2017-10-06-japan-nagatomo

NZ戦で見えた可能性…日本代表左サイドの多彩なオプションとそれを支える“背番号5”の進化

アジア最終予選で左ウイングのレギュラーを務めてきた原口元気はこの日、左太もも裏を傷めているためベンチから試合を見守った。試合前日の練習後に「僕のポジションで出る選手の良いところ、うまくいったプレーをいろいろ勉強したい」と語った原口の目に、この日の左サイドはどう映ったのだろうか。

■左サイドの多彩なオプションと熾烈な定位置争い

ロシア・ワールドカップの出場権獲得から初の試合となった10月6日のニュージーランド戦。本大会に向けて「第三段階に入った」と強調するヴァイッド・ハリルホジッチ監督は今回のキリンチャレンジカップ2017で新戦力のテストを匂わせていたが、フタを開けてみれば、スタメンにおける新たな顔触れはセンターバックの槙野智章と左ウイングの武藤嘉紀にとどまった。

だが、それも当然のことだろう。新しいメンバーだらけになってしまえば、テストにはならない。確認したいのは、既存のメンバーの中で何ができるか――。槙野は吉田麻也と長友佑都の間でプレーすること、武藤も長友の前、大迫勇也の横でプレーすることに意味があった。

以下に続く

中でも興味深かったのが、前線の組み合わせだ。これまでは原口、本田圭佑、清武弘嗣と、左右のウイングにはいずれかにMFを置くことが多かったが、この日は大迫、久保裕也、そして武藤とストライカーが3人並んでゴールに迫った。

「監督から『なるべく外に張らないでくれ』、『裏に抜けてくれ』と言われていた」

そう明かしたのは、2015年11月のシンガポール戦以来、実に約2年ぶりのスタメンとなった武藤だ。10分に山口蛍のロングボールをジャンプしながら胸で落として大迫のシュートを導き、22分には香川真司のパスを受けてシュートを放った。サイドから内側に半円を描いて相手5バックの間を抜け出す動きも効果的だった。

武藤自身は「課題はゴール」と結果を残せなかったことを悔やんだが、センターフォワードを務めるマインツと異なるポジションにチャレンジしたことを考慮すれば、及第点のプレーだったと言えるだろう。

武藤が“強い動き”でゴール前に入っていくことが多かったためか、前半はどちらかと言うと右サイドからチャンスを作り、中央と左サイドがフィニッシュを狙うシーンが目についた。

そんな攻撃パターンがガラリと変わるのは70分、武藤に代わって乾貴士が左ウイングに入ってからだ。

「狭くなりがちだったので、コートを広めに使うこと、タメを作って(長友)佑都くんが上がりやすくなるようにすること、縦に仕掛けていくことを意識した」

その言葉どおり、乾が起点となって左サイドから押し込む機会が増えていく。そうした仕掛けの姿勢が実ったのは87分、乾が縦に抜けてクロスを入れると、ファーサイドで酒井宏樹がヘディングで折り返し、倉田秋が頭で押し込んで勝ち越しゴールをもぎ取った。

ワールドカップ出場を決めた8月31日のオーストラリア戦ではスタメンに名を連ねた乾だが、相手の疲労が濃くなる後半に“ジョーカー”としてピッチに送り出せば、その突破力がいっそう効果的になることを改めて感じさせるシーンだった。

そして、この日はケガの影響でベンチから戦況を見守った原口だが、攻守にわたるハードワークと積極的なドリブル突破でハリルジャパンの軸となる選手に成長した事実は変わらない。最終予選は彼の奮闘なしには考えられなかった。

■前線を支える“背番号5”の進化

「強豪相手でも、ある程度やれるんじゃないかっていう感覚がある」

左サイドからの崩しに自信をのぞかせたのは、左サイドバックの長友だ。

2017-10-06-japan-nagatomo

「もちろん、簡単なことではないですよ。相手がブラジルならダニエウ・アウベスとかとマッチアップするわけですから」と念を押すことを忘れなかったが、「武藤も、貴士も、原口も、勢いがあるし、運動量もある選手たち。チャンスは作れるんじゃないかと思っている」と、左サイドが秘めるポテンシャルについて力強く語った。

2011年からイタリアの名門インテルに所属し、至福の時も苦しい時期も経験してきた。過去2度のワールドカップ出場経験があり、自信を持って臨んだ前回のブラジル・ワールドカップでの惨敗で心に大きな傷を負ってもいる。その長友が世界をイメージして「やれるんじゃないか」と語っている。そこによほどの手応えと可能性を感じているのだろう。

見逃せないのは、長友が前半と後半でプレー内容を一変させていることだ。前半は武藤になるべく勝負させ、おとりになる動きで間接的にサポートした。一方、後半は乾にボールが渡ると近寄ってパス交換したり、絶妙なタイミングで追い越したりしてサイドをえぐった。

「前に入る選手のストロングポイントやタイプによって、自分のパフォーマンスは変えています」

かつては生かされてナンボの選手だったが、この4年間で周りを生かすプレーを磨き、パフォーマンスの引き出しや幅は確実に広がっている。そこに、左サイドの可能性に自信をのぞかせる理由もある。

「彼らを生かしながら、自分も生きる。そういう道を自分の中で見いだしていきたいと思っていて。ある程度、見いだせているんですけどね。まだまだ良くなると思います。今はボールを受けてプレーするのがすごく楽しい。勝負していくプレーだけじゃなくて、組み立ての部分から、いろんなプレーをしていくのが楽しいんです」

ハリルホジッチ監督は相手を綿密にスカウティングし、相手の良さを消しながら選手の特徴を生かすことに長ける指揮官。タイプの異なる3選手の成長、そして彼らの持ち味を引き出せることを証明した長友は心強い存在となったはずだ。

古くはオフトジャパンの『都並敏史、ラモス瑠偉、三浦知良』、あるいは加茂・岡田ジャパンの『相馬直樹、名波浩』、近年ではザックジャパンの『長友、遠藤保仁、香川』と、左サイドの崩しは日本代表において攻撃の生命線だった。6度目のワールドカップに臨む日本代表。その伝統はヨーロッパで揉まれてたくましさを増す3人の左ウインガーと、成熟度を増す歴戦の左サイドバックに受け継がれている。

文=飯尾篤史

広告