Neymar Brazil Last DanceGOAL

ネイマールの業績はカタールW杯次第。名声を取り戻すラストチャンス

8年前、フォルタレザのエスタディオ・カステロの芝生で、ネイマールはうつ伏せに横たわった。

このブラジル人アタッカーはひどい痛みにうめき声を上げた。コロンビア代表DFフアン・カミロ・スニガの非情な膝が背後からネイマールを破壊したのだ。

ホスト国のブラジルはW杯準々決勝で激闘を演じ、2-1とリード。だが、まだ4分を残しており、ネイマールは起き上がろうとした。プレー続行を求めたのだ。

マルセロは主張した。「待て、待て、動くな。ドクターが来るまで待つんだ!」それでもネイマールは起き上がろうとしたが、動くことができなかった。「脚の感覚がない」ネイマールは叫んだ。

マルセロは恐ろしくなり、すぐにメディカルチームに来るよう叫んだ。タッチラインが混乱する中、メディカルがあわててフィールドに駆けつけた。パニックが広まる中、ネイマールは結局ストレッチャーで運び出され、応急処置のためスタジアムの医療室に運ばれた。

ネイマールは痛みに苦しんでおり、医療チームは深刻なケガを疑っていた。フォルタレザのサン・カルロス病院に搬送されると、外には無事を願う人たちが集まり、状態を知りたがっていた。

Neymar Marcelo Brazil 2014 World Cup GFXGetty/GOAL

ブラジルは何とかコロンビアに勝利したが、タリスマンたるネイマール抜きでドイツとの準決勝を戦わなければならない可能性を明らかに恐れていた。

「問題ないらしい。決勝には戻ってこられるかもしれない」、「いや、彼のW杯はもう終わった。それどころか、車椅子人生を送るかもしれない」などと噂が出回り始めた。

その頃ネイマールは、数々の検査の結果を待っているところだった。ドクターが到着すると、そのうちの一人が話し始めた。「良いニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に聞きたいですか?」

ネイマールは「悪いニュース」を選んだ。「あなたのW杯はこれで終わりです」ドクターはそう告げた。

「それじゃ、良いニュースは?」ネイマールは良いニュースを信じようと問いかけた。

「また歩けるようになります。椎骨の骨折を負いましたが、もし右に2センチメートルずれていたら、麻痺が残っていたでしょう。そうなっていればキャリアは終わっていました」

ネイマールは救われたように思ったが、涙を抑えることはできなかった。ネイマールと恋人は数日間悲しみに暮れた。ブラジルをW杯優勝に導くという夢が負傷によって断たれ、心をかき乱された。

だが、2014年7月4日にネイマールが経験した肉体的・精神的苦痛は、フィールド上での最悪の夜にランクインしないというのだから驚きだ。

トップは、4年後にブラジル代表が準々決勝でベルギーに敗れた日だ。ネイマールにとっては、この試合の落胆の方がずっと大きかった。

ブラジルは確かに前進していた。加えて、自国でW杯を勝ち取る責任感を負っておらず、ついにトロフィーを勝ち取るときがきた、とネイマールは思っていたはずだ。

だが、再び彼らは地に塗れた。新たに手にしたであろうチームの精神的な強さを試す初めての機会で、ロメル・ルカクらを封じることができず、1-2と敗れた。

「あれが僕のキャリアで一番悲しい瞬間だと言える」ネイマールはインスタグラムに投稿した。「僕らが頂点に立てると思っていたから、痛みはとても大きい」

「もっと上へ行ける・・・歴史を作れるチャンスだと思っていた。けどそれは今回じゃなかったみたいだ」

Neymar PSG 2022-23 GFXGetty/GOAL

そして、今回はどうだろうか? カタールW杯はネイマールにとって三度目の正直となるだろうか? それとも、ネイマールにとってW杯とは、ケガと演技に満ちた哀れな物語となる運命なのだろうか。

間違いなく、彼の業績はこのW杯で決まるだろう。ネイマールは自身がどのように記憶されるのかを決めるため、長い道のりを歩むことになる。おそらくネイマールは2026年には出場しないであろうことも覚えておかねばならない。ネイマールはまだ30歳だが、さらに4年間を代表活動に費やすつもりはないと、以前に『DAZN』で認めている。

「次が最後(のW杯)だと思う。フットボールとこれ以上向き合えるほど心の強さを保てるか分からないんだ」

この発言は驚くべきことではないだろう。このスポーツを皮肉なほど簡単にこなしてきたこの男は、ピッチ内外のトラブルを避けることには難儀してきた。

ファンの多くは、ネイマールの才能や奔放なライフスタイルに嫉妬するライバルに長らく付け狙われてきたと思っている。だが、批判する人たちは、彼が小心者であることと、認識の甘さが原因で自ら招いたことだと主張するだろう。

これこそが、ネイマールがこれまで10年間住み続けた、果てしない分裂の世界だ。こういった評価がネイマールを疲弊させてきたとしても不思議ではない。

だが、2014年W杯でスニガに大会を終了させられてしまったことについては、ほぼ全世界から同情の声が集まっていたことは特筆すべきだ。中立的なファンは、大会のスターを失ったことを嘆かずにはいられなかった。

だからこそ、4年後に準々決勝で、再び彼の背中を見ることになったときは皆喜んだ。だが、ネイマールが磨きをかけていたのはシミュレーションの技術だった。ありえない程の時間、痛そうにピッチを転げ回った。正確には14分間だった。

もちろん正当なファウルを受けることもあったが、その後には恥ずかしいほど大げさな芝居が演じられた。

元イングランド代表ストライカーは彼の振る舞いを「哀れだ」と表現し、メキシコのファン・カルロス・オソリオ監督は、これほど才能のあるフットボーラーが見苦しいやり方で審判を欺こうとしていることに「フットボール界の恥」と吐き捨てた。

「この競技のネガティブな側面だ。これは茶番だ」ともこぼした。

数週間後、ネイマールは反論し、自身の振る舞いについて説明した。

「僕のふくらはぎにはスパイク、背中には膝、脚には踏みつけが入る。僕が大げさに誇張していると思っているだろうし、実際、ときどき大げさにやっている。だが、僕がフィールド上で苦しんでいるのは事実だ」

「僕の中にはまだ子供がいる。あるときは世界を魅了し、あるときは世界を苛立たせるんだ。失礼な振る舞いをしてしまうのは、僕が甘やかされた子供だからじゃなくて、苛立ちをどう収めたらいいか分からないからなんだ」

「批判を受け入れるのに時間がかかったし、鏡を見て新しい自分に生まれ変わるのにも時間がかかった」

Neymar Brazil Belgium 2018 World Cup GFXGetty/GOAL

ネイマールは世界を演技で苛立たせてきたのは間違いない。それでも、カタールで挽回したいという気持ちがあるのは間違いないだろう。W杯優勝は子供の頃からの夢だ。それは同国の人たちにとっても同じはずである。

もちろん、ネイマールと他の人にとって、その夢には大きな違いがある。10代の頃サントスで頭角を現した瞬間から「ペレの後継者」として期待を背負ってきたネイマールにとって、W杯優勝は現実的な目標だったのだ。

「キング」の陰を追って生きるのは簡単なことではない。王冠は重いのだ。

3度W杯優勝を果たしたペレとの比較というプレッシャーは重かったものの、ネイマールは常にブラジルに結果をもたらしてきた。

実際、W杯中に代表歴代得点記録でペレを抜く可能性が十分あるのだ。ネイマールが記録に並ぶためには2ゴールが必要で、3得点すれば新記録を樹立できる。

おそらくチャンスは少なくないだろう。ブラジルは優勝候補の一角としてカタールに向かい、チッチ監督がロベルト・フィルミーノを連れてこなくてもよいほど、攻撃陣にはタレントがひしめいている。

もちろん、セレソンはロシアでも優勝候補だったが、2014年の傷が癒えていないことは明らかだった。あの1-7の敗戦を、今本当に乗り越えているのだろうか、とも思う。

8年間で様々な変化があったが、ブラジル代表の精神面の脆さには心配が残る。それは2021年コパ・アメリカで、自国でアルゼンチン代表と対戦したときにも明らかになった。代表のベストプレーヤーがそれを最も表現しているのではないだろうか。

ただ、ブラジルにとって好材料は、ネイマールの調子がよいことだ。久々にいい精神状態を保ち、フランスで間違いなく最高のフォームを維持している。

パリ・サンジェルマンは夏のうちにネイマールを手放したがっていたが、本人が移籍を拒否したという。W杯の数か月前に環境を変えるのを嫌ったのだ。それほどまでにネイマールにとってW杯は重要だった。自身と国、どちらを天秤にかけるべきかわかっていたのだ。

ネイマールにとって、今大会がW杯を掲げる最後のチャンスだ。だが、おそらくそれ以上に、彼の名声を取り戻す最後のチャンスとなる。

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