落とす、クロージングするといった前2試合で出た課題を、フランスとの第3戦でしっかり反映し、消耗少なく時計の針を進めることができたのはその象徴的な事例だろう。
もちろん、快進撃のベースにあったのは日本の選手個々の地力であることは言うまでもない。世界大会初出場の選手たちから「緊張してしまった」という声も出る中で、事も無げにプレーする経験豊富な選手たちの存在は大きく、チームとしてうまくいかなかった時間帯も含め、致命的な破綻をさせなかった。
とはいえ、「(選手たちは)まだ何も為し遂げていないという雰囲気でしかない」とDF旗手怜央が語った通り、このチームの目標はベスト8入りではない。戦いはここからが本番。過信なく戦ってきたことが結果に繋がっているだけに、この気風を維持しながら最良のメダルを目指すこととなる。
取材・文=川端暁彦
