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父との約束「40歳まで現役でいる」。金崎夢生“無所属”だった半年とこれから

 約半年間の空白を経た新天地はJFLのヴェルスパ大分だった。J1で足跡を残し、日本代表でもプレー、ブンデスリーガでの経験も持つ。金崎夢生は昨季限りでJ3・FC琉球を契約満了し、その後の所属クラブは決まっていなかった。

 8月22日に加入が発表され9月3日にチームに合流すると、7日、JFL第19節・クリアソン新宿戦(1△1)に途中出場し、ヴェルスパデビューを飾る。続く、16日のブリオベッカ浦安戦(0△0)、22日のホーム・日田での沖縄SV戦(2△2)にも途中出場。チームは3試合ドローが続いているが、V大分のJ3昇格に向けての起爆剤となれるか。自身初となるJFLへの挑戦、自分がそこにいる意味とは? 話を聞いた。

■高校卒業から17年間走ってきて

以下に続く

「一度、自分の中で少し離れて過ごしてみようかな、と思いました」

 滝川第二高校を卒業し、18歳で大分トリニータに加入したのが2007年。今年でプロ18年目となる。金崎は今年2月、FC琉球との契約が終了したときに別のクラブからの誘いもあったというが、立ち止まることを選択した。「18歳からずっとプロ選手としてやってきて。ありがたいことにいろんなチームでいろんな経験をできて」と前置きしつつ言葉をつなげた。

「具体的になんでそうしたい(離れたい)のかとか、ハッキリは自分でも分からなかったんですけどね。ずっと一生懸命走ってきて1回ちょっと休憩、という表現になるのかな、それが近いのかなと思います」

 大分から名古屋グランパス、ニュルンベルク、ポルティモネンセ、鹿島アントラーズ、サガン鳥栖、二度目の名古屋、大分、そしてFC琉球。09年には日本代表に初招集され、15年にも再び名を連ねている。金崎といえば、勝利にこだわるあまり、監督とぶつかったり、ピッチ内で激昂したりする姿が記憶に残っているかもしれない。そんな彼も今年で35歳になった。空白の期間を振り返ることから、インタビューは始まった。

20240925mu-kanazaki-verspah-oita©VERSPAH OITA

——V大分の加入が発表されたのが8月22日です。約半年何をしていたのでしょうか?

 基本的には体を動かしながら、(加入の)話があれば自分の中でいつでもそのチャレンジができるようにはしていようと、コンディション調整はコバさん(木場克己トレーナー)はじめいろんな方にお世話になりながら続けていました。その中で(滝川第二高時代のチームメートである)落合(謙翔さん/CAPTAIN FIVE社長)と話す機会があって、落合がやっている『エフ・キャン』(地方の小学生を対象としたサッカー大会)にすごく興味が湧いたんですよ。この活動を自分も手伝えたらいいなと。

——具体的にはどういったことを?

 僕はゲストとして、サッカーを教えたり一緒にプレーしたりしました。(Jリーグの)チームに所属している時も、子どもたちとサッカーやって、サイン書いてといった経験はあったので、イベント的に子どもたちと触れ合うみたいな形を想像していたんです。『エフ・キャン』ももちろんそういうところもあるんですが、「真剣にサッカーやっている」そういう大会でした。真剣で真面目な部分と、楽しく遊ぶ部分、両方やっている場を初めて知りました。少しでも順位を上げるために、子どもたち、監督、コーチたちもすごく声を出して一生懸命やっている。バランスが取れているすごくいい大会だと思いました。

——金崎さんの存在は、子どもたちにどんな影響があったと思いますか?

 僕もサッカーをやっていて、例えばお風呂に入っていたりしていろいろ考えを巡らせていると、フト小さい頃の出来事がパッと思い出される時があるんですよ。「元々自分こういう性格だったよな」とか、「小学校の時こういうことがあったよな」とか、小さいころの経験ってすごく大きいと思っているんですよね。

 そういう経験をサッカー大会という形で一つ、小学生に与えてあげられることができたのかなとは思って。プロの選手と一緒にサッカーしたり、遠く離れたチームと試合したり、僕が小学生の時はあまりなかったので、今後の彼らたちにとっても大きいことなんじゃないのかなと思います。

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——この間、現役を続けるという思いはずっと持っていたのですか?

 そこは思っていました。親父と「40までやれ」っていう約束をしていたので。そこはもう必ずやろうと思っています。たまにオトンには笑いながら「もう辞めよっかな」とか言ってましたけど(笑)。

——トレーニングはどこで?

 コバさん(木場克己トレーナー)の亀戸のトレーニングスタジオを借りてそこで動かしたり、早稲田大学に練習参加させてもらったり。あと、品川CCっていう槙野(智章)くんが監督をやっているクラブがあって、そこにも練習参加させてもらいました。いろんなところをぐるぐる回りながらやっていました

■いい意味でヴェルスパにすごく裏切られた

 新天地・V大分の目標は「J3昇格」。24 日には2023年以降3回目となる「2025年J3クラブライセンス」交付の判定を受けた。観客数の課題は残るが、残り9節の段階で自動昇格圏の首位・高知ユナイテッドと勝ち点差15、入れ替え戦対象の2位・栃木シティと勝ち点差7でJFL5位。成績面で昇格の可能性がある順位につけている。

20240925mu-kanazaki-verspah-oita-training©VERSPAH OITA

——いろんなクラブからお声がかかったなかで、V大分が候補にあがった理由、経緯を教えてください。

 大分という土地は、自分がプロになった最初の場所で僕自身もすごく気に入っていました。プロ生活3年半ぐらいでしたけど、ずっと大分の印象はすごく良くて。

 琉球に入る前、トリニータに一度戻りました。そのときは半年で終わってしまうんですけど、いろんな感情がありました。いろいろありましたが、もう一度「この街でやりたい」といったような。トリニータを退団して父と話した時に、「JFLだけど、夢生がヴェルスパに入って、そこからJ3、J2、J1と上げていったら大分はすごく面白いことになるね」と、僕に一言そういう風に言ったんですよね。

 その時は「いや、そこまでして大分でやりたいと思わんわ」とか、なんかそういうことは言っていたんですけど、たまたまそういう会話をオトンとしていたんです。その後、琉球に行くんですが、父のその一言が自分の中に残っていて。ヴェルスパには仲のいい友達もいましたし、自分の中ではなんていうのか「気にしていたチーム」、そういう存在になっていたんです。

 知り合いがいたこともあって(今年夏に)練習参加したら、自分が思っていたよりもいい意味ですごく裏切られたんです。ヴェルスパの選手、スタッフ、監督も含めて現場が全員、上を、J3を目指して本当に一生懸命頑張っていた。3、4日ですけど練習参加した時にそれをすごく感じて、自分の中で「このチームでやりたい、このチームいいな」ってなっていったんですよ。

——お知り合いはどなたですか?

 福島新太(現・V大分強化部長)です。名古屋グランパスの時にも一緒にやっていたんですけど、同じ東海圏(出身)で小学校の頃から知っているずっと仲のいい存在で。彼の存在も、このクラブを選んだきっかけになります。

20240925shinta-fukushima-verspah-oita©️NVER.

——Jリーグではなく、JFLというカテゴリーは気にしなかったのですか?

 いや、僕の中でそれも当然ありました。「全くそのカテゴリーについて何も感じないです」っていうこともないので。だけど、どのカテゴリーであろうとやっていることが大事なんだということが、ここ数年で僕自身が感じてきた部分ではあって。ヴェルスパが取り組んでいる姿、取り組んでいることは本当に素晴らしかった。そこが僕にとって重要でした。

——加入発表のニュースはSNSで大きな反響がありました。

 僕、あまりSNSを見ないので正直分からなかったんですが、落合からちょっと聞いて、「そうなんだ」って。コメントがいくつかありましたが、唯一ちょっと気になったのは「トリニータじゃないんだ」というものです。

 トリニータサポーターは、ヴェルスパに入る時に気になる一つのことでした。トリニータのサポーターは僕にとってとても大事な存在です。そのことでちょっと嫌な思いをする人もいるのかなとは思ったんです。でも、僕は大分をヴェルスパから盛り上げていけたら、トリニータと一緒に盛り上げていけたらいいなという気持ちです。

——鹿島、名古屋、鳥栖サポーターからの応援のコメントもついていました。

 みんな本当にすごくお世話になったクラブです。彼らサポーターたちがいるJ1に頑張って行って、対戦してプレーするところを見てもらいたい。そういう舞台に上がれるように頑張りたいと思います。

——JFLに初めて臨まれます。どういったプレーがヴェルスパを強くすると思いますか?

 どのチームもそうだとは思うんですけど、やっぱり昇格、そこがもう一番だと思っています。ずっとJFLにいたいと思っている人は多分いないと思うので。そのためには何が必要かといえばやっぱり勝つことしかない。

 勝つサッカーとか楽しいサッカーとかいろいろありますが、勝つサッカーをやっていくべきだと思いますし、勝つためにはじゃあ何が必要なのかというところ。自分が少しでも力になれるように、選手や監督とも話しながらやっていけたらと思います。具体的にこういうプレーだとかはまだハッキリとは分からないですけど、現時点で僕が一番年上という話も聞いています。そういう意味ではプレーも含めてチームを引っ張っていく、「勝つんだ、勝ち点を取るんだ」という気持ちの面は最低限しっかり持ってやっていきたいです。

——ご自身がサッカー選手として最終的に目指されるものを教えてください。

 僕自身も選手として「夢生みたいな選手になりたい」と思ってもらえることももちろん嬉しいんですけど、どちらかっていうとチーム、自分がいるチームを褒めてもらえることのほうが嬉しいんですよ。だからそういうチームを作っていきたいんです。

「やっぱヴェルスパ大分いいよね」って。子どもにも大人にもみんなに思ってもらえる、そういうチームを作っていきたい。その中に自分も所属していることが一番の嬉しいことなんです。「ヴェルスパの試合面白いから見に行きたい」って週末を持ってもらえる。子どもも大人もみんなに「ヴェルスパの試合見に行こうよ」「ヴェルスパの試合見に行ったら元気出るし」とか、そういう風に思ってもらえるチームを作っていきたいなと思います。

【試合情報】

9月29日 14:00 V大分 vs レイラック滋賀(日田市陸上競技場)
公式HPはこちら

◎聞き手・文:吉村美千代(GOAL編集部)/取材日:8月29日

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